第207話 死亡遊戯 影坊主≪かげぼうず≫
自爆までに残された時間は限りなく少ない。それでも二人は動き出す。
【この状況下で、どうして】
残り五分の勝負――。
【
ヘルメスが見た表情は状況にそぐわない。残り五分というのは人間側が決めた時間でしかない。異界の者がソレを待ってくれる保証などない。極限に追い詰められても、なぜ笑っていられるのか理解に苦しむ。
――ピンチって、やつだ……。
涼宮強とて、ヘルメスが想い抱く状況をさすがに理解している。
それでも、顔が笑ってしまう。
――さぁーて、
懐かしい子供のころの情景。ハラハラする場面はいくつでもあった。大人から見れば大したことではないが、幼き心臓が飛び出しそうになるほどビックリしたこともあった。
けど、不思議と
――どうしたもんかなァッ!!
ソコに恐怖はなかった。
走ることだけで全てが動き出した気がした。追い詰められてもどうにかなるとやる気に満ちていた。考えるよりも先に感情が脚を動かしていた。ピンチというモノが楽しくてしょうがなかった。
その感覚が、涼宮強にいま蘇る。
【遊ぶ気か……この状況で、この場面で】
勇者ではなく遊者。戦いをも超越する先にある者。
【だからこそ、】
だからこそ、神々は涼宮強と同じく笑った。
子供のまま何にも染まらぬず、
まだ何者とも区別など出来ない姿。
【君から眼が離せないっ!】
「コッチだ、デカブツ!!」
ヘルメスが興奮して眼を輝かせる。何をするのかも想像など及びもつかない、型もなく自由奔放に創造を繰り返す様に可能性を見る。眼が離せないのは、まだ輝ききっていないということ。
「オレは、小さいころ最強の囮もといい――」
涼宮強という主人公は――普通ではないのだから。
「
その異常さが何か起こしてしまうのだと、神々は期待せずにいられない。次はどうすると集中して動きを凝視する。一瞬でも見逃してしまえば変わってしまうかもしれない。
【遊べ……自由にっ】
創造の根源が詰まっている。自分に出来ること、自分の持てる力。
【出来るはずだ……
自分の持てるイメージ、自分の可能性を全て、余すことなく、
【誰よりも、気ままに、思いのままに】
解放することだ。
全ての始まりがソコに集約される。この世界にあるもの全てがそうして始まっただろうと神は創造を期待する。恐怖や絶望ですらも楽しんでしまう、その幼き未熟さという起源を。
【誰よりも、自由に、自在に】
囚われることなく、未来を見ているそのまなざしを。
人間の無限の発想が生み出す、本気の遊戯を見せて見ろと。
「死亡遊戯ッッ!!」
【――――遊べ!!】
神々の期待のまなざし、異界の王の怒りの眼光。全てがたった一人の人間に集中していく。期待や不安、未知と恐怖、興奮と怒り、少年と王。全てが混ざり合いながら、涼宮強と異界の王の遊戯が始まる。
――キサマか……っっ!
滅びの爆発よりも怒りが湧きたつ。
王の視界に映ったが故に
――全てを奪った貴様かァアアアアアアアアッッ!!
仲間を殺し、母を殺した張本人がコチラに向かってくるのだから。
無視など出来ようはずもない。
だが、涼宮強の作戦通りだった。
――やっと、意識がオレに向いたな……へへ。
「
死亡遊戯が発動する。
最強の囮の誘惑。小さい頃だれもが涼宮強に注目した。誰よりも強かったから、誰よりも輝いていたから、眼を離せなかった。みんなのヒーローだった男がおいそれと目の前に出てくれば無視など出来なかった、捕まえればヒーローになれたのだから。
格好の標的になることは慣れている。
その強へと異界の王の体から腕が伸びる。
爆発して道連れにするよりも先に報復してやると、怒りで腕が自然と動いていた。憎いが故に、殺したいが故に、その標的を前にして誘いに乗らざるえなかった。
蚊の如き人間を叩き潰すように、
「ゲゲエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!」
異界の王の手が地面を荒々しく叩きつける。
涼宮強の影と異界の王の腕の影が重なる。
地面が弾け飛び、大地が軋みを上げる。
「ゲェエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
これでもかと異界の王の腕が全体重をかけるようにその場所を押し込む。
その光景に神々の眼が、口が、開く。
「残念だったな……ソレは俺の」
涼宮強の声が聞こえる、何事もなかったような声が。
「―――
異界の王を
元は”かげぼうし”という遊びだが、この遊戯は残像拳。実体は高速で移動し幻影だけをその場に残す、イリュージョンプレイ。掴んだと思っても無駄だと相手を何の成果もないボウズへと追い込む
死亡遊戯がひとつ『
≪続く≫
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