我々の生活を支える植物たち② 人間の胃袋は植物に守られてきた?

 さて前回は蚊取り線香の偉大さを語りましたが、今回は仏壇に立てる線香のお話。大日本だいにほん除虫菊じょちゅうぎくさんの宣伝をした前回に続き、今回は日本香堂にっぽんこうどうさんの回し者になってやろうと思います。


 お墓参りにお葬式にと何かと目にする機会の多い線香ですが、その素材としてよく使われるのが白檀びゃくだんです。

 白檀びゃくだんは最大で10㍍ほどに成長する木で、インドやインドネシアなどに生えています。他にもハワイやオーストラリアなどでも産出されますが、お香としてはインド産が最高級とされています。白檀びゃくだんの名前を知らない方でも、お線香の香りと言えば何となく想像出来るのではないでしょうか。

 高貴な香りからは想像も付きませんが、白檀びゃくだんは寄生植物です。しばらくは自力で成長していますが、成長するに従って他の木に寄生。寄生根きせいこんと呼ばれる根を使い、相手の根から養分を吸い取ってしまうそうです。


 燃やさずとも上品な香りを漂わせる白檀びゃくだんは、仏像や仏具の原料にも利用されてきました。最近ではサンダルウッドと言う名前で、アロマセラピーにも使われています。

 白檀びゃくだんの精油やお香には、心を穏やかにする働きがあると言います。科学的根拠のある話ではありませんが、一方で白檀びゃくだんの精油が淋病りんびょう膀胱ぼうこうやまいに用いられてきたのは事実です。


 医療に使われてきたと言えば、忘れてはならないのがアロエです。化粧品からヨーグルトまで、ドラッグストアの棚はアロエ入りの製品で溢れかえっています。すり傷や切り傷に、アロエの果肉を貼られた経験のある方も多いでしょう。

 古くから日本で育てられていたのはキダチアロエと言う種類で、軽い怪我や火傷やけどに効果があると言われています。また胃腸の働きを整える力も持ち、昔は「医者いらず」の別名で呼ばれていたそうです。


 一方、化粧品や食品に多く用いられているのが、アロエベラと言う種類です。アロエベラはキダチアロエよりも大型の種で、一枚の葉が二㌔にも三㌔にもなると言います。また寒さに強い前者に対し、温暖な環境を好むと言う違いがあります。ちなみに「ベラ」と言う言葉には、ラテン語で「真の」と言う意味があるそうです。


 実のところ、アロエの効果に付いては諸説あり、結論は出ていないと言います。反面、よく知られた怪我や火傷やけどに対する効果から血糖値を下げる働きまで、研究の対象になっている作用は多岐に渡ります。成分の一つであるアロエシンには抗菌作用があり、ある種の皮膚病に効果を発揮すると考えられているそうです。


 同じく抗菌作用を持つと言われるのが、七夕に欠かせない笹です。

 パンダのエサとしても有名なそれは、古くから防腐剤の代わりに使われてきました。笹寿司やちまきが笹の葉に巻かれているのは、食中毒を防ぐための知恵だとも言います。また青々とした葉をまとった姿は見た目にも美しく、爽やかな香りは食欲をそそってやみません。


 他にも柿の葉や、柏餅かしわもちを包むかしわの葉にも抗菌作用があると言います。日の丸弁当の中央を飾る梅干しが、ただの飾りでないのは有名な話です。

 またワサビにも菌の繁殖を抑える効果があり、最近ではその成分を使ったシートも販売されています。魚介類を使う寿司にワサビが使われるようになったのも、傷みやすい材料を守るための工夫だったのかも知れません。事実、寿司に酢飯を使う理由の一つには、米やネタが悪くなるのを防ぐ目的があったと言います。


 寿司と同じく魚介類を用いる刺身には、よく葉っぱのような飾りが添えられています。現在ではバランと呼ばれるシートが主流ですが、昔は本物の葉が利用されていました。

 使われていたのはスズラン亜科あかの植物で、その名も葉蘭はらんと言います。言わずもがなシートを指す「バラン」と言う単語は、「葉蘭はらん」から発生したものです。

 葉蘭はらんにもやはり抗菌作用があり、痛みやすい刺身を守る役割を果たしていたと言います。今でも一流の料亭や寿司屋では、本物の葉蘭はらんを採用しているそうです。


 シャリを作るのに欠かせないお酢も、元々は稲の実である米から醸造じょうぞうされたものです。江戸時代の寿司には酒粕さけかすから作った酢を使用していたそうですが、お酒の原料となるのもお米です。考えてみれば、人間の胃袋は多くの植物に守られてきたのかも知れません。

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