03話 おもちゃの魂を受け継いでもよいだろうか





 魔王。


 それは魔の王。


 ……魔ってなんだ? 


 まあいい。


 とにかく『魔王』が転生先なら、

 ファンタジー異世界でもゆっくりと子供達の喜ぶおもちゃ作りに没頭できるにちがいない。



  白ゴスの神様少女は続ける。



「すごいですよー? この『魔王』はですね、

 3日後に勇者に討伐されちゃうんですけど、

 その後何度でも城の玉座で復活して勇者のやり込み要素のためにレアアイテムをドリップし続けるんです」



「そんな救いの無いループものやだぁっ! しかも、レアアイテムをドリップ!? 

 ドリップってコーヒー作るときのやつだよね?

 どんだけレアなコーヒー豆なんだよ!

 というかなんで魔王が勇者を芳醇なホットコーヒーでお出迎えしなきゃなの!?

 どうぞごゆっくりかよ! ドロップ! アイテムを落とすのはドロップ!」



「富士雄さんの、そういうマメなツッコミ、好きです。コーヒーなだけに」 


「うるさいよー!」


「この魔王の特性スキルは【心魂契約(しんこんけいやく)】っていう、

 お願いを聞いてあげた相手の魂を奪えるっていうものなんですけど、

 でも、やっぱり上司のモラハラとパワハラに苦しんだ富士雄さんは【極限環境耐性】がいいですよね?」


「それってモッチーの心づかいだったの!? いや、いいからそういうの!」


 たしかに前世の死ぬ直前の俺だったら、すごい役立ちそうだが、

 モラパワに全部耐えると、ただの高性能社畜が完成しているだけのような気もする。


 だめ、我慢しすぎ。



 しかし魔王は【心魂契約】かー。


 魔王っぽいといえば、ぽいのか。


 わしの仲間になれば、世界の半分をおまえにやろう!(はい/いいえ)


 ……これだと結局、お願いきいてないけどな。


 そもそも相手のお願い聞いてあげなきゃなのが、めんどくさそうだが……、



「他の2択が地獄だから、選択の余地、なしなんだよな」



 俺はおもちゃの神にうんうんうなずき、



「モッチー、俺、『魔王』コースでお願いするよ。勇者が三日後に来るみたいだけど、

 元人間の俺が魔王だったんなら、なんとか説得して、仲良くしてみせるし」


「はいっ! 富士雄さんなら絶対に『魔王』を選ぶと思ってました!」


「じゃあなんで、あんなに危険な2択を最初に持って来た?」



 ともかく、俺は『魔王』になるようだった。



「さて、無事に転生先も決まったようですし、富士雄さんにはさらに、いくつかのスキルが授与されます」


「さっき言ってた【心魂契約】以外にか?」


「はい、転生先にあまりいいものを用意できなかったんですから、

 神としてはこれくらい当たり前です。

 それに、万が一にでも勇者を名乗る冒険者集団に対抗できなければ、

 魔王と言えども3日の命の運命ですし!」


「それ大事な……!」



 特殊なスキルと言えば、転生には必需品。


 桃から産まれし桃太郎が特性スキル【きびだんご】を持っていたように、俺も異世界に向けてしっかり準備したい。



「それに、これは富士雄さんだから得られるスキルなんです」


「俺だから?」


「これがなんだか、わかりますか?」



 足下に広がっていた白い雲が、いつの間にかテーブルになっていて、

 その上に見覚えのあるものが載せてあった。



「モッチー、これ、『だいまほうつかいステッキ』……?」


「富士雄さんが最初に企画したおもちゃです」



 それは、ヘッドに赤くて透明な火の玉のようなプラスチック製の玉が付いた、おもちゃの杖。


 ハ○ーポッターブームもあって、当時俺は子供の魔法使いごっこに最適な魔法の杖シリーズを提案したのだ。


 セットの中には水色の玉や黄色、紫といった、いろいろな魔法の玉が入っていて、

 付け替えることによって使える魔法も違う設定という、

 現代の錬金術士と名高い大学教授に取材までして作ったロマン武器だったのだが……



「でも結局、没になって、試作品すら作ってもらえなくて……」



 じゃあ、俺が今手にしているのは、なんだ……?



「富士雄さん、ここは天界です。作られなかったものも、魂があれば、みんなここに来るんです」


「モッチー……!」


「わたし、これで何度、大魔法使いになりきったことか」



 俺の夢見たおもちゃを振り回す、おもちゃの神。



「それじゃあ、こっちはなんだかわかります?」



 振り向いたモッチーが、右眼に装着していたのは、



「それは、『パパママ・おしえてスカウター』! すげえ、それって、そんなふうになるんだ……!」



 デザイナーさんを通してない俺の絵だったから、ドラ○ンボ○ル丸パクリ。

 モッチーが装備しているのは、あのスカウターをもうちょっと丸っこくしたようなやつで、



「それ、ただ付けるだけじゃないんだ。スカウターを付けた子供の見たままを、

 小型カメラで親のスマホ画面に送って、しかも会話もできるんだ。

 で、子供の目線で、子供が不思議に思ったものを、耳元でパパやママが教えてあげるんだ……」



 親子の新しい会話スタイルを考えた俺の企画。


 これはイケルと、勇んで書いた企画書。


 そのままシュレッダー行きですよ……。



「モッチー、そのスカウターの魂も、ここに来てたんだな……!」


「はい! そして最後にこれです」


「それ『なんでもMyひゃっか』じゃん!」



 できるハズだったのだ。


 型落ちタブレットの性能で充分。


 子供専用の頑丈なタブレットで身近なものの写真を撮って、

 それでどんどん自分だけの大図鑑を作って行くのだ。


 子供大百科系の出版社さんとコラボする話も出ていた。


 俺だけの夢だけど、ゆくゆくはスカウターとも連動させたかった。


 でも、実現直前で、これも没にされて……。



「富士雄さん。この子たちの魂を受け継ぐのはあなたです」


「……え?」



 三つのおもちゃは女神の手からゆっくりと浮かびあがり、俺目の前までやってくる。


 そして光り輝きながら、俺の胸の中に吸い込まれた。




「これで富士雄さんは、


『だいまほうつかいステッキ』から伝承級スキル【大魔力ブースト】を。


『パパ・ママおしえてスカウター』から同じく【情報化視界】、【強化索敵】、【天の声】を。


『なんでもMyひゃっか』からは【大百科エンサイクロペディア】のスキルを手に入れました」




「ありがとう、モッチー!」



 おもちゃの魂が俺の中に溶け込んでいく。


 さすが神様。


 さすが天界。


 うれしい! 俺は今、おもちゃと一体になったのだ……!!



「そして、これがわたしからの最後のプレゼントです」



 白ゴスの少女神は、俺の両手をつかんだ。

 さすが神。ぷにぷにあったかいぞ。



「富士雄さんが、異世界でもみんなをにっこりさせるようなおもちゃを、たくさん作れますように」



 モッチーの手から、俺の中になにかが流れ込んだ。



「今、富士雄さんの中に生まれたのは、幻想級スキル【玩具創造トイ・ファクター】です。

 それでたくさんの子供達に夢を与えてあげてください」


「……わかった。約束する。俺はぜったいに、異世界一のおもちゃ屋王になる」


 俺は照れるが、おもちゃの女神と見つめ合った。


 約束だった。




「では、転生先は2番でよかったんですよね」




「ぶっころすぞモッチィィィイッ!!」

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