BONUS TRACK;目覚めた力

「はっ!」

「………。」

「うりゃ!!」

「………さ…」

「とうりゃあ~~!!」

「佐藤!」

「あっ!藤井さん!お久し振りです!」


 数週間後、今度はワシが佐藤の署を訪れた。安田と名の刑事を拝んでみたかった。


「何を…しとるんじゃ?」

「何をって、知ってるじゃないですか?超能力の訓練ですよ!」

「…………。」


 昼飯時に訪れたのじゃが…以前と同じ場所で佐藤が、奇妙な訓練に没頭しておった。

 足下には数冊の本が積まれており、その一冊を拾い上げてみた。『あなたにもある!超能力は存在する!』表紙に…そう書かれておる。


(………。)


 大きく溜め息をついた。間違いなく佐藤は、幸雄と同じタイプの人間じゃ。真面目な若モンじゃと思っておったが、本性はこっちじゃった。


(それでも…呪文を唱えんようになっただけマシか…。)



 推測に過ぎんが…美術館を襲った佐藤百合は弘之達とは違い、願い続けて力を手に入れた。佐藤が訓練に没頭するのも一理あるかも知れん。

 じゃが…


「はっ!とぅりゃ!わちゃちゃちゃ~~~!!」


(呪文ではなく、これまた超能力でもなく…拳法や気功の訓練に見えるの…。)


 やり方が間違っておる気がする。やはり…こやつは幸雄と同じじゃ。このままでは力は得られんじゃろう。


「安田はおるんか?」

「先輩ですか?先輩なら今、とある事件現場にいます。」

「??ついて行かんかったんか?」

「僕ですか?僕は、力の開発が優先です。上司の人達も配慮してくれてるみたいです。担当にはなりませんでした。」

「………!!」


 恐らく佐藤はこの数週間、昼休みの度にここで訓練をしておるのじゃろう…。大声で叫んでおる姿を、署の人間に見られておる。


(不味いぞ?つまり…戦力外と見られとるんじゃ…。)


「そっ…そう言えば昔、健二から聞いたんじゃが…訓練は夜中に行なった方が効果的らしいぞ?」

「!?本当ですか!?」

「むしろ、昼に行なう訓練は逆効果らしい。止めておけ。」

「安本さんがそう仰ったんなら…間違いないですね!?そうします!」

「………。」


(ふぅ…。これで首は繋がったじゃろ。しかし扱い易い…。真面目が理由なんか、幸雄と同じ性格が理由なんか…。)




「ところで藤井さん…。お話、耳にしてますよ?」

「うん?」


 訓練を止めさせ、再びコーヒーを奢った。佐藤の為にも訓練の場から離れた場所に腰を下ろし、雑談を交わしておった。


「最近の検挙数、ダントツだって聞いてます。凄いですね?大活躍じゃないですか?」

「ぎゃははっ!ここにも噂が流れとるか?まだ、若いモンには負けておらんぞ!?」


 そんな折、佐藤がワシの活躍を口にした。美術館事件の頃から快進撃を続けておる。突入した現場から逃げ出す容疑者達を逃した例がない。


「刑事としての、貫禄が着いてきたんかの?遅咲きの大輪ってやつじゃ!」


 有頂天じゃった。逃げ出す容疑者達に『止まれ!』と叫ぶと、そこで足を止めん輩が1人としておらんのじゃ。


「以前の事件で知りましたが…藤井さんの声、本当に大きいですもんね?あの声で叫ばれたら、誰だって驚きますよ。」

「じゃからとて、そこで逃げ出さん犯人がおるか?捕まれば監獄行きが決定するんじゃぞ?」

「………。それもそうですね。」

「貫禄じゃ!貫禄!泣く子も黙る何たらじゃ!ぎゃははっ!」


 ワシの声に鬼が宿ったのじゃ。その気迫が、逃げ戸惑う容疑者の足を止めるのじゃ。


「今日は飲むか!?ワシが奢ってやる!」


 噂が他の署にも流れておる。武勇伝が増えた。気分が良え。


「あっ…。」

「………?何じゃ?用事でもあるんか?」


 その礼に、酒でも奢ってやろうとした。じゃが…


「夜は訓練に励みたいので、断らせて頂きます。」

「………。」


 嘘を信じた佐藤は誘いを断りおった。

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