第3話どうする?

「それで…。」


森野さんが喋り出す。


「それで、どうするの?」


「ああ。うん警察に行こうと思う」


「行って、どうするの?」


「見たこととか話す。だからもう大丈夫だよ、ありがとう」


なんとなく、気まずかったので森野さんと離れたかった。それに申し訳ないし…。


森野さんは、クンとあごを上に向けて、何か考えている。


長い髪が風になびいて、凄くキレイだ…。


「やめたほうがいい。」


「え?」


「やめたほうがいいよ」


「なんで?」


「多分スグには信じない。もし信じたとしても揉み消されたらもっとマズイ」


確かにそうだ、今の場合警察は敵だ。


「電話しなよ」


「へ?」


「家に電話して、向かえに来てもらいなよ」


信じてくれる味方の援軍が必要だ、と森野さんは言った。


私は、言われるとおり家に電話をした。


森野さんは、またさっきの上を向くポーズをしている。


電話の向こうのお母さんはギャーギャーと怒ってきた。


電話で全部は話せないので、負けないように「迎えに来て!」を連呼した。


やっと話しがつき、電話を切った。


今度こそ森野さんに礼を言って別れよう。


そう思い話しかけようとしたら…。


「行こう」


森野さんは歩きだした。


「行こうって、どこへ?」


「安全なところに行こう」


「大丈夫だよ。これ以上悪いよお…」


「ふたりでいたほうが安全に決まってる」


それは、そうだけど。


「迎えに来て貰うことになったし、ね?ホントに大丈夫だよ」


森野さんは、返事をしない。


不意に止まると、自転車のスタンドを立てた。


「ここがいい」


そう言いながら入って行ったのは、まばらに人が入っているファストフードだった。


森野さんて素っ気ないだけじゃなく結構強引だ。


でも…。


”やさしいな”


飲み物だけ買って席についた。


それから私は、ずっと「ゴメン」を連呼している。


「もういいよ」


森野さんは、気にする様子もなく辺りをキョロキョロ見ている。


「でも…」


実は謝りたいのは、今日の事だけじゃないのだ。


学校で私たちは、森野さんに結構ひどい事をした。


悪口も言ったし、シカトもした。


主犯の娘たちが、もっとムゴイ事をしているのを笑ってみていた。


そんな、私を森野さんは何も言わず助けてくれたのだ。


謝っても謝り切れない。


「私、森野さんに悪い事してるよね?」


「もういいって」


「いや、今日の事だけじゃなくて…学校とかで…」


少しキョトンとしてから、森野さんは、「あー」とうなずいた。


「それ?それも気にしてない」


「気にしてないの?」


「うん」


何で?聞くに聞けず黙ってしまった。


”それって辛い事じゃないの?”


「きっと人はさあ…」


森野さんが珍しく自分からしゃべりだす。


「何?」


「なろうと想えば、いじめっ子にもいじめられっ子にもなれるんだよ」


「なにそれ?」


「あの警察官だって、人殺しになったし」


「どういうこと?」


「つまり、なりたいと想えば何にでもなれる。仲良くなりたいと想えばそれもできる」


「何にでも?どんなことでも?」


「そう、飛ぼうと想えば空も飛べる」


「空も?」


吹き出しそうになってしまった!


そんな私を見て森野さんもしまった顔をしている。


こんなカワイイ森野さん初めて見た!攻めドコロだ!


「飛べるかな?」


「多分……」


森野さんは、真っ赤になってうつむいている。


カワイイ!!


それに…。


なんかイイ!


強がりかも知れないけど、スゴク前向きだ。


”仲良くなりたいな…”


そう想った。


「森野さん!携帯とか…、メアド教えてよ!」


「使わないから」


「今度、遊ぼうよ!カラオケとか!」


「そういうのは…」


あっという間に、いつもの森野さんに戻ってしまった…。


急激に自信を無くした。


その時、窓の外に見慣れたワゴン車が止まるのが見えた。


「あっお母さん!」


私が言ったのを聞いて森野さんも外を見た。


よかった。そういえば今、結構アブナイ状態だったんだ。


「森野さん!帰ろう?送って行くよ!」


森野さんは何も応えずに外を見ている。


「森野さん?」


少し伏せた大きな目を、ゆっくりと入口へ移した。


私も、その視線を追うように振り返った。



ヤツだ……。



タイミングを合わせるように、携帯の着信が鳴った。きっとお母さんだ。


その音に反応して、ヤツがこっちを見た。


笑いをこらえたようなムカつく顔で近付いてくる。


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