百物語

「じゃあ、俺も怖い話を一つ、な」


 蚊取り線香の匂いが漂い、鈴虫の声が聞こえてくる真夏の夜。蝋燭ろうそくの明かりだけが揺れる部屋で、一人の男が口を開いた。


「ニワトリ、いるだろ? 卵を産むやつ」

「ああ」


 どんな怖い話だろうと、集まった男女が息を止め、耳を澄ます。男は皆の顔を見渡して、


「いまのニワトリはな、人間がつくりだした品種なんだ。卵を産むように、肉が軟らかくなるように、改良に改良を重ねられた……」


 動物の霊の恨みか――皆の期待が高まる。すると男は、


「だから、あいつらは農協の配合エサを食べないと卵が産めない体になっちまったんだ。自然のエサじゃダメなんだ、ミミズや、青草じゃな。どうだ、怖い話だろう」


 そう言って、ふっと蝋燭の炎を吹き消した。それは一つの怪談が終わった合図だったが、皆は釈然としない気持ちで互いに顔を見合わせた。


 配合エサじゃないと卵を産まないニワトリ――それはよく考えれば怖い話ではある。けれど、何もこの場でする話じゃなかったんじゃないか、というのが、皆の共通した見解であったのだ。

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