私、死んだみたいなんですけど
彼は霊媒師を商売にしている男だった。見えない霊を見えると言い、大切な人を亡くした人間からお金を取る。手っ取り早く言えば、詐欺師ってやつだ。
『良心とか、痛まないの?』
彼に泣いて感謝する遺族を見て、一度、そう言ったことがある。私がそのとき食べてたアイスクリームも、部屋に不似合いな大きいテレビも彼に買ってもらったものだから、本当は言えた義理じゃない。だけど、悲しみにつけ込んでお金を取る彼に、私は常々疑問を抱いていた。
『ミーコにはわかんねえよ』
すると、彼は言った。
『オレがしてることは詐欺じゃねえし、見えるもんは見えるんだし』
『見えるって、なにが?』
『霊だよ。決まってるだろ。あいつらの冷たい手と遺族の手が、オレを通して結ばれる。どっちかといや、慈善事業だぜ、これは』
大まじめに言われて、聞かなきゃ良かった、と私は思った。なぜって、霊感があると聞かされるよりは、詐欺師だって告白されるほうがずっといい。小学校の時、自称「霊感のある女子」につきまとわれた経験から、私はそういう類いの話が大っ嫌いなのだ。
『ってか、霊の手が冷たいとか、本気? 見えもしないものに
バカにして言うと、
『だから、お前にはわかんねえって。いいか、お前には見えないから触れない。オレには見えるから触れる。それだけだ』
そのとき私は、毛頭、彼を信じる気はなかった。けれど、いま。いま、私は彼の言葉をやっと信じることができたのだ。
「ミーコ……」
だって、彼は私を見ている。私の名をつぶやいている。
「どうしたの?」
つい三日前までは私の場所だった彼の隣で、裸の女が首をかしげている。
「私はカナよ。他の女の名前なんて、出さないでくれる?」
そう言って、色っぽく笑う。そうしてから、
「それとも、前の彼女さんの幽霊でも見えた? 交通事故だったんでしょ? お気の毒に……」
「あ、ああ……」
彼の目が見開かれる。幽霊など見慣れているはずなのに、そんなに私は醜くなってしまったのだろうか。トラックに轢かれ、肉片になってしまった私は……。
私は少し悲しく思いながら、彼の喉に手をかけた。
見えるものは触れる――そう言った彼の言葉を確かめるために、それから私が死んで間もないというのに女をこの部屋に連れ込んだ彼に制裁を与えるために。
ひんやりと冷たい私の手を、彼は感じただろうか。そこに何もいないにも関わらず、彼の喉に浮き上がっていく手の形のアザに気づき、カナという女が悲鳴を上げた。
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