バカと所長と新型艦

飛龍信濃

第1話 時空を超えた…?

 「ここはどこだ・・・」

ぼく、すなわち吉井明久は、そうつぶやいていた。

 「たしか、家で寝てたはずだよな・・・?」

 頭の中には、疑問符が、何十個も浮かんでいた。

 そうだ!

 そう思って、スマートフォンを取り出そうとぽっけを探る。

 「あった!」

 昨日は着替えるのがめんどくさくなって、制服のまま寝付いたのが功を通したようだ。

 普段寝るときは、充電器につないでいるから探っても出てこないはずだからだ。

 「よっと」

 なんだか独り言が多い人みたいだったけれど、僕はそう言いながら、電源を入れた。

 「あれ?」

 おかしいな圏外になっているようだ。 

 日本ってここまで、インフラが整ってなかったけ?

 ここは山間部ではぜたいいにない・・・そう足りない頭で考える。

 それにしてもおかしいな。

 なんでこんなに、騒音が響いているんだ?

 どうやらここは工業地帯?のようだった。

 そうだと言い切れないのが悲しいところだった。

 通りすぎる人も何人かいて、不思議そうな目でこっちを見てくるけれど何も言われなかった。

 どうやら、制服姿でいたのがよかったようだ。

 だけどここでは何をしているんだろう?

 何かを打ち込む音が常に響いてくるけれど、何をしてるのかは皆目見当つかない。

 これは、僕がバカだからとか関係ないと思う(思いたいだけかも・・・」

 立ち止まっていても意味がなさそうだったから、とりあえずあたりを散策してみることにした。

 そういえば、召喚獣ってどうなったんだ?

 そう思いつつ腕を見ると、リングは消えていた。

 「え・・・」

 なんだか今までで一番ショックだったような気がする。

 例えばテストで零点取ったときとか。

 これじゃあ何もできないのでは…?

 「あっても変わらねえよ!」

 そんな突込みが聞こえたような気がしたけれど、気にしないでおこう。

 それが一番だと思う。

 こんなことで悩んでいたら坂本やらムッツリーニになんて言われるかわからないじゃないか。

 ついでに姫路さんにも・・・

 悲しいような、気分になってきた。

 なんでだろう。

 わからないや・・・。


 「第二号艦の進捗状況はどうだ?」

 第二号艦建造主任室、主任の渡辺賢介に対し所長の玉井喬介が建造中の第二号艦の巨躯を見上げながらつぶやいた。

 もうだいぶ進んでいるようで、場所によっては水密試験も始まっていた。 

 「順調です。

 この調子ならば、11月1日の浸水予定日に間に合うと思います」

 彼はそう疲弊しきった表情で言った。

  「よかった・・・・」

 玉井は、目の前にある巨躯に圧倒されたかのようにただそれだけつぶやいていた。

  今まで本当にいろいろなことがあった。

 そもそも大きすぎたため船台を拡張する必要があったこと。

 軍機の図面がなくなり、捜査関係者以外には知らせずに特高の協力のもと、徹底した調査で犯人を見つけ出したこと。

 この時は本当に危なかった。

 下手をすれば責任問題となって、玉井など建造所の上層部が辞任する騒ぎになっていたかもしれなかった。

 また、船台上に設置されているガントリークレーンの間隔を図って、機密事項である第二号艦の全長を割り出そうとしたものもいた。

 だが建造中にひっくり返るとか根本的な大問題は発生しなかった。

 それはまだついているといえた。

 国際情勢が緊迫化している中、工事が遅れるなんてことは許されていない。

 それに10月末には、進水に向け特殊体勢に入る予定になっている。

 すべては機密を守るためだった。

 

「なんだか忙しそうにしているなあ」

 僕は陽気にそうつぶやいた。

 「おい」

 そしたら背後から誰かに声をかけられた。

 ん?・・・

 なんだろ?

 僕はそう思いながら振り向いた。

 「なんですか?」

 振り向いたと同時にそう返答してみた。

 「なんだ貴様、見慣れない服装だな」

 「そうですか?

 制服としては、そんなに悪くないと思いますけど」

 僕は何が気に入らないのだろうかと思いながら、そう返した。

 「だが、作業着には見えねえぞ?出入りの業者の担当者にしちゃあ若すぎるな…」

 この人は何を言ってるんだろう?

 僕は本気まじめにそう思った。

 馬鹿だからとか関係ないと思うけど。

 その辺雄二だったら要領よく解決するんだろうなあと、目の前の相手のことは頭の片隅に置いて上の空な意識でそう考えた。

 「お前どこのもんだ!!」

 いきなり切れられた。

 この人西村先生が変装してるとかゆう、最悪なことないよね??と僕は思った。

 たぶん違うだろう。

 あの人だったら、僕の姿を見た瞬間に補修室に連れていくこと間違いなしだからだ。

 うーん。

 「文月学園2年F組の吉井明久です」

 僕はそう当たり障りのない返答をした気でいた。

 「文月?

 駆逐艦か?」

 彼は、なんとも不思議そうにそう言った。

 「だが、海軍の制服ではないし……

 怪しい奴だな」

 「そう言われましても…

 ここはどこです?」

 僕はそう聞いてみた。

 「知らないのか?」

 なら何でここにいる?

 そんな顔をしていた。

 なんでだろう?

 こんな顔をされる理由あったかな。

 よくわからないな。

 「はい、気づいたらここにいたので…」

 「そんな馬鹿なことがあるか。

 誘拐されてきたとでもいうのか?

 嘘はつくなよ」

 「どうした?」

 そんくらいの頃から、同じような格好をした(一部は機械を持っている?)人が野次馬みたく集まってきた。

 野次馬かな?

 「怪しい奴がいたから話を聞いてた」

 「さっさと憲兵か、特高に引き渡しちまえよ」

 なんか物騒な話をしているように聞こえるけれど、気のせいだと思いたい。

 「嘘じゃないですよ。

 家で寝て起きたら、ここにいたので」

 「この格好で寝てたのか?」

 なんかかわいそうな人を見るような目で、凝視された。

 悲しいな。

 「昨日疲れ切ってたので、着替えるのがめんどくさくなっちゃったんで。

 どうしたんです?」

 逆に聞き返してみた。

 そこまでおかしいとは思わないんだけど。

 「普通きがえるもんだろ?」

 なんか、周りの野次馬の人にもかわいそうな子みたいな目で見られてる気がするけれど、まあいいか。

 そこまで変じゃないと思うし。 

 たぶん…だけど。

 「どけどけ!」

 なんか、偉そうな態度の人が来た。

 警備員かな。

 「怪しい奴がいまして」

 「海軍さんどうにかしてください」

 ん?海軍?自衛隊じゃなかったっけ?

 あれ、おかしいな。

 軍服もリアルだけど、コスプレじゃないのかな。

 ほんもの?

 じゃあ、タイムスリップしたのかな?

 「自衛隊じゃない?」

 「なんか言ったか?」

 海軍さんって呼ばれてた人が、僕を威嚇するように睨んでくる。

 怖いなあ。

 「早く言え!」

 すぐに答えなかったら、すごい大きな声で怒鳴られた。

 なんでだろ?

 やっぱ、1955年(*実際は1945年)に消滅した、帝国海軍なのかな?

 

 やはり、日本史を得意になったからと言って、吉井のバカは治っていないようだ。

 あまり気にしてはいけない。

 翔子だって間違えて覚えることはあるのだ。

 完璧を求めてはいけない。

 

 「今は何年ですか?」

 僕はタイムスリップネタでよく出てくる?テンプレみたいなことを聞いてみた。

 「は?……………………」

 なんか一瞬、場が凍り付いたみたいになった。

 あれ?

 「なに言ってんだお前?」

 「皇紀2600年だよ」*1940年もしくは昭和15年である。

 ん?聞きなれない言葉が出てきたな。

 皇紀?なにそれ?

 年号?

 にしては長生きだな天皇陛下2600歳超えてるよ?

 どうゆうことだろ?

 「わかってないぞこいつ?」

 「特別観艦式あったのにな?」*皇紀2600年特別観艦式のこと。

 なんだろう?世間を知らない人みたいなおかしいんじゃない?的な反応。

 怖いな。

 なんか、海軍の人ににらまれてるんだけど…。

 どうゆうことだ?

 

 「なんだあいつら…」

 そう、渡辺は人ごみに対してつぶやいていた。

 「どうした渡辺」

 「あっ所長」

 「いや、あいつらがなんか、固まってるので」

 そう言って彼は、吉井明久をかこっている野次馬どもを指さした。

 「また、図面流出でもあったか……?」

 玉井

所長はそう言って、頭を抱え込む。

 「さすがにそれはないでしょうし、とっくに報告が来てなければおかしいですよ」

 「だが、製図工のことがあったからな」

 「おいっ、何してるんだお前たち」

 

 なんかまた新しい人が来たな……

 「所長じゃないですか! 

 どうしてこんなところまで……?」

 所長?

 ここは何してるとこなんだろう。

 所員の一人が上ずった声で、叫びかけたのを聞いて僕はそう思った。

 「それに、渡辺主任まで。

 どうされたのですか?」

 「いや、建造中のあいつを視察してたら、騒ぎ声が聞こえたからな」

 そう、威圧感を丸出しにしていった。 

 「すいません」

 最初に僕に話しかけてきた人が、僕が西村先生に怒られてるときみたいな感じで、謝った。

 さすが所長、影響力があるな。

 僕はそんなことを、思った。

 「で、何があった」

 今度は、こちらの領分ですと言いたげ?に、渡辺主任が、問いかけてきた。

 「はい、自分がそこにいる不審者を見つけたので、少々、話を聞いていたんです」

 それを聞いた瞬間、所長と主任の表情が獲物を見つけた猛禽類みたいな目に変わった(海軍さんも)気がした。

 僕ってなんかいけないことしたっけ?

 「またか…」

 なんか盛大にため息をつかれた気がした。

 「お前何しにここへきた?」

「別に何かをしに来たわけではないんですけど…」

 「どうやってここに侵入した?

 検問の連中は何をしてた?」

 「いや、気づいたらここにいたんですけど」

 僕は、ありのままうそをつかないで、そう言った。

 嘘をつかないことは大切なことだろう。

 僕はそう思う。

 違うという人はいないだろう。

 だけど僕は、嘘をつかなければならない時があることも知っとくべきだったと思う。

 「気づいたらここにいた?

 そんな小説みたいなことがあるか?

 冗談は大概にしろ!」

 案の定烈火のごとく怒られた。

 「警備に緩みはなかったか?」

 「なかったと思います、所長。

 そもそも、見慣れない風貌のものを入れるとは、思えません」

 なんだろう、不審者扱いを受けているようだ。

 情けないなあ僕。

 どうにかしてここを抜け出したいけど…。

 すでに野次馬が何重にもかこっていて、それはできなさそうだった。

 「どうします?」

 渡辺主任と呼ばれてた人が、いった。

 「どうするといってもなあ、何もわからな過ぎて…」

 「身体検査はやったか?」

 「はっ、今から行います!」

 「やってなかったのか」

 「申し訳ありません!」

 なんか、身体検査とか言ってるけど…

 そうつぶやきながら、僕はあたりを見回した。

 「うごくなっ!」

 海軍さんに、思い切しおこられた。

 「今から、身体検査を行う。

 動くなよ」

 そう海軍さんは言うと、僕の体を探ってきた。

 そうこうしてる間に、スマホと財布と生徒手帳が抜き取られた。

 ほかには何も入れてなかったから、漫画やらゲーム機がとられる悲劇はなかった。

 「なんだこれは?」

 四角いスマホを見て、そこにいる全員が首を傾げた。

 知らないのかな??

 でもそんなことはよっぽどのへき地じゃないとなと思う。

 だって、アフリカの部族だって、ケータイを使う時代だ。

 しかも、こんなに人(しかも日本人ばっかで大の大人)がいてだれおわからないというのは、変な気がする。

 だけどなんか言ったら、また理不尽に怒られそうだったから、何も言わなかった。

 「誰かわかるものはいるか?」

 所長が、そう言ってその箱を見せた。

 「ただの箱じゃないですか?」

 「おい見ろ!ローマ字だぜ!」

 「今の時世珍しいな」

 「だが、何に使うんだ?」

 「表面はガラスのようですが?」

 「ボタンがついてるようです」

 「どこだ?」

 「これです」

 「押してみろ」

 「うぉ!」

 いきなり画面がついたからか、何人かがビビッてのけぞった。

 「なんだこれ!」

 「いきなり光ったぞ!」

 「なんか四角いのがたくさん…」注アプリのアイコン

 「おい押すな!」

 「ん?」

 「なんだ・・以下略」


 そんなこんなで、現場は混乱していた。

 でも、電池残量あんまなかったからなあ。

 昨日そのまま寝たから。

 「あっ消えた」

 「なんか押したか?」

 「おかしいなつかないぞ」

 というわけで、このパンドラの箱は、使えなくなった。

 よかったのかなあ……。

 充電器ないし、使えない…。

 それでいっか。

 変なことになりそうだったし。

 とか考えてたら、

 「おい小僧」

 とやくざも顔負けしそうな感じのこわもてな作業員が聞いてきた。

 びっくりさせるなあ。

 心臓に悪いじゃないか。

 ドキドキして止まらないじゃないか。

 別にこれは、恋してるわけじゃないし。  なんか、島田さんみたいだなあ。

 「なんですか?」もう何度このセリフを言ったろうか。

 見当もつけたくない。

 「これは何だ?」

 そう言って見せてきたのは、僕の持ってる所持金の中で一番大きいお金である、500円玉を持って、聞いてきた。

 残金、569円だったかな?

 この辺はきちんと覚えてる。

 そうしないと、飢え死にしちゃうからね。

 「この平成ってのは何だ?」

 あれなんだっけ…?

 一瞬出てこなかったな。

 ビビりすぎかな。

 「元号だったと思います…」

 僕はそう答えた。

 ははは

 なんか野次馬の中で、笑いが起こった。

 ん?

 なんか笑えること言ったけ?

 真面目に答えたはずなんだけど。

 「おい坊主、そんな年号は存在しないぜ?」

 こわもての人がそう言ってきた。

 そしてまた笑いが起こった。

 うーん、どうしよう。

 

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