第11話恋だったのかな?

【天然石ショップLapis】


「この石、他の店で買ったんですけど、タンブルって言うんですよね?」


「はい、そうです」


「タンブルって産業廃棄物、みたいな事書いて有ったの見て、心配になっちゃって」


「確かにタンブルは、商品を加工する時に残った石を磨いた物です。でも、ちゃんとエネルギーが有れば、アクセサリーになっている石と変わり有りませんよ」


「そうなんですか…」


「オーナー、お願いします」


「はい」


麻友さんから事情は聞いたぞ。


タンブルのシトリンを貰ったので、ネットで調べたのか。


「いらっしゃいませ。石を見せて頂いても宜しいですか?」


「これです」


だいぶ汚れているな。


輝きが無い。


「浄化させて頂いても宜しいですか?」


「え?やってくれるんですか?お願いします」


シトリンのタンブルの周りに水晶をいくつか置いておこう。


エネルギーが生きていれば、輝きを取り戻すはずだ。


その間にお話を伺いましょう。


お母様が買って来られたのか。


天然石の知識は無く、お店の人にお腹に良いとすすめられて、胃腸の弱いお嬢さんの為に買われたんだね。


なるほど、かなり不安になっていらっしゃるな。


「まずお聞きしたいのですが、この石はお嫌いですか?」


「え?綺麗な色だし、最初は良いと思ったんだけど、タンブルって知って大丈夫なのかな?って…それで放ったらかしてたら汚れちゃって」


胃腸に良い事を思い出して、気になって出してみたんだね。


「ご覧下さい。さっきより綺麗になって来ましたでしょう?」


「本当だ、不思議!」


「エネルギーはちゃんと有りますので、もう少し浄化すればピカピカになりますよ」


「綺麗な石なんだけどな…」


「石の効果と値段は関係有りません。問題は自分に合ったエネルギーかどうかです」


「え?だって、凄い高いブレスレットとか有りますよね?」


「人気が有って、産出量が少ない石は高価になります。でも、産出量が多くて安い石でも、パワーストーンとしての効果の素晴らしい物がたくさん有るんです」


「でも、これタンブルだし」


「ちょっと握ってみて下さい。利き腕と反対の手が良いです」


お客様にシトリンのタンブルをお渡しする。


「どんな感じがしますか?」


「うーん…何か気持ち良いかも?」


「気持ちが良いのなら、お客様に合っているのだと思いますよ」


「最初貰った時は、気持ち良いと思ったのよ。でもネットで調べて不安になったの」


「例えば、いつもつけているのに忘れてしまったりして、物凄く不安になられる方がいらっしゃいますが、ちゃんと石との信頼関係が出来ていれば、そのぐらいの事で不安になる必要は無いんです」


「信頼関係?」


「石は人の想念を読み取るのですが、持ち主が石を信頼しなければ、そういう波動を出しているわけなので、その波動を石が感じ取るんですね」


「なんか、人間みたい」


「石は願いを叶えるけれど、ポジティブな波動もネガティブな波動も増幅しますので」


「え?じゃあ、悪い事考えちゃダメじゃん!」


「そうなんです。ちゃんと信じてあげれば応えてくれますよ」


「そっか、値段関係無いんだよね?エネルギーが有るんだから、タンブルでも良いのか」


「比べてみると、タンブルの方がエネルギー的には素晴らしい場合も有りますよ。石は一つ一つ違いますからね」


「わかった、ありがとう!ねえ、その水晶買った方が良いかな?また汚れたら綺麗にしてもらいたいから」


「浄化には水晶のさざれでも大丈夫です」


「じゃあ、それください」


「ありがとうございます。石と仲良くしてくださいね」


「うん、信頼してみる。お腹の具合良くなりたいもん」


ニコニコして帰られた。


シトリン、頑張ってお客様の健康をサポートするんだよ。


【天空路家】


「ニャー(パパちゃん抱っこ)」


「よちよち~」


「(好き好き)」


「ちゅきちゅきなのか、そうか。可愛い可愛いLapis」


おやつあげようかな。


【キッチン】


食べるかな?


昨日買って来たオヤツを、手の上に乗せてあげてみる。


「(あんまり美味しそうな匂いしないわ)」


「え?食べないの?」


あ、行っちゃった…


好きじゃなかったか。


やれやれ…


「お兄ちゃん、出かけるわよ」


「本当に行くのか?」


「どうしてそんなに面倒くさそうにするのよ」


「たまの休みだから、家でのんびりしようと思ったのになあ」


「私の水着姿が見れるのに」


「春陽ちゃんの水着姿ねぇ…妹のようなものだからなあ」


「麻友さんも誘っといたわよ」


麻友さんも水着?


それはちょっと楽しみだな。


あの日いきなりkissされちゃったけど、その後は何も無かったようにいつもの日常。


本当女の子ってわからないね。


「お兄ちゃん、早く」


「はいはい。今車出しますよ」


「Lapisごめんね、ちょっとだけ私にお兄ちゃんを貸してね」


「ニャー(お出かけするみたいね。私はお留守番)」


【天空路家の前】


〈車に乗り込む春陽〉


「麻友さんは?」


「ここに来て、って言っといたから、もう来る頃よ」


女性2人を僕1人でエスコートか。


店が休みなのは平日だからね。


応援頼める男友達は居ないしな。


そんな事を考えていたら、向こうから麻友さんが来た。


「お待たせ」


「乗って」


〈ドアを開けて麻友を乗せる遊〉


「ありがとう」


「(お兄ちゃんたら…私にもそういうふうにしてほしいのに)」


「さてさて、2人の姫を海までお連れしますか」


「白い車だったら、白馬に乗った王子様みたいだったのに」


「あら、ナイトよ」


女性はそういうの好きだね。


【海】


春陽ちゃんは着替えに行った。


あれ?


麻友さんは行かないのかな?


「なあに?」


「いや…着替えないのかな、と思って」


「私日焼けしたくないから、海には入らないの」


何だ…


「なあに?その顔」


〈遊の顔を覗き込むように顔を近づける麻友〉


「 僕、どんな顔してた?」


「残念そうな顔。フフフ、見たかった?」


「え?」


「私の水着姿」


「……」


見たかったなんて言えないし、見たくないって言うのも失礼だよね。


「……」


「……」


ああ、また見詰め合うみたいになっちゃってる。


「……」


「……」


麻友さん…顔…近いから。


って、え?


〈向こうから春陽が歩いて来る〉


春陽…ちゃん…


その水着は、ちょっと大胆過ぎないか?


また男達の視線集めちゃってるぞ。


ほら、ナンパされてる。


「1人?」


「俺達と一緒に遊ばない?」


あーあ、囲まれちゃったな。


これは助けに行かないと。


「あの、私…ごめんなさい」


「良いじゃん、遊ぼうよ」


「春陽、遅いぞ」


「お兄、あ、遊さん」


「チッ、男が居たのかよ」


なんとか春陽ちゃんを連れて戻って来たぞ。


「あのなあ、その水着」


「おかしい?」


「いや、ちょっと」


「似合わないかな?」


「そうじゃなくて…ああ、もう、かき氷食べよう」


かき氷食べて頭冷さないとな、僕も。


何だかドキドキしちゃってる。


相手は春陽ちゃんだよ。


生まれた時から知ってるんだ。


そりゃ、オムツ変えたなんて言わないけどね。


でも、本当に妹みたいな子だからな。


しっかりしろ、僕。


「麻友さんも水着持って来れば良かったのに。お兄ちゃん喜ぶし」


「え?」


「何で僕が喜ぶんだよ」


そりゃ、ちょっと見たかったけど。


でも、他の男達に見せるのは、ちょっと嫌な気もするな。


何でだ?


何で嫌なんだろう?


着るとしたら、春陽ちゃんみたいにビキニ?


何だか体が熱くなって来ちゃった。


「どうしたの?お兄ちゃん」


「暑いんだから、そばに来るなよ」


「どうしてよ?良いじゃない」


「そんなカッコで、僕に近づくなあ」


「そんなって、ひどい」


「お兄ちゃんだけど、兄妹じゃないし、僕だって男なんだからな」


「変なの。いつもと言ってる事が違う」


「遊ちゃん、春陽ちゃんの事、異性として意識し始めたみたいね」


「本当?だったら嬉しいな」


「私もお姉さん卒業しようかしら?」


「何言ってるんだよ」


ったく、2人とも…


何がお姉さん卒業だよ。


麻友さんは昔から追えば逃げるんだ。


いつもはぐらかされてた。


それで、お姉さんと弟みたいな関係キープして来たんだよな。


だから僕も、いつからか異性として見なくなってた。


それなのに…


〈kissされた時の事を思い出す〉


何で、突然あんな事…


ちょっと好きかな?って思ったのは、高校生の時だった。


高校卒業して、la merで働き始めた麻友さんは、1つ年上なだけなのに、凄く大人に見えたんだ。


僕は、いつも子供扱いされて…


全然男として見てもらえなかったんだよな。


あれから12年だよ。


あれは恋なんて言えるものじゃ無かったと思う…たぶん。


恋…だったのかな?


その前に、相手にされてなくて、そのうち気にしなくなったんだ。


子供だったな。


自分の気持ち…ごまかしてたのかな?


綺麗になったよな、麻友さん。


あの頃よりずっと。

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