ショー・マスト・ゴー・オン――FINAL
――北海道の一部と千葉を含む世界は滅び、ゾンビの汁まみれになったものの、四次元大魔王との戦いに勝利した私たちの芝居の幕は上がり続けている。
舞台上では最後の台詞がつぶやかれたところだった。ゾンビの残骸が飛び散り、幕のなくなった舞台袖で、私はほっと安堵の息をついた。
「劇団
この劇場以外の世界は滅び、役者たちは本当に親の死に目に会えなかったが、彼らはこの芝居を最後まで演じ切った。そして、舞台監督である私も、ようやくこの芝居の幕を下ろすときがやってきたのだ――。
「
そのとき、舞台装置担当のスタッフが慌てたようにやってきて――ゾンビの汁ですっ転んだ。
「痛っ……わ、何ですかこれ」
「……ゾンビの残骸だ」
「ゾンビ? 何ですか、それ……って、それどころじゃないです! 芝居が終わったのに、下ろす幕がないんです!」
どうしましょう、焦るスタッフに、私は、
「幕は四次元大魔王を倒すのに使ったからな……」
そう言って皮肉な笑みを浮かべると、舞台袖から役者たちを見た。共にこの舞台を乗り切った彼らと視線を交わす。そして、うなずき合う。
「え? 何ですか? どうするんですか、
おろおろするスタッフを尻目に、役者たちは再び始まりの台詞を言う。それに気づいた照明と音響のオペレーターが、最初の場面の光と音をつくる。
「ま、まさか、これって……!」
「そうだ」
私はゆっくりとうなずいた。
劇場の壁は剥がれ、椅子が散らばった客席。世界は我々を残して滅びゆき、もう観客でさえ息をしている者は誰もいない。
――しかし、それでも我々が生きている限り。
The show must go on――下ろす幕がないのなら、我々は永遠に芝居を続ければいいのである――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます