ポテトサラダ友情論

ひとくちに友人と言っても、大別するに3種類あると考えている。


先ずは1対1だと一番気が合い、楽しいタイプである。この型に嵌まる友情と言うのは大抵相互に補完し合う形になっていて、ともすれば真逆の人格を持った二人が当てはまり、大の仲良しということも珍しくない。ただし、双方が集団の中に属すと普段より少しだけ、しっくりこない。例えば明るく口数が多い人と、聞き上手で朴訥な語り口の人。二人でいる時は前者が喋り、後者が受け止めてしっかり返す。それでよいのだが大勢の中に放り込まれると少しおしゃべりが過ぎたり、受け止める時間が足りなかったりでどうもちぐはぐ。ポテトサラダで言えばきゅうりと玉ねぎの関係である。


次いで集団の中でこそ輝くタイプである。この型に嵌まる友情と言うのは、所謂ツッコミとボケの形になっている、または競争の起こりやすい類似する性質を持った形になっていることが多い。このタイプは劇場型の友情であって関係に観客を要求する。故に1対1になるとどうにも物足りない。二人がともにがんばるのだがそれが上滑りしてしまう。ポテトサラダで言えばじゃがいもときゅうりの関係だろうか。


最後にこれらの合いの子、いいとこどりともいえるタイプだ。つまり1対1でも集団のなかでもそつなく、楽しくやってしまう形の友情である。ここに属するためには互いが器用であることが必須要件で、大勢では喋りすぎたり、観客を要求したりという態度を持たないことも大切である。関係性が浅薄であるというように陰口を叩かれたりもするが、それについて他人が口をはさめることは少ない。ポテトサラダで言えばじゃがいもとベーコンの関係である。



さて、この中で親友はどれかと聞かれたとき、何と答えようか。恐らく1番と3番に回答が集中するように思う。私もなんとなく1番か3番かなぁと考えていたのだが、はたとじゃあ2番は違うのかと行き当る。2番にだって親友と呼びたい人がいるがそれは果たして許されるのかどうか。


1番の場合。きゅうりと玉ねぎはあまり類似していない。きゅうりはパリポリと高らかな音を響かせ明るい印象を受ける。翻って玉ねぎはシャリ…シャリ…とどうも地味だ。玉ねぎは人を泣かせるが、きゅうりは笑顔をもたらす、かどうかは分からないが、暗い顔できゅうりをかじる人を見たことがない。玉ねぎときゅうりはマリネにすると非常に美味しい。さっぱりした味付けにパリとシャリが絶妙なバランスを形成することからも仲の良さを確かめることが出来る。ところがポテトサラダになるとどうも噛み合っていない。きゅうりのパリがうるさい、邪魔だという人もいる(どうやらきゅうりを嫌う人参の差し金らしい)し、玉ねぎはいなくていいよなんて人もいる(しっかり箸で取りきったはずが玉ねぎだけずるずる伸びるんだよなーと人参が大声で吹聴していた)。しかしそれをさしおいても二人は親友であり、秘密なども打ち明け合う関係だと推察される。


3番の場合。じゃがいもとベーコンは学校のアイドルのようである。どちらもカーストのトップに君臨し、じゃがいもは野球部のエース、ベーコンは成績優秀、眉目秀麗。互いが互いの領分で努力しているのも知っているし、だからこそ認め合う、気の置けない仲間なのだ。二人の周りにはいつも輪が出来ていてにぎやかなのだが、帰る時はなんとなくみな遠慮して二人で帰るのが定番となっている。時に人参が強引に割って入ってくるときも決して雰囲気を乱さないのだが、それは二人の胆力あってのこと。正面切って言いはしないが親友である。


では2番、じゃがいもときゅうりはどうか。先の輪の中で一番喋っているのは実はこの二人なのである。ベーコンはそれを聞いてたまに混ぜっ返すだけで、基本的に誰より明るいきゅうりにじゃがいもが負けじと声を重ねる。笑いは輪の中に留まらず、教室(ポテトサラダ)全体に広がることも珍しくない。皆が認める名コンビであって、非常に仲がよさそうだ。ちなみに玉ねぎはというと殆ど喋らないが、輪の中で変わらずにこにこしている。


しかしこの二人、学校を離れて二人で遊んだことはない。じゃがいもはきゅうりをどう見ているのか。


「きゅうりですか?あいつは面白いやつっすよ。いつも馬鹿なことしてるし巻き込んでくるけどそれもあいつのいいとこって言うか…不満ですか?不満って言うよりまぁアレっすけど、あいつはあれで真面目なとこがあってそれを表に出さないんですよね。夏に冷やし中華にボランティア行ったりとかして。玉ねぎには見せてるみたいですけど、俺たちには見せてくれない。とにかく場を盛り上げようっていつも一生懸命で…それがあいつなりの流儀ってもんなのかもしれません。僕はそういうとこ尊敬してるし、尊重もしたいなって思ってますね。ッス。」


一方、きゅうりはといえば


「最高のパートナーですよ!俺と一緒に馬鹿やってくれるし、野球部のエースなのに気取ったところもない。あんないいやつ他にいますかって感じですね…だから不満とかはないです!ないですないです…まぁでも、そうですね。さっきも言いましたけど、あいつは野球部のエースで、俺とは違う人間だなぁとは思いますよ。だってあのカレーライスにまで行って注目選手だーなんて言われたりもしてますからね。だからこそ一緒に居たいって面もありますね、認められたいっつうか。そんなこと言えませんけど、あいつといると頑張り過ぎちゃうんですよね…いやでもほんと一緒に居て楽しいっす!あいつとベーコン目当てに聞き耳立ててる女子にもアピールしたりして(笑)」


という次第である。聞いての通り両者の間には、何らかの確執があるわけでもない。ただ二人の距離感、最適解がその集団の中にあるだけであって、1対1という状況での、どことなくぎこちない関係性がその最適解に何か悪い影響を与えるかと言えばそうではない。これを親友と呼べない理由がどこにあろうか。


最後に、1対1でも大勢の中でも、さして関係を深めることができない者もいるということも明記しておかねばならない。その多くは気分屋であって日和見主義的なところが散見される。上に挙げたポテトサラダの中にもその姿が見られるようだが、その名前まで明記するつもりはないし、その必要もないだろう。

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