3話『冒険者』

 俺たちは交代交代で見回りをし、ついにその日を迎えた。

 既に周辺は明るくなっていて、朝日も昇りつつある。


 時刻は五の刻。

 《鉄壁の要塞ギルド》が《銅の券ブロンズ・チケット》配布会を行うのは、六の刻。あと一刻間程だ。


 数刻間程前に俺たちは場所を魔導結界の前に移していた。

 先月と同様、深夜に刺客がやって来ると思われたが結局刺客は現れなかった。


「どうやら、取り越し苦労だったかな?」


 ライルがここ数日の生活でボサボサになった髪を整えながらそうぼやいた。


「まだ、後一刻間ある。最後まで気は抜けない」


「そうだね。ただ、その刺客以外にも注意しなきゃっ」


 ライルがそう注意を促した瞬間--


 --空から、大剣が降ってきた。


 俺たちは左右に飛び退きその攻撃を回避する。


「さっきから正面陣取りやがって!ふざけんな!」


 先程俺達が立っていた場所には大剣を手にした屈強そうな男がいた。

 男の怒りはごもっともだが、俺も引くわけにはいかない。


「ここは冒険者の町だ。欲しいものは自分で手に入れる。そうだろ?」


 俺が挑発するように返すと、男は見る見るうちに体を震わせて、怒りをあらわにした。


「フッならここで俺様にやられても、文句は言えねぇなぁぁぁあああ!」


 そう言いながら屈強な男は大剣を背負い、こちらに駆けてくる。


 あの大剣は確か☆3武器の《業炎の剛剣フレイム・ブレイド》だったはずだ。☆3の武器からは属性攻撃が付くから、俺の☆2武器の《灰の短剣グレー・ダガー》では溶かされて終わりだ。

 しかし、男が身につけているのは☆2防具の《固岩の銅当てロック・アーマー》だ。

 こっちなら俺のダガーでも通る!


 取り合えず初撃は回避に徹して隙をついて攻撃する!


 --っ!


 目を凝らし、男の初撃を寸前の所で回避する。

 大剣から描かれる炎の軌跡により、俺の黒髪が何本か焼き斬れる。


 一瞬の隙。


 男が大検を構え直すまでの数秒の間。

 その間に一気に男の懐に飛び込む。


 一閃--


 --放つはずだった。


 俺の一閃が放たれる前に既に男は倒れて気絶していた。


「リビ囮役ありがとう。お陰で楽に倒せたよ」


 そこには、斧--☆5武器の《最後の星屑エンド・スターダスト》を持ったライルがいた。


「囮役なんてやってたつもりはなかったけどな」


「そうなのかい? ま、楽に倒せたから良しとしようよ」


「お前の少し天然な所、たまにちょっとイラッと来るよ……」


「?」


 そんな感じで俺たちは魔導結界に近寄ってきた冒険者を片っ端から気絶させていった。


「それにしてもやっぱ☆5武器はすごいな。俺も一つでいいから欲しいよ」


「僕が持ってる《最後の星屑エンド・スターダスト》は無名シリーズだから、☆5の中でも能力値が大分低いけどね」


「確か、☆5の中でも上位の武器はカラーシリーズって言われているんだっけか?」


「そうだね。正確には赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七つの色が入った武器がカラーシリーズって言って、大当りって言われているね」


「☆3すら当てた事のない俺には遠すぎる話だわ」


 そんな会話をしていたら、ついに待ちに待った時間になった。


『時刻は六の刻になりました。只今より、《銅の券ブロンズ・チケット》配布会を開催いたします』


 《鉄壁の要塞ギルド》第四ゲートからのアナウンスと共に、魔導結界が解除される。

 それと同時に俺達も走り出す。


「なっ!まだこんなにいたのか!」


 俺達が走り出したと同時に何人もの冒険者がいろいろな所から飛び出て来た。

 あるものは土の中から、あるものは空から、あるものは建物の隙間から、その数ざっと五十人程か。

 既に俺達も何人かに抜かれてしまっている。


 --負けるか!


 俺が更にスピードをあげようとした瞬間、そいつは空から降ってきた。


 先頭にいた数人が音もなく倒れている。

 何が起こったのかもわからないまま、その場にいた冒険者全員が倒れていた。



 その中で一人、黒いローブを被った存在だけが怪しげに佇んでいた。

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