美しく汚れた街
「ううん、やっぱり違うなあ……」
焼け残ったメモリーチップの画像を頭部スクリーン再生しながら、一体のロボットがつぶやいた。
「うん、どこかが違うなあ」
「見た目は同じようだというのに、一体どこが違うのだろう」
ほかのロボットたちも電子回路の末端まで電気を通し、その原因を探った。
彼らの目の前には、町があった。お世辞にも綺麗とは言えない、ごみごみとした町である。それはメモリーチップに保存されていた画像通りに、ロボットたちが復元したものだった。落ちているチリ一つまで、同じ位置に。
「……画像との差異は0%だな」
再びロボットがつぶやいた。そして気を取り直したように、
「つまり、我々は人間の町の復元に成功した、そう言っていいんではないだろうか」
「いや、しかし……やはりどこか違わないか?」
すると、別のロボットがつぶやいた。それに応えて、また別のロボットが、
「そうだな、100年前、我々が見た人間の町はもっとこう――生き生きとしていたんじゃないか?」
「人工生命の我々では、町が生き生きしないとでもいうのか?」
「いや、別にそういうわけでは……」
ロボットたちは再び黙りこくった。
人間が滅亡したのは、いまからおよそ100年前。未知のウイルスが生き物であった彼らを襲ったのだ。
しかし、生き物ではなかったロボットたちは生き残った。生き残るという表現が間違っているなら、動き続けた、と言ってもいい。
主をなくし、自由になった彼らは、人間の代わりに社会を構成する種となった。そして、人間が滅びて100年目の今年、彼らを偲び、当時の町を復元しようと試みたのだ。
ややあって、一体のロボットが口を開いた。
「……まあ、しかし、差異は0%なんだ。これ以上できることはあるまい」
「そうだな。雰囲気だけでも味わえればいいとするか」
もう一体が賛同すると、ほかの面々もうなずいた。
「ああ、今日はもう引き上げよう。言ったっけ? 俺、いま、かみさんと子作りしてるんだ」
「お、いいね。何型? A-1094が最新モデルなんだろ?」
口々に言い合い、彼らは町から去って行く。
ロボットたちをこの世に産みだした、人間という生き物。彼らが泣き、笑い、生活を営んでいた場所は、もう二度と生き返ることはないのだった。
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タイトル「美しく汚れた街」は山居中次さんからリクエストいただきました。
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