愛のある流刑地 (お題:愛、それは流刑地 必須要素:社会に対する不満)
「こんな愛の無い世界、存在する価値などない。壊さねばならない」
私が政府に逆らったのは、そんな思考からだった。「愛」と言う単語は昔拾った本に載っていたため知ってはいる。だが誰かが私に愛を向けてくれたと思えた日は今まで一度も無かった。
両親は私がいなくても良いような表情しかしない。職場の人とは話したことはない。妻はいつもスマートフォンに夢中だ。
周囲の愛の無い態度にイラつく私は日々、組み立ての仕事をして忘れた。とてもつらく投げ出したいが、これをやめればすべてのイライラが外に漏れてしまう。
……だがその仕事を医者から『貴方は左腕の病気を患いました。この仕事はお辞め下さい』と取り上げられた時、私の心は限界を迎えはじけた。その医者を動かなくなるまで殴ったのだ。
その後、裁判所での判決はとてもスムーズであった。
「被告人の罪は死刑には届かぬが、反省が無く社会には適さないと判断した。よってナガレ島へと追放とする」
ナガレ島は特殊な地脈によって電子機器が使えない孤島。そのため、今ではどの国家も手を出さない未開の地となっている。コンパスなどが効かず海流も特殊なため、二度と出られない流刑の地として有名だ。
「極悪人しかいないあの島で、誰にも知られる事なく朽ちていきなさい」
裁判長はそう言って、その裁判を閉廷させた。
「綺麗ね。こんな景色、祖国にはなかったわ」
「私の国にも無かったよ。こんな事ならもっと早く反逆をすればよかった」
ナガレ島は、本当に犯罪者以外何もない。真っ黒な汚染ガスも広がってないし無駄に巨大なビルも無い。人間の結婚や出産すら管理するロボットも、さぼったら殺されるような仕事も、見る事が義務となったタイムラインも、機械に心を壊した人間もいない。私は生まれて初めての自由を、初めての女友達と満喫している。
「他の人達もここに来ればいいのに」
「無理さ。彼らはロボットの思想を植え付けられている。私達のように、レジスタンスの本を読んで『愛』を覚えない限りはここに来たいと思わないさ」
「悲しいわね。何もない幸せを知らないまま死んでいくなんて」
「そうだな」
私と女友達との距離は、少しずつ縮まっているように感じる。もしかしたら、愛のある恋愛もできるかも知れない。
ある意味、あのカラクリ医者やロボット裁判長には感謝すべきかも知れない。私を必要のない人間と判断したおかげで、こんな愛にまみれた最高な日々を過ごせたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます