第1話 エロ動画はシークレットウィンドウで見ろ!
「教えてお兄ちゃん!」
「なんだい、妹よ」
デスクに向かっていた回転イスをくるりと回して振り返る。この人はわたしのお兄ちゃん。フリーでWebの仕事をしている、メガネと言い回しが知的なITオタク。パソコンやインターネットのことなら、お兄ちゃんに聞けば大体解決してくれる。
「バナー広告がエロサイトばっかでうざいんだけど、どうしたら消せるかな?」
「--ブフッ!」
お兄ちゃんが飲んでいたコーヒーを盛大に吹いた。
「やだもー、汚いなぁ」
「お、お前……自分が何を言っているのか、分かってるのか……?」
お兄ちゃん、珍しく顔を真っ赤にして声をぷるぷると震わせてる。
「だーかーらー! バナー広告がエロサイトばっかりで」
「ああああああ分かった! 分かったから、それ以上はもう言うな!」
一体どうしたんだろう? こんなに余裕のない感じは初めてだ。お兄ちゃんは自分を落ち着けるかのように、メガネをかちゃりと掛け直す。
「……で、それはパソコンか? スマホか? お兄ちゃんが何とかしてあげるから貸しなさい。大丈夫、写真フォルダや閲覧履歴は見ないようにするから」
お兄ちゃんはわたしから目をそらしながら言う。
「? 何言ってるの? わたしのじゃなくて、同級生の男子が困ってるんだよ」
すると、まるで少年みたいにぱぁっと顔を輝かせて、ようやくこっちを向いた。
「そうか! そうだよなぁ! あっはっはっは、お前のだったらどうしようかと思ったよ!」
「なんで?」
「いやいや、こっちの話だ。じゃあ早速、迷える子羊の元へ向かおうじゃないか」
***
【同級生の男子の家にて】
「……で、君が妹に相談したという同級生男子Aだね」
「あの、Aっていうのやめてください」
「いいんだ、これは一応エッセイなんだから」
「?」
「くだらない前置きはいい、例のブツを見せてもらおうか」
「はい……これです」
同級生のA君はおずおずと書斎のPCに電源を入れようとした。が、その前にお兄ちゃんにボソボソと耳打ちをする。
「あの……できれば妹さんには見られたくないんですけど……」
「ああ、それもそうだな。おい妹よ、少し部屋の外に出てなさい」
ええ〜〜〜っ。
というわけでわたしは追い出されてしまったので、ここからはお兄ちゃんの目線に交代っ。
***
「ああこれは……アウトだな」
同級生Aが立ち上げたブラウザ(インターネットエクスプローラー、Fire Fox、Google Chrome、Safariなどのインターネットを閲覧するアプリケーションのこと)のバナー広告枠には、アダルト系の広告がびっしりと並んでいた。肌色の多いこと。
「いつの間にかこんな広告ばっかり出るようになってしまって……。ウイルスにでも感染しちゃったんですかね? このパソコン、親とも共有なんです。だから、親が使う前に何とかしたいんですけど」
「おいおい、僕相手に下手な誤魔化しはやめたまえ。本当は分かってるんだろ、この広告が出るようになった原因を!」
「--っ!」
「いいか、Web広告というのは、君が見たサイトの情報を元にオススメ情報を表示しているに過ぎないっ……! つまり、こうなった原因は君がエロサイトを見てしまったことなのだ! パンストを履いた人妻モノのなぁあああああ!」
「うわああああああ大声出すのはやめてくださいいいいいっ!」
同級生Aは大慌てで僕の口を塞ぎにかかりながら、涙目で縋るように言う。
「でもお兄さんだって男だったら分かるでしょ……! インターネットはビデオを借りたり雑誌を買ったりするより、遥かに手軽じゃないですか……! もしこれを使っちゃダメってなったら? 世の中の男は皆発狂しますよ! 僕たちはこんな便利な世界から逃げ出すことなんてできないんですよ!!」
「ああ、それは否定しない。ちなみに該当する閲覧履歴を消去すれば広告表示ロジックもリセットされるぞ。ただし閲覧履歴はページビュー単位で記録されて膨大になっているから全消去するのがオススメだ。閲覧履歴を全消去するとSNSなど自動ログインしているもののデータも消えるから、全部ログイン情報を入力しなおす必要があるが」
「TwitterもFacebookも全部ってことですか? まさか、エロサイト見るたびにそれをしなきゃいけないってことじゃ……うわぁ、それは面倒だなぁ」
「ちなみに全消去しなきゃいけない頻度は週に何回くらいだ」
「それ、思春期の健全な青少年に聞きます?」
「まあそうなるよな。だからこそ、君に素晴らしい魔法を授けよう」
「な、なんですか……その魔法って」
「フフ……それはな、"シークレットウィンドウ"だ」
「シークレットウィンドウ?」
「ああ、例えば君がブラウザとして使っているGoogle Chrome、ブラウザの右上の方に"三"のようなアイコンがあるだろう。それをクリックしてみなさい」
「これですか?」
クリックすると、プルダウンでメニューが表示された。
「ほら、ここにあるだろう。マジックワード、"新しいシークレット ウィンドウ"と……!」
「? これの何がすごいんですか? 普通にブラウザが二つに増えただけじゃないですか」
「甘いな少年。シークレットウィンドウはな、閲覧履歴ゼロの状態から始まり、閲覧履歴ゼロに回帰する素晴らしい機能なのだ!」
「……どういうことですか?」
「もう少し噛み砕いて言おう。エロサイトを見るときはシークレットウィンドウで見ろ。そして見終わったらそのウィンドウを閉じる。そうすれば君が何を見たのかはデータが残らないというわけだ!」
「えええええそれはすごい! わざわざ手動で閲覧履歴を消去しなくてもいいんですね!」
「その通り、察しがいいな。ちなみに今回はGoogle Chromeで説明したが別のブラウザでもできるし、実はスマホでも可能だ。例えばiPhoneにデフォルトで入っているブラウザのSafariの場合、右下の四角が二つ重なっているアイコンをクリックしてみなさい」
同級生Aがアイコンをタップすると、画面が黒背景に切り替わる。
「おお、今開いているウィンドウが一覧で見れますね」
「その左下に"プライベート"という文字があるだろう。それがiPhoneのSafariで言う所のシークレットウィンドウだ」
「おおおおおお! スマホでもできるんですね!」
「ああ。ちなみにIE(インターネットエクスプローラー)ではInPrivate、Fire Foxではプライベートブラウジングと言うらしいぞ。そちらのブラウザをお使いの方はググってやり方を調べてみてくれ」
「あれ? 今、誰に向かって話しかけてます?」
「いいんだ、これはエッセイだからな」
「でもエッセイのくせに詳細はggrksなんて言っちゃっていいんですか?」
「いいんだ、あくまでこのエッセイは初心者向けだからな」
「そもそも初心者向けのエッセイならGoogle Chromeを使って説明する方が間違いなんじゃ……」
「いいんだ、作者がIE嫌いでGoogle Chromeを布教したがっているからな。ちなみにGoogle ChromeはWebから簡単に無料でインストールできるぞ」
【
2016年5月時点で、PCにおいて世界シェアNo1になったブラウザのこと。
とにかく動作が軽く、画面が広いので快適にネットサーフィンができる。
GmailなどGoogleアカウントをよく使う人にとっては連携がとても便利。
▼インストールはこちらから
https://www.google.co.jp/chrome/browser/desktop/index.html
同級生Aは腑に落ちない表情を浮かべながらも、バッとこちらに向かって頭を下げた。
「本当に助かりました!! これからは安心してエロ動画を漁れます!!」
「はっはっは、励みたまえよ。あと、念を押すようだがシークレットウィンドウは使い終わったらちゃんと閉じるようにな。ブラウザを閉じない限りは閲覧履歴が残って意味がないからな」
***
「なーんか今日はつまんなかったなぁ。お兄ちゃんとA君だけで盛り上がっちゃって」
わたしは家のリビングでテレビを見ながら呟く。CMの合間中はスマホ、それが今の女子高生の間での常識だ。
するとお兄ちゃんがわたしの座っているソファの後ろにやってきて、しばらくわたしのスマホの画面を見てから言った。
「……お前もシークレットウィンドウを使ったほうがいいぞ。特に腐女子向けの漫画サイトを見るときはな」
「ええっ!?」
なんで分かったの? 今、別にそういうサイトを見てたわけじゃないのに……!! よくよく自分のスマホの画面を見てみたら、BLのゲームアプリの広告が出ていた。これだからお兄ちゃんは。
わたしにはまだまだ、お兄ちゃんから教わるべきことがたくさんあるようです。
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作者のプチ補足(1)
Web広告というのは、その多くが一人一人の閲覧履歴やインターネット上の行動を元に表示されるようになっています。
なので、Web広告に詳しい人間が他人のブラウザを見ると、その人が普段どのサイトを見ているのか大体分かってしまうのです。
特に家族でPCやタブレットを共用している方はログインなどが面倒なサイトを使わない限り、シークレットウィンドウで見て、終わったらブラウザを閉じるのがオススメです。ただし一部の会員サイトなどではシークレットウィンドウだとサービスが利用できない場合もありますのでご注意を。
ちなみに広告があまりに不快な場合はオプトアウトという方法で、表示される広告のジャンルをコントロールすることもできます。それはまたの機会に。
*2016.6.13 追記
Twitterにて佐都さん(@samiyahajime)にご指摘いただきいただきましたので、その内容をば。
家族でPCを共有して使う場合はログインするユーザーアカウントを分けておくとなお安心です。Windows PCの場合、管理者権限のあるアカウントでコントロールパネル(場所がわからない場合は左下のWindowsマークを押してみましょう。シャットダウンする時とかにクリックするアレです)を開き、「ユーザーアカウントの追加または削除」からアカウントを発行できます。閲覧履歴やダウンロードデータはアカウントごとに別になりますが、Officeソフトなどのアプリケーションは共通で使えるんですよ。便利!
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