TRACK 04;ヴァンパイアハンター
「………ここは?」
「目が覚めたかい?」
「!?あなたは…誰ですか?」
「僕かい?僕は…そうだな、怪童と名乗っておこう。」
「???」
(ダサい名前…。)
「ところで君は、どうして気絶してたんだい?」
「…………。」
目を覚ますと森の中にある、小さな洞窟にいた。側には青白い顔をした男の人がいて、どうやら私を看てくれていたようだ。
(…………。)
男の人の質問に、気絶するまでの記憶を辿ってみた。
「友達に…血を吸われました。化け物みたいな姿になって、私を襲ったんです。」
白江君が私の首筋を噛み、血を吸った。初めての感覚だった。全身の血が逆流したように思えた。意識も遠ざかった。本当に血を吸われていると思った。
『お願い!もう止めて~~!!』
薄れる意識の中で必死に叫んだ。すると白江君は止まったように動かなくなり、その隙に私は逃げ出した。研究所裏の森を彷徨い、いつの間にか気を失った。血を、吸われ過ぎたのだ。
そして怪童さんに助けられて、洞窟の中で目を覚ました。
「……。その友人の目は、赤く光っていたかい?」
「!!?」
記憶を辿りながら、白江君の姿も思い出した。背中やこめかみが膨らみ、皮膚が黒く変色した。そして…怪童さんが言うように目が赤かった。
「どうしてそれを!?」
「ここ数日、この辺りで妙な事件が起こっている。」
「……。妙な事件?」
「人々が失踪し続けている。既に5人が消息不明だ。…思い当たる節があってね…。ここにやって来た。」
「!!?まさか?」
「……。君の友人が、何か関係しているようだね?」
「…………。」
(実験に成功したって言ってたけど…一体何したんだろう?……!まさか!?)
事態は深刻だ。映画や漫画の世界が現実で起こっている。魔法の薬を研究している間に、間違って悪魔を呼び寄越したのだ。いや、ひょっとしたら最初からそのつもりだったかも知れない。高校時代、彼はサタンと会いたがっていた。
悪魔が現われて…体を乗っ取られたのだ。命じられて、人々を襲って血を吸っているのだ。
(それにしても…悪魔って本当に存在したんだ…。)
私は無事だった。操られていた彼は私の叫びを聞いて我を取り戻し、悪魔の力を抑えてくれたのだ。
(でも、他の人達は最後まで血を吸われて…。)
肩を落とした。無事だった白江君が、とんでもない事件を起こしている。
「血を吸わせろ!」
「!!?」
突然、洞窟に叫び声が響いた。入り口の方を見ると、1人の男が立っていた。
「血だ!お前の血の臭いが芳しい!」
「!?きゃ~~!!」
洞窟の中は、小さいながらも真っ暗だった。だから分かった。私の血を求める男の目も…赤く光っている。
『ビュン!』
「???」
…それは、一瞬の出来事だった。怪童さんがいつの間にか側を離れ、洞窟の入り口にいた。
目が赤い男の姿はなくなっていた。代わりに、大量の灰が地面に積もっていた。
「やっぱり…。」
怪童さんは戻って来ると、そう呟いた。
「やっぱり…とは?」
「君の友人は、恐らくヴァンパイアだ。『狂気に駆られし者』に血を吸われた。」
「???はい!?」
それから怪童さんの説明は続いた。私もここに足を運んだ理由、白江君の素性を伝えた。
世の中には、悪魔ではなくヴァンパイアが実在するそうだ。普段は人の目を盗んで生きていて、相手が死なない程度の血を吸わせてもらうだけだけど、『狂気に駆られし者』と呼ばれるヴァンパイアは、相手が死んでしまうまで血を吸うらしい。そして殺された人は、ヴァンパイアとして蘇える。まるで、ゾンビ映画みたいな話だ。
「君は、血を吸われ過ぎたから気を失った訳ではないようだ。ヴァンパイアに血を吸われると、吸われた分だけ意識を失う。だから……」
「??だから…?」
「…2つ、腑に落ちない事がある。君は、最近起こっている失踪事件を知らない。…と言う事は数日間もの間、気を失っていたって事になるよね?爆発事故が起こった翌日から、既に一週間近くが経過している。」
「えっ!?」
「死なない程度ギリギリまで血を吸われたとしても、気を失うのは半日ほどだ。計算が合わない。本来なら君は全ての血を吸われ、ヴァンパイアになっているはずだ。」
「………。」
「何よりも君の場合は、僅かな血を吸われただけでヴァンパイアになる。なのに…まだ人のままだ。」
「?どう言う意味ですか?」
「君の血の臭いが、それを伝えてくれている。」
「???」
「いや、何でもない。」
怪童さんが、理解出来ない事を呟く。だけど本人が腑に落ちないと言うのだから、私が考えても分からない。そもそも、ヴァンパイアが存在したなんて事実からが初耳だ。
(私の血の臭いが、何だって言うんだろう?…そう言えばさっきの男、私の血が芳しいって言ってた…。…あれっ?)
「!?さっきの人は、どうなったんですか!?」
今更のように、赤い目をした男が気になった。
すると怪童さんは立ち上がり、険しい表情を見せてこう言った。
「僕が灰にした。仕方なかった。本来なら望まないけど、あの男は既に『狂気』に目覚めていた。説き伏せる余地がなかった。」
「………。」
どんどん話が分からなくなる。ただ、赤い目をした男は殺されたと言う事だけは分かった。
「どうしてそんな事を!!?」
「これ以上の被害を抑える為だよ。仕方がなかった。彼らは無意味に同族…つまりヴァンパイアを増やし、そして殺し合うんだ。それじゃ、僕は用事を済ませる。君も早く、この近辺から逃げ出した方が良い。」
「用事を済ませるって?」
「さっきの男みたいな連中が、まだ数名残っているはずだ。…全て灰にし、その原因である君の友人も灰にする。」
「!!?つまり殺しちゃうって事ですか!?」
「彼は既に、人としての死を迎えた。諦めるんだ。残念だけど…それしか方法がない。」
「…………。」
「そろそろ日が暮れる。彼らと…僕が活動的になる時間だ。」
「??」
「君も気を付けるんだ。ちなみに、ヴァンパイアにニンニクや十字架は通用しない。紫外線と銀だけが、彼らを退治する唯一の武器だ。…いや、それよりも逃げよう。僕が、タクシーが捕まるところまで見送ろう。」
「…………。」
展開が早過ぎる。何もかもが理解出来ない。
怪童さんは逃げろと言うけど、私はこの場から動けなかった。
「………。君の友人は、既に死んだんだ。」
怪童さんが、慰めの言葉を掛ける。白江君は、化け物ではなくヴァンパイアになった。人としては、既に死んでしまったらしい。
(??実験に成功したって言ってたけど…だったらあれは、何だったんだろう?)
だけど、それが悲しくて動けない訳ではない。
「済みません…怪童さん…。」
「???」
「初めてお会いする人に何ですが…お金を貸して下さい。一銭も持ってないんです。」
「………。」
どうやら、森に辿り着くまでに財布を落とした。携帯電話は残っているけど、既にバッテリー切れだ。
「電車に乗れるお金があれば充分です。鈍行で帰りますから。」
「それは危険だ。タクシーで帰った方が良い。」
「家が遠いんです。タクシーなんて使ったら、お金が幾らあっても足りません。」
「……。これで充分かな?」
「!!?」
「返さなくても良い。その代わり、無事の帰宅を遂げて欲しい。」
遠慮がちに催促した私に、怪童さんは懐から諭吉さんを取り出した。何枚も重なり合って、かなりな厚さがある。
「それじゃ、先ずは君を見送ろう。」
唖然とする私を気にも留めないで怪童さんは私の手を取り、洞窟を抜け出して町を目指した。
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