やゆよらりるれろわをん

山田博士の誕生日

「お母さん! 今日、ロボタはどうしたの! 起こしてくれないから、学校に遅れちゃうじゃない!」


 少女が部屋から飛び出すと、キッチンでは黒煙が上がっていた。そこでは少女の母親が、


「ロボタは今日いないって、昨日言ったじゃない! ロビンがいないとそんなことも覚えてられないの?」


 叫びながら、黒焦げの目玉焼きを皿に移している。


「おい、そんなことより、俺のカバンはどこにある! 今朝はロベルがいないから、自分で車も運転しないといけないというのに……!」


 トランクス一丁のまま、父親がパニックになっている。


「ねえ、誰もゆりかごを揺らさないから、ゆうちゃんが泣き止まないよ」


 弟がブツブツとつぶやく。ボン、大きな音がして、隣の家の屋根が吹っ飛ぶ。


「あらやだ、ガスの使い方、間違えたのかしら」


 と、母親。よそ見をするうちに、今度はベーコンの脂に火が点いている。



 いつもはのんびり平和な町に訪れた、慌ただしい一日。今日ばかりは警察も消防も人手を募り、町の安全に尽力している。


 なぜなら、今日はロボットたちの産みの親、山田博士の誕生日。


 一家に三台は常備され、料理に洗濯、車の運転、果ては目覚まし時計の役さえする彼らも、今日この日だけは彼の記憶をチップから引き出し、いまは亡き産みの親との思い出に浸ることを許されているのである。

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