どこかで起きていたらしい
永若オソカ
半分に分ける話
こんにちは。あなたのお手紙を読んで、いてもたってもいられずにお返事を書いています。
たいへん困っています。文面から切羽詰まった感情が伝わってきました。
人魚を人とみるか魚とみるか。難しい問題です。いざ、考えてみると、悩みます。
あなたが意見を求めてきたので私なりの考えを書かせてもらいます。お願いします。
例えば人魚を半分に、つまり人の上半身と魚の下半身を分離します。応急に措置をとったおかげでかろうじて助かったとして、果たして魂はどちらに宿るのやら。
私は、人間の部分が大事だと思います。人魚って、人と魚の半分を合体じゃないですか。そして、人魚の上は人間です。
でも、切り離しても、人魚は人魚で、下半身のない人間ではないじゃないですか。無理に分類しなくてもいいのではないかと思います。世の中には、あいまいにしておいたほうが良かったこともあります。
真っ二つで思い出しました。
私が住んでいる町に、落雷によって縦半分を失った木があります。半身がなくなっても桜の花を咲かせます。まだ春の来ない寒い時期なのに。
この木には秘密があって、なんとその周辺で動物の死体を頻繁に見かけるのです。特に目立った傷はないので寿命です。ためしに触るとつかめます。だから本物です。嘘じゃないです。
女の人が教えてくれるのです。
やっぱり顔はわかりません。話しかけてもなにも言いません。その代わり私に気づくと、すっと亡骸のある方向を指差すのです。
だから私はその人の代わりに埋葬します。なんだか、その人はできないような気がしたので。こういう感覚には従うようにしています。
この人はなぞだから、いつも右の姿しか見えません。それに半分の木の周囲でしか会いません。なぞです。だからせめて、笑っているといいな。怒った顔は怖いから。
左の話をします。私はまだ気づきません。しゃべったから、印象に残っていたのです。
なわ、とって。
そう言いました。苦しいから、息ができないから、だから取って、と。心細い声でした。
でも、その人にはなにも巻きついていません。私は余計に見えるけど、本当のものが見えないなんてありません。
あとそれと、何も指していないのです。いつもなら、あっちと教えてくれるのに。聞いたのに、どこに行けばいいか知りたかったのに、その人はなわを取ってとしかいいません。
なにもしないで帰りました。
次の左で、わたらないでと言いました。私はこれから橋を渡る予定で、だから遠回りをしました。翌日私の町で交通事故が起こりました。よって遠回りの意味はなかったのです。
ようやく左向きの意味がわかりました。だから私は女の人が左の時は避けるようにしています。もうしわけないので。ごめんなさいは受け入れてもらえないので。
霊感のある友達に女性について聞いてみると「あそこの木はしょっちゅう人が首を吊っているから近づかないようにしている」と言っていました。
私は一度も首を吊った人なんて見てなくて、けっこう人が行き交う場所なのに首吊り禁止の貼り紙も対策もないです。じゃあ、首を吊ったゆうれい?「しょっちゅう」だからみんなバラバラ?首を吊りたくなる人がその木を選んでいる?
よかったらこの話もラジヲのネタに提供します。これ以上の詳細は伝えません。信じるかどうかはあなた次第です。
それでは、また。
●月△日
とく名希望
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