狂気の沙汰

僕⑵


武道場が静寂に包まれた。

皆の視線は安藤に馬乗りになった僕に向かっている。


驚きと、軽蔑の視線である。


「大丈夫かっ安藤!」


すぐさま八木が安藤に駆け寄った。


「邪魔だっ」


八木は僕を蹴り飛ばし、安藤に語りかける。


「おいしっかりしろ!太田、先生呼んでこい。」


「は、はい!」


1年生の太田が走り出す。


安藤に意識はあるが、首を抑えている。

喋ることができないらしい。


(とんでもないことをしてしまった…)


僕は膝に載せていた手を地べたに置いた。


自然と涙が床に落ちた。


「なんの涙なんだよそれっ!」


八木が落ちていた僕の竹刀を拾い、僕の頬を一閃した。



かに見えたが僕は反射的にそれをよけ、その竹刀を奪って八木の額を突いた。


安藤の時ほどではないが八木もひっくり返る。

すると誰かが僕を後ろから羽交い締めにして抑えた。

僕は脱力し、その、誰かも分からない誰かに身を委ね、昏睡状態に陥った。


その誰かとは学校評議員でもある牧山廬山である。


(間違いない…今の眼、そして太刀筋は我が師で養父・牧山為山の殺人剣じゃった…わしや鳶のような活人剣よりもはるか上をいっておる…この坊主なら宮本武蔵、佐々木小次郎をはじめとする剣聖、剣豪を倒せるかもしれん。選ぶ弟子を間違えたか…)





その後、僕と安藤、八木は病院へ向かった。

八木の治療はすぐに終わったが、僕が目覚めたのは少し後だった。


「目が覚めたかい?」


目をうっすらと開けるとそこには小さい頃から診てもらっているかかりつけの医者がいた。


「は、はい」


「君が昏睡状態に入った理由はよく分からないが、多分防衛本能みたいなものだと思う。」


「あ、安藤は…」


「あの子の命に別条はないし、後遺症も残らないと思う。でも…完治するには1ヶ月はかかる。彼がいってた新人戦?には間に合わないね。」


「え…」


安藤がいなければ団体戦は負け確定といってもいいだろう。


「でもまあ、怪我負わせたのは紛れもない君だしね。僕が言うことでもないけど。先生と親御さん呼んでくるよ」


医者が席を立った。


(やっちゃったんだな…)


改めて自分のやったことの重大さに気がつく。


拳を強く握りしめた。

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