第14話 ソーシャルゲームは用法用量を適切に!
「教えてお兄ちゃん!」
「なんだい、妹よ」
「ポケモンGOでミニリュウがいっぱい出てくる地域ってどこかな!?」
「
「ひどい! 自分があんまりソシャゲやらないからって!」
「ちなみにソシャゲとはソーシャルゲームの略で、本来はSNS的機能を伴ったオンラインゲームのことを指すが、最近はスマートフォン端末などでプレイできるアプリゲームを意味することが多いな」
「そうそう! 7月にポケモンGOがリリースされたでしょ? それからクラスの友達と誰が一番レアなポケモン捕まえられるか競ってるの!」
「ふふふ……確かにあのリリース当初は日本中がその話題一色でさすがの僕も心躍らせたものだ……! それに、リリースに関して実は一つ予言が当たってしまってな」
「予言?」
「iOS版より先にAndroid版がリリースされるんじゃないかみたいなことをTwitterで呟いておいたんだよ。そしたらほんの僅かな差ではあったが、やはりAndroidの方が早かったな」
▼こちらがそのツイート
https://twitter.com/beni_otoshima/status/755647860901814272
「たまにはちゃんと役に立つこと呟くじゃん! どうしてAndroidの方が早いと思ったの?」
「アプリをリリースするには、アプリストアに対して申請を行う必要があるんだ。で、Google Playストア(Android)とApp Store(iOS)では若干そのルールが違う」
「え、そうなの?」
「Androidはアプリ開発会社がストアに申請すればすぐに反映されるんだが、iOSの場合はApple社の審査が必要なんだ。で、これが結構時間かかる上にストアの規約違反に該当すると修正して再審査を出さなければいけない」
「あー確かに、App Storeの方がアダルトコンテンツの規制に厳しいって言うよね」
「やっぱりそういうネタだけは詳しいんだな。大手の企業の場合、なるべく両OS同時リリースを目指してiOSだけ早めに審査に出していたりするんだが、審査結果は自社ではコントロールできないので最悪予定日にリリースできない可能性もある」
「あーそっか! 前にはまってたゲームアプリもiOSの方が反映が遅くてレビューが荒れてたりしたけど、そういうことだったんだね!」
「だから、ポケモンGOのリリース時もそういう可能性があると思ったんだ。どんなに大手の開発会社でもこのルールに則らなければいけない。最新ゲームをいち早くプレイしたい人にはiPhoneよりもAndroid端末をオススメするぞ」
「なるほどねー。ちなみに、こんなエッセイを書いてるくらいだし、作者ももちろんポケモンGOダウンロードしたんだよね?」
「ああ。だがプレイしたての頃に近所のジムに挑もうとしたらカイリューCP1,000超えが設置されていて打ちのめされたらしい」
「あとジムにアクション要素があるから、作者みたいなアクション音痴にはハードルが高かったのかもね!」
「それならポケモン収集に専念しようと、ビードル4匹にジョン、ポール、リンゴ、ジョージと名前をつけて『4匹揃ったのでバンドを結成しました』とTwitterで投稿したんだが、それも数RTしかされなかったらしい」
「1,000RTくらい行くと思ったのにね!」
▼今でもRT募集中です。
https://twitter.com/Beni_Otoshima/status/756810014124232704
「そんなこんなで作者自身は一週間でポケモンGOをプレイしなくなってしまったが、まだまだ新しい機能が追加されるようだし今後の流れには期待しているそうだ」
「あいつは広告出稿枠が解放されるタイミングを狙ってるだけでしょ。GPS情報取得を許可するユーザーが多い貴重なアプリだからね」
……そう、ここで背筋を凍らせた方の勘は鋭いと思う。
このエッセイでは情報がいかに抜き取られるかとか、それがどう活用されるかを散々繰り返してきたけれど、ゲームアプリだってその例外じゃない。今はまだ具体的な使われ方はしていないけど、ポケモンGOに提供している自分の位置情報が広告に使われる可能性だってなくはないのだ。
「それにしてもなんでスマホゲームってハマっちゃうんだろう? 授業の合間の休憩時間とかついつい起動しちゃってさぁ、こないだどうしても欲しいポケモンがいたから思わず課金にも手を出しそうになったよ」
するとお兄ちゃんは本棚を漁りだした。取り出してきたのは経済学の本だ。
「ソシャゲにハマってしまう理由は色々あるだろうが……僕はサンクコストに囚われてしまうことが大きいんじゃないかと思っている」
「サンクコスト?」
「埋没費用ともいう。経済学用語で、回収不可能な費用のことだ。もう少し噛み砕いてみよう。例えば日常でこんなことはないかな?」
【例1】
好きな俳優が出演する映画のチケットを1,800円で購入した。しかし開始10分でその俳優は犯人役にやられて出番がなくなってしまった。脚本はあまり面白くなく正直時間の無駄だとは思ったが、チケット代を払ってしまったので最後まで見ることにした。
【例2】
今日は飲み会。会費は事前徴集制で3,000円をすでに支払った。お酒はあまり得意ではないが、飲み放題なので元を取るまで飲むぞと思い、結局記憶が飛ぶまでたくさん飲んでしまった。
【例3】
クラスで文化祭のメニューを決めるのにもめている。二案あって、一つは最初から計画していたフルーツパンケーキ、もう一つは後から案が出たタピオカドリンクだ。タピオカの方が原価も安く誰が作っても美味しく出来るのだが、フルーツパンケーキを作るため試行錯誤にかけた時間を思うと捨てがたく、結局フルーツパンケーキを採用することになりそうだ。
「私は未成年だから例2はよくわからないけど、例1と例3は身に覚えがあるよ……」
「この三つの例で共通して言えることは、『サンクコストに囚われてしまい、合理的な選択ができていない』ということなのだ」
「どういうこと?」
「例1の場合、つまらないと思っている映画を最後まで見ようが、最初に支払った現金1,800円はいずれにせよ戻ってこないだろ。だったら途中で出て、YouTubeなどでその俳優の映像を見ていた方がよほど有意義なはずだ」
「た、確かに!」
「例2の場合だって同じだ。最初に払ってしまった会費は戻ってこないのだから、無理に酒を注文するより、飲み会を有意義な時間にする方に集中した方が良かったかもしれないな。少なくともこの人は酔いつぶれてしまった分、他の人と冷静にお喋りをする機会を失ってしまったことになる」
「うんうん」
「例3の場合はサンクコストに該当するのがお金というより時間だな。時間をかけて練習したものを採用したいという気持ちは分かるが、結局過ぎたものは戻ってこない。もし売り上げを稼ぐことが目的ならタピオカの方が良い選択肢と言えるだろう」
「なるほどねー! これと同じことがソシャゲにも当てはまるってことなの?」
「その通り。最初は気楽な気持ちで始めてみても、プレイ時間が長くなっていけばいくほどやめるのは難しくなってくる。やめようと思ってみても、時間をかけて育てたキャラだから、高額課金をして進めてきたゲームだから、と今までに費やしたサンクコストが浮かんでやめれなくなってしまうのだ」
「ひー、怖い! もう払っちゃったものは戻ってこないってことを理解しておかないといけないんだね」
「そう。ちゃんとした投資になっているのなら別だが、サンクコストに囚われて理性的な判断ができなくなってしまいそうな人は是非この話を思い出してみてくれ」
「大事なのは今や未来の時間を有意義に使う選択肢を取るってことなんだね! 受験生にはありがたい話かも!」
「はっはっは、励みたまえよ」
「ところでお兄ちゃんも作者もポケモン全盛期世代でしょ? こないだ『昔はサトシの方が年上だったのに……』とか言ってたくらいじゃん! なんでポケモンGO飽きちゃったの?」
するとお兄ちゃんは3DSを取り出しながら言った。
「僕は気づいてしまったのだ……! ゲーム版なら、火の中にも水の中にも草の中にも森の中にもあのコのスカートの中にも行く必要はない! 家から出ずにポケモン全種類捕まえられるのだ!」
「そんなだから健康診断で運動不足ですねって指摘されるんだよおおおおおう!」
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作者のプチ補足(14)
はじめに補足しておくと、別にソシャゲを否定するために書いたわけではないです。私はあんまりソシャゲをやる方ではないですが、メビウスFFとかぷよぷよはけっこうなレベルになるまでやっていたこともありました。(課金ナシでいかに強くなれるかが私のこだわりです)
ソシャゲって短時間でもプレイできるから一見市販のゲームよりも気楽に見えるんですけど、ハマってしまうと実は膨大な時間を投資することになります。
例えば通勤通学時間で毎日15分×2回=30分、
お昼休憩に30分、
家に帰ってからTVを見ながらだらだら遊んで30分、
つまり1日あたり1.5時間。
これを1か月繰り返せば45時間は超えますね。
ちなみに市販のRPGをそこまでやり込まずに普通にクリアした場合の平均プレイ時間は30〜40時間と言われています。やり込んでも100超えるかくらい。
……お分かりいただけたでしょうか?
どうしても中毒になってしまって抜け出せない……という方は思い切ってアプリをアンインストールしましょう。サンクコストに囚われているのが原因なら、もう一度インストールしてプレイし直そうとは思わないはずです。それがいかに大変かを知っているからこそ、はまっていたのですから。
▼参考文献
『ひたすら読むエコノミクス』伊藤秀史、有斐閣
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