死に場所
死に場所を求めて、俺は重い体を引きずっていた。
息をするたび、肺がぎゅうぎゅう痛んで、吐くものなどないというのに吐き気が止まらない。背骨が痛い。一歩踏み出すたびに、次の一歩が最後なんじゃないかと思うほど痛みは激しく、目の前は暗く霞んでいる。
けれど――それでも前へ。
俺は進み続ける。歯を食いしばり、地面を踏みしめ、這うように歩き続ける。
少しでも、遠くへ。
本能がそう告げている。その声は絶対だ。だから俺は行かなけりゃならねえ。心地良い家を後にして、世話になったあいつを置いて。
あいつはきっと悲しむだろう。そんなことはわかっている。
けれど、別れは済ませてきた。あいつもそれくらいわかるはずだ。俺たちは言葉なんか交わさなくても、わかり合える仲なんだ。なあ、そうだろう?
けど――もうそろそろ限界だ。
前々から当たりをつけておいた場所へ潜り込む。ここなら、誰にも見つからない。あいつに迷惑もかからない。だから、俺も安心して逝ける。
じゃあな、楽しかったぜ。いつかまた、虹の橋で会おうな――――
+
ある冷たい朝、塀と塀の間の狭い隙間に、ぼろきれのような毛皮が挟まるようにして死んでいた。
彼はこの町の誰かの飼い猫。
そして、いまは虹の橋で飼い主を待つ、一生を幸せに過ごした魂でもあった。
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