ラムネの瓶の底~つくのきひめの言葉の欠片たち~
竹野きひめ
第1話
ラムネの瓶の底
あなたは『ラムネ』という飲み物を御存知ですか?
少し無骨な瓶にあまり多くない量の甘いソーダ水が入った物です。
昭和の時代を象徴するようなラムネは今も蓋の形状や、ガラス瓶からペットボトルへと変わりながら、それでも日本の夏やお祭りにはかかせない物として一度は目にしたことも手にしたこともあるのではないでしょうか。
ラムネの瓶は薄い青というか緑というか。その二つを混ぜたような色をしています。
上部にはビー玉がひとつ。からからと音を立てるそれを取ろうとがんばったガラス瓶のラムネの方もたくさんいらっしゃるでしょう。
私もラムネは何度かしか口にした事はないけれど、大好きです。
冷たくて、喉にチクチクと刺激が痛いくらいに当たって、そしてビー玉がの音が、カラン、カラン、と。
冷たくて。
チクチクと痛くて。
カラン、カラン、と、中の何かを閉じ込めていて。
隠す事なく向こう側が透けて見える程綺麗なのに、ラムネ越しの景色は、薄い青緑色にしか見えなくて。
私の心は、いつしかたくさんの投げかけられた言葉や、たくさんの我慢や、たくさんの涙や、多くない感情と共にその出入口が複雑な構造をしているラムネの瓶に取り込まれてしまっていました。
狭くて冷たく分厚いラムネのガラス瓶の底に座って、ひんやりとした壁にあたる内側のガラスを触って、向こう側の景色を眺めて。
どこをどう間違えたから、私は、あたしは、ここに居るんだろうって。
そう、思ったの。
たくさんのいろいろな物が入ってしまったあたしのラムネ。今はまだ炭酸ガスが充分じゃないかもしれない。
だから、今から、あたしがたくさん話すから。
そうすると吐息がラムネに溶けるから。
あたしのラムネの話を、聞いてくれませんか?
たくさんの涙や辛い事や我慢した事や、壊れた感情や、そういう色々なモノがこれから溶けるラムネ、一緒に作ってくれませんか?
貴方はただ読んでくれるだけでいいの。
あたしはただ話す事しか出来ないのだから。
ただ、ラムネの瓶の底はとても冷たくて、外の世界があたしにとってはとても羨ましいから。
だから。
外の世界に居る貴方に読んで、ほしい。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます