テトラポッド屋さん

 町のテトラポッド屋さんに、麦わらを被った男が入ってきた。


「はい、いらっしゃい」


 店主の挨拶に、男は店内を見渡して、


「テトラポッド一つ、下さい」

「はいよ。一つでいいのかい?」

「はい、一つ」

「いまならテトラポッド三つお買い上げで、一つおまけがつくけど?」


 店主の笑顔に、男はうーんと腕組みをして、


「いやあ、でも軽トラに乗らないから。一つでお願いします」

「はいよ。……母ちゃん、テトラポッド一つ出たよ」

「はいはーい。じゃ、ちょっと乗せるのを手伝いましょうかね」


 店主の奥さんが、表のフォークリフトを華麗に操る。


「あ、ありがとうございます」

「毎度あり」


 男の軽トラが去って行く。と、通りかかったカップルが。


「あ、テトラポッド屋さん。一つ買っていきましょうよ」

「いらっしゃいませ。いまならテトラポッド三つお買い上げで、一つおまけがつきますよ」

「ええー、お得じゃん。どうしよっかなあ……」



 セミの声が響く、暑い夏。


 テトラポッド屋のシーズンは、まさにこれからである――。

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