TRACK 01;懐かしい再会
全く…今日も営業かよ…。どんなに頑張ったって、この町じゃ客なんて取れねえって!
弘之の奴、何であんな女を雇った?営業営業って…橋本が営業に出掛けりゃ良いんだ。
あ~あ。金もねえ。女もいねえ。見てても服は透けねえ。全く、どうしたら良いんだ?
とりあえず、いつものベンチで昼寝でもするか?この前助けてやった苛められっ子がいるかも知れねぇし…。
「やべえ…あいつだ!皆、トンズラするよ!」
「………。」
面倒な奴らは駅前の広場にいた。それなのに、何であの子には会えない?
「はぁーー!」
良い事が1つもない今日が退屈で、俺は大きな溜め息をついた。
「はぁ………。」
「?」
ベンチで横になって溜め息をついた俺の前を、もっと落ち込んだ奴が溜め息をついて通り過ぎた。
同じ溜め息でも、あちらさんの方がトーンが低い。俺よりも哀れな奴がいたんだ。
「おい、兄ちゃん。何かあったのか?俺よりも暗い顔してるじゃねえか?」
「……私ですか?………あれ!?健二君!?」
「あっ?」
目は合わせず、寝転がりながら声を掛けた俺の名前を男は呼んだ。
(知った顔か?)
起き上がり、隣のベンチを覗くと……やっぱり知らない顔が座っていた。
「……誰だ?てめえは?」
「僕だよ、僕!昇だよ!岡本昇!」
「岡本……昇!?やっぱり知らねえ……。」
思い出すのも面倒くせえ。どの道、他人の空似だろ?
俺は、もう1度ベンチに寝転がった。
「どうして覚えていないのさ!?小学校の時一緒だった!ほら!仇名が『3号』!」
「はっ!?3号……!?えっ!?あの昇か!?何があった?あれだけ太ってたお前の体は、何処に行った?」
「20年以上も過ぎたんだ。体格なんて変わるだろ?」
「キノコ頭は!?」
「………。大人になったんだ。髪型も変えるさ。…君は、僕があの時のままじゃ気が済まないのかい?」
俺達は、1つのベンチで話を続けた。
こいつの名は岡本昇。小学校の同級生だ。20年以上も経ってしまったから分からなかったが、3号って仇名を知ってるんなら間違いない。ちなみに俺は2号、そして、弘之が1号だ。
何の番号かって?貧乏だった者同士、戦隊を組んでた。
4年生まで仲が良かった。毎日のようにヒーローごっこをして、いつも昇の運動音痴に調子を狂わされた。
「お前、この町に越して来たのか?」
5年生になって、俺達の縁は切れた。喧嘩別れをした訳じゃない。昇が引越しをする事になったんだ。行き先は隣町だったが、校区が違うから転校しやがった。
「この町には、数ヶ月前に越して来たんだ。子供が生まれたから、もっと広い家に住もうって事になって……。これまでの家は、小さなアパートだったから……。」
「子供!?お前……結婚したのか!?相手は誰だ!?美人か!?ナイスボディか!?それとも…令嬢か!?」
「落ち着きなよ。……麻衣って女の子…覚えてないかい?彼女も、小学校から一緒だったよ。」
「麻衣??麻衣???あっ~~!!!あの金持ちの女か!?マジか!?お前、あいつと結婚したのか!?それじゃ、さっき聞いた質問、全部揃ってる女じゃねえか!?」
「ちょ、ちょっと健二君……。落ち着きなって。…僕らが結婚した事が、そんなに興奮する事かい?」
麻衣は昇と同じく、俺達と同じ小学校に通っていた女だ。
中学は私立のお嬢さん学校に入ったが、高校を卒業した頃に、1度町で見掛けた事がある。美人で、ナイスボディな令嬢になってた。
それが、どうして3号みたいな奴と???
「僕らは幼馴染だったから、連絡はずっと取り合ってたんだ。」
「…………マジか………?」
信じ難い話だ。顔、体、金…全てにおいて昇と麻衣は正反対だった。
(あっ………。)
そう言えばこいつ、小学校の時から麻衣とは仲良くしていたな?
……思い出した。こいつの家に遊びに行ったら、いつも近所の公園で2人仲良く遊んでいた。
「それじゃ、お前は今、金持ちかよ!?なんか奢れよ!?弘之も呼ぶからさ。」
「弘之君とは、今でも連絡を取ってるの?」
「同じ事務所の、一応はボスだ。」
「へ~!凄いね!?」
「大した事ねえよ。仕事がなくて困ってる。俺が昼寝してたの、見てただろ?」
「あ……。あぁ…。そうだね。」
「それより、質問に答えろよ!?金持ちなんだろ?」
「そんな事ないよ。僕もさっき言ったろ?家は、小さなアパートだったって。今は、そのアパートが2部屋になっただけだよ。」
「何でだよ!?麻衣の家は金持ちなんだから、助けてもらったら良いじゃんよ!養子になれば楽じゃんよ!?お前んとこの親父、借金凄かったじゃねえか?それも返してもらえよ!」
「…そんな事はしない。僕は、僕が出来る範囲で生活する。麻衣も、分かってくれてる。借金だって、どうにか返済の目処がついたんだ。」
(…………。)
全く……弘之も昇も、昔と変わっていない。貧乏なくせに欲を出さない。悪い事をしない……。
懐かしいじゃねえか………。
「健二君と弘之君は、どんな仕事してるの?町に来てから長いの?」
「この町で、仕事を始めて3年になった。他の社員含めて、6人で探偵をやってる。この町は…平和で良いぞ?事件も起こらない、静かな町だ。お陰で、俺達は食って行けない。」
「ははは。……そうか………。」
「あっ!ただ、この広場で集会開く中学の女子には気をつけろ。特に、麻衣の奴は狙われるかも知れねえ。美人で良い女に、やたらと嫉妬するんだ。」
「そんな人達がいるの?」
「ああ、喋り方が昭和なんだよ。でも安心しな。俺の名前を言えば、何もしねえはずだ。この前、ヤキを入れといた。」
「…相変わらずなんだね?」
「はっ?」
「相変わらず…2号は正義感が強い。懐かしいよ……。」
「…………。そうだな…。」
俺達は、夕暮れになるまで昔話をした。
よくよく考えたら、今日は日曜日だ。昇がここで私服を着て休んでいる訳だ。
「俺んとこの事務所の名刺だ。暇が出来たら遊びに来い。弘之も喜ぶ。」
「ありがとう。1度、お邪魔させてもらうよ。久し振りに1号、2号、3号が集結する訳だ!」
「……そうだな。それじゃ、気をつけて帰れよ!?何かあったら連絡しろ!助けてやる!」
「うん!また連絡する!それじゃ!」
…………。
懐かしい再会だった。
昇が、この町に引っ越して来た……。そして、麻衣もこの町に来た。
………。
麻衣の奴、誰か紹介してくれねえかな?あいつより美人でナイスボディで、性格も良くて金持ちの女………。それさえ揃ってれば、後は何にも要らない。
………?
って、昇の奴……子供が出来たって言ってたよな?なのに休みの日に、こんな所で何してたんだ?
そう言えば昼間、奴は溜め息をついていた……。
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