「誰も働かなくていい未来のためなら、ボクはいくらだって働くよお」

「もしもし、名塚なつかチャン。元気してる?」


『…………』


「なんだよ、つれないなぁ。今日は無口キャラって感じかい?」


『…………』


「しかし、名塚チャン呼びは、どうにも兄君と紛らわしいねぇ。名前で呼んでもいいかい、■チャン」


『…………』


「いやぁ、兄妹水入らずの専用回線を割ったの、たしかにボクが悪かったけど、そんな黙りこまなくてもさぁ。にしても、こちらの声に対して的確にノイズ入れてくるね、■チャン」


『…………』


「名前呼ばれるの苦手なのは分かるけど、まぁ大事にしたまえよ。ボクもさ、乃音のねなんて名前で生きてるからさぁ、ローマ字表記だと難儀なことも多いけど、それも含めての人生だからねぇ」


『…………』


「ああ、そういえば。キミの兄君、ちょっとお金に困ってるみたいだよ。このままだと、■チャンの入院費、賄えなくなったりして」


『…………』


「そうそう、これはまた全然関係のない話なんだけどね。明日あたり、ベンチャー会社でも立ちあげようかなって気分なんだけど、一口乗らない?」


『…………』


「良い儲け話だと思うんだけどなぁ。ほら、前にキミから着想を得たコンテナの話、あれをビジネス化しようと思ってね。わくわくしない?」


『…………』


「うーむ。たいがい独りよがりのボクも、ここまで反応無いと喋りづらいね。どのキミかも分からないし。

 分かった、もう、こちらからは連絡取らない。せいぜいキミのうちの一人でもさぁ、箱の外へ出たくなるように、世界を変えてみせるよ。じゃあねぇ」


『…………』


 ~~~


「また、やっちゃったかなぁ、ボクは。……お。

 おーい、やぁやぁアリスちゃん。今日も良い毛並みをしているね、元気してたぁ?」


「…………」


「恥を忍んで打ち明けるとさぁ。ここのところフラれてばかりの日々で、さすがに堪えちゃうよ、うん」


「…………」


「しょうがないから、寂しさを紛らわせるためにね。ベンチャー立ちあげようと思いたってさ」


「…………」


「いやいや、もうプラネタリムはやらないよ。あの上映装置は相応に強い夢見あってのものだから、実に汎用性に欠けていてねぇ。さっき設計書ごと廃棄しちゃった。なたりあチャンにあげた試作機も、ハッキングしてカーネルごと破壊したから抜かりはないよ。これからはもっと需要のあるコンテナビジネスをね。なんなら宇宙を一から創りだせるコンテナをさぁ」


「…………」


「むふ、人類の資源問題をね、ここらで根本的に解決しちゃおうかなって思うんだ。誰も働かなくていい未来のためなら、ボクはいくらだって働くよお」


「…………」


「え、アリスちゃん寿命が近いって? キミも十五歳になるんだね。猫は、人と比べてしまうと、儚いものだね」


「…………」


「そっかぁ、ご主人様も見送って悔いはないんだ。じゃあさ、アリスちゃんの回路。持てあましてるなら、余生をボクに売ってくんない?」


「……にゃぁお……」


「やった! え、本当に。いやぁ、嬉しいなぁ。すごく嬉しい。なんかもう泣いちゃいそうだよ。

 そうだねぇ、さっそく会社の名前決めちゃおうか。なにせ僕たちには、あまり時間が残されていない。いつ流れ星が降ってくるかも分からない。うーん、そうだねぇ、じゃあドリーミストとか、そんな会社名はどうだい。いやぁ、これから楽しくなっちゃうな!」






   流星シンドローム(了)

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