背広の似合う山崎と、背広が似合わない佐藤

 スーツ専門店に、二人の新入社員が入ってきた。一人は背広の似合う山崎で、もう一人は背広が似合わない佐藤である。


「社長、これはどういうことですか!」


 研修が終わり、配属先が掲示された直後だった。背広の似合う山崎が、背広が似合わない佐藤を従えて社長室に怒鳴り込んだ。


「こんな人事、納得がいきません! 背広の似合う俺が裏方で、似合わないこいつが接客なんて! 俺が接客したほうが、売り上げは伸びるはずです! だって、俺のほうが背広が似合ってるんですから!」


 そう言うと、血走った目で縮こまった佐藤を睨む。社長はそんな二人を見比べ、ゆっくりと口を開いた。


「山崎くん。君は確かに背広が似合う。どんなモデルや俳優であっても、君の着こなしには敵わないだろう」


「そ、それならなぜ!」


 食いかかる山崎。社長はそれをなだめるように、


「しかし、考えてもみてくれたまえ。背広が似合いすぎる山崎くんが接客に出たとして、お客さんは購買意欲をそそられるだろうか? 君よりも背広が似合う男はいないというのに?」


「そ、それは……」


「だから、私は背広が似合わない佐藤くんに、接客を任せることにしたのだよ。……どうだい、私の考えは間違っているかね」


 優しくうなずく社長。背広の似合う山崎は膝から崩れ落ちた。


「そんな……俺が……俺が背広が似合いすぎるばっかりに……うっうううっ……」


「運命は時に残酷だな。君のように背広を愛する人間が、背広を売ることができないなど……」


「うううっ、社長……」


 男泣きする、背広の似合う山崎。その肩を抱く社長。


 その暑苦しい光景を眺めながら、背広が似合わない佐藤は、己の存在意義をぼんやりと模索していた。

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