好敵手

時掛⑶


死を覚悟した時掛だが、次の瞬間聞いたのは


「ぐっ」


という唸り声だった。


振り返ると諸刃の大剣をもった道義姿の巨体の男が自斎の胸を貫いた姿があった。


「貴様……何者だ…」


「名だけは教える。朱雀。それが俺の名だ。」


朱雀と名乗った男が力を入れると、自斎は消えた。


「何、奴…」


時掛は声を絞り出す。


「朱雀。聞いていたであろう。」


「俺を、どうするつもりだ…」


「どうもしない。いまでは俺とお前で力の差がありすぎる。勝っても面白くない。」


朱雀は背中に背負った鞘に大剣をしまうと、時掛に背を向け、歩き出した。

時掛は、ただただ立ちすくむことしかできなかった。





時掛は帰宅すると、廬山にあったことをありのままに話した。


「朱雀…知らんな、そんな凄腕の剣客がこんな時代にいるとは…しかも刺客通りのことを既に知っておるとは…剣客が斬った者に憑依しているやもしれぬぞ。」


「いずれにしても、奴が敵か味方をはっきりしないことには…」


「そうじゃな。」






次の日、高田は学校に来ていたが、えらく沈んでいた。

勧誘もしてこない。

あの時、やりすぎたかもな。

そんなことも思った。

授業は難なく終わり、傘刀を持って帰途についた。


今日は時間があるので一度家に帰ってから刺客通りに行こう。

そう思い、いつもと違う道を通って帰ろうとした。


すると、後ろに殺気を感じた。

すぐさま右によけ、傘刀に手をかける。

後ろには上下ジャージを着たポニーテールの女の人が立っていた。


手には白刃。


「何、奴。」


「やっぱ最近の刀は駄目じゃのう。ツーハンっちゅーもので買ったんだが、使い物にならん。」


女は刀を地面に捨て、鞘を青眼に構えた。


「来いや、中坊の剣客」


「刺客通りでこの女性を斬ったのか。」


「さあな」


この女からは強さを感じない。



勝てる。



そう確信した時掛は傘刀を抜かず、斬山の構えをした。

一発で仕留める。

時掛の鋭い眼光に女はほくそ笑み、鞘を強く握り直した。


勝負は一瞬。時掛は女を睨み直す。

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