テンサイト

klz

第1話「その名はテンサイト」

無理だ。これはこの物語を書こうと目論んだ自分が、ついつい発してしまった独り言のようなものだ。いや、あえて断言しよう。独り言だ。


というわけで、主人公は「私」ということになる。どうして抜擢されちゃうかなぁ。平凡な毎日など、この時代では大した意味を成さない。


すごい人はすごい。微妙な人は微妙。普通の人は普通。ダメなやつはダメだ。そういった格差社会は、差別だの騒ぐやつもいるけど正直どうでも良いじゃないか。


正直どうでも良いと思いながらも、特に反発運動なんかせず、一人暮らしを始めて適当に親の支配下から離脱して、のうのうと暮らしているのだ。私は。


私は文章を書くのが苦手だ。だから、解説のようになってしまうが、私にはこれといった才能はなくて、パソコンが好きで、適当にいじっていたら色々作れるようになった。という理由でWEBサイトや動画を作ったりを生業としている。


その腕前は、そこらへんにいるプロと同等だと思っている。(これはこれで私には才能があるのだろう。)


一般人と呼ばれる人が汗水垂らしてサラリーマンになるように、私はこのクリエイティビティでサラリーマンをしている。汗水は垂らさないが、頭は抱えることがある。


ということは、だ。私は私で一般人なのだ。結局。


で、私が発した「無理だ。」の正体をそろそろ伝えておきたい。わかるかな?私にはファッションセンスなど皆無なのだが、ファッション系のWEBデザインの制作の依頼が来てしまったのだ。絶望的だ。


しょうがないから、先人様が作った大手企業のファッションサイトを真似ようとするも惨敗だ。私には真似をするなんてことも出来ないのか。


ちくしょう……


そんな時に、私のスマホが部屋中に音楽をかき鳴らした。どうやらチャットアプリ『POINT』の通話機能を使って、古くからの友人が電話をかけてきたようだ。


「おっすー。いきなりごめんねー。今日暇だったりする?」


私はこう答えるしかなかった。


「暇です。行くぞ。飲みでもなんでも来い。」


フリーランスの特権と言えるだろう。先方には後で謝るとして。


「いやぁ、なんていうかさ。変な人がうちに突然来ちゃってさ……。助けてほしいんだよね。暇なら家に来てっ!」


えー。面倒くさそう……。


「大丈夫!?今から行くから待ってて!!」


この友人の家はそう遠くはない距離にある。私が一人暮らしを始めてから、追うように私の家の近くに越してきたのだから仕方がない。仕方がないのだ。


命の危険性は無さそうだなぁと思いながら、適当な持ち物を持って出発する。


変な人って何だよ。変人かよ。


私は入り慣れてしまった友人の部屋のドアを、おもむろに開けた。


「大丈夫かー?」


そこに立っていたのは、まさしく……変な人としか表現ができなかった。


なんというか、今まで見たことのないタイプだ。男性だけど、美形だけど、私が言うのも失礼だがファッションセンスの欠片もない。髪は何故か茶色のロングヘアー。私の人生では、見たこともない服装をしていた。


その男性は口を開けた。


「本当に来てくれたんだね。君の友達は優しいんだ。……初めまして。僕の名前はテンサイト。一言で言ってしまえば、天才なんだよね。僕は君達みたいな凡人を心から愛しているんだ。さぁ、君は彼女を救うことができるのかなぁ?」


何この人ぉおおおおお……!!!


私は何も声にすることが出来なかった。

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