4.かわいいフィルター

「では、続いての流行チェックニュースの時間です。今日は巷で人気の『かわいいフィルター』について街角アンケートをとってきました。それでは、ご覧ください」

「こんにちは。あなたは最近、流行ってる『かわいいフィルター』ってご存知ですか」

「あ、知ってます。私も使ってますよ」

「そうなんですね。使い心地はどうですか」

「これ、すごく便利ですよ。コンタクトの容量で目の中に入れるだけで、見る物が全部かわいく見えるんです」

「そうなんですね。じゃあ、これもかわいく見えますか」インタビュアは生きた蛙を手渡した。

「すごく、かわいいです」女子高生は顔色一つ変えずに笑顔で答えた。

「じゃあ、次にこれはどうですか」インタビュアは上着を脱いで無地の白いTシャツを見せた。

「すごくかわいいです」

「これも、かわいく見えるんですね。そのフィルターは凄いですね」

「はい。何でもかわいく見えます」

「そうなんですね。それじゃあ、最後に、フィルターを外してもう一度、同じ物を見てもらってもいいですか」

「それは、無理です」

「どうしてですか」

「フィルター無しでは、この汚い世界に目を向ける事は出来ないです。みんなフィルターをして自分の心を誤魔化しているんです」

インタビュアの頭の中に一つの疑問が出てきた。

「勿体無いな。世界は君が思ってる程、汚くないけどな。失礼ですが、最近、フィルター無しで鏡を見たことありますか」

「そんな事、恐ろしくてやった事ないですよ。朝起きてすぐ、フィルターをかけますもん。それでは、先を急ぐので失礼します」女子高生は急ぎ足でその場を後にした。

「いつか、自分の本当の可愛さに気づけたらいいな」インタビュアは女子高生の後ろ姿を見つめた。


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