11話 魔族の双子魔術師少女に、俺のおもちゃをプレゼントしてもよいだろうか





前回までのあらすじ。



かわいい双子の魔術師が、俺を無視する。



あらすじおわり。




「で、おじい。フィスト家が仕える、新しい魔王様って、どこ?」


「皆無ぞ」



 クラーラとリーゼルは、まるでアイドルオーディションに挑む直前のように

 やる気をみなぎらせていた。



「わたしたちは、魔王様がわたしたちの魔術が見たいっていうから来たのよ?」


「トイレぞ? 魔王様も緊張ぞ?」


「まさか、このフィスト家の魔王よ?」



 だがこの双子魔術師、目の前にいる俺が、やっぱりどうやら眼中にないらしい!

 


「…………なっ」



 た、たのむ! 紹介してヨーハン!

 俺のこと早く紹介して!

 

 

 チラっ……



 あ、だめだ! ヨーハン、孫にすごいデレデレだ! 

 


 しばらくこれ、執事の爺ィは使い物にならんぞ! 



 ……しかたない。



「あのー……」



 魔族の双子少女が、初めて俺の存在に気づいたかのように、横目でこっちを見た。


 

「魔王の、フォースタス・フィストです。よろしくおねがいします……」



「は……?」



 名乗った俺を見るクラーラとリーゼルの肩が揺れ、



「おじい……? え、冗談……?」



「本当でございます。こちらが、『十二斂魔王トーナメント』にフィスト家代表として

 出場される魔王、フォースタス・フィスト様でございます」



「はぁああああッ!?」



 やっぱ普通はこうなっちゃうんだね……!!!!


 

「人間じゃん! サルじゃんッ!! そもそも、なんでこんなサルがここにいんの!?」


「絶句ぞ」



 うわぁ、かわいい双子に侮蔑の視線を向けられると、人ってこんな気持ちになるんだぁ……。



「行こ、リーゼル。ばかばかしい」


「帰宅ぞ」



 しかし、ここで引き下がることはできんのだ!



「ちょっとまったぁぁあああああッ!」



 特に、『子ども』には!! 



「……なによ」


「……なにぞ」



「俺、二人に渡したいものがあるんだ!」



「はぁ……?」



 俺は竹細工っぽい籠を、壁沿いの棚の上から手に取り、



「……【再構成リライト】!」



 簡単なおもちゃを、作り出す。



「これ、なんだけど」



 双子の魔族少女二人に、竹とんぼを一つずつ、差し出した。



「なにこのゴミ」


「クズぞ」



「ゴミでもクズでもない! 見てろ!」



 竹とんぼこそ、俺が子供の頃、おじいちゃんに教えてもらって初めて作ったおもちゃだった。



 俺は控室から空の見える屋外テラスに移動し、

 


 すぃふぃぃぃいいいん……っ



「どうだ!」



 ついてきた双子、クラーラとリーゼルに振り向いた。


 二人は、ひゅいーんと空に舞い上がり、ぽとりと床に落ちた竹とんぼに釘付けだった。



「……か、か、かしなさいっ!」


「よこせぞ」



 俺から懐かしおもちゃを奪い取った二人は、さっそく真似して空に飛ばそうとするが、



「お、おかしいわね」


「不満ぞ」



 竹とんぼは、へろへろと乱れ飛び、舞い上がらない。

 


「いいか、もういっかいやるから、よくみてろ」



 すっふぃぃぃいいいいいん……!



 俺は背筋もまっすぐ、自分を竹とんぼ飛ばしマシーンと化し、コツを伝授した。



「なるほどね」


「簡単ぞ」



 すふぃぃいいいいいんっ!

 ふぃああああああんんっ!



「みて! みてリーゼルっ! 私の方が飛んだわっ!」


「否ぞ、我のが華麗ぞ」



 広いテラスを、一本の竹とんぼを追い掛け走り回る双子の魔法少女。



 びゅぅぅいいいいいいん…っ!

 ひゅひゅひゅひゅひゅ……っ!


 

 しゅしゅしゅしゅしゅしゅ……っ!

 ぴゅいぃぃぃぃいいんんっ……っ!  

 


「ふぅ……はぁ……」


「……くっ、……くっ」



 やがて、かわいい双子は、前髪を汗でおでこにへばりつかせ、息も絶え絶え、

 涙目になってへたり込むように、床に座り、



「なにこれ、ちょーツマンナイんですけど」


「退屈ぞ」



「な、そうだろ? それ竹とんぼっつってな? これがなかなか奥が深……って、

 え? うそだろぉぉおおおッ!? ふたりとも、呼吸困難になるくらい笑いころげて、

 咳き込んで苦しさのあまりに、そうやって座り込んだんだろ!?」



「はぁ? 私たちが、いつ? いつそんなことした?」


「知らぬぞ」


「じゃあ返せ! 握りしめてるその竹とんぼ返せ!」


「いやよ!! これは学院のみんなに自慢するんだから!」


「鼻高々ぞ」


「く……っ、そんなに気に入ってくれたなんて、俺、すっごくうれしい……っ(びくびくっ)」



 だめだ、ニヤニヤとまらん。

 やっぱ、おもちゃではしゃぐ子供たち、サイコーです……!



「でも、そうね。フィスト家のものとして、サルからもらいっぱなしってのも、気分が悪いわ」


「最悪ぞ」


「代わりに、このクラーラ・フィスト食べかけのスコーンをさし上げるわ。感謝しなさい、ほら」


「至高ぞ」


「いらない! そんな至高のメニューはいらない!」



 俺は顔に食べかけスコーンを押し付けてくるクラーラ・スコーンを押し返し



「けど、もしリクエストしていいなら、俺に魔術を教えてくれないか?」


「はぁ?」


「面倒ぞ」


「もう一個ずつ、竹とんぼやるから」



「ちょ、ちょっと待ってなさい……?」



 クラーラとリーゼルは、俺に背を向け、



「(どうする!? リーゼルはどうしたらいいと思うっ!? これもう一個くれるって!)」

「(チャンスぞクラーラ。このタケトンボがあれば新学期、我々は学院のスターぞ)」

「(それしかないようね……)」

  


 振り返り、髪をなびかせた。



「仕方ないわね。特別よ?」










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勇者到着まで あと 69時間6分41秒

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