第202話 未来を背負えるのか
老人はただ静かに屋敷で寝かせた少女の前に座り、
『鈴木政玄のやり方に違和感はないのかって聞いてんだよ、時さん!』
涼宮晴夫の必死な言葉を思い出していた。
何も知らされていない急襲。緊急放送と連動する御庭番衆の動き。
『いつまで俺らはこんなことを続ける?』
この世界を狂わせた一人でもある自分に問われた言葉。
『いつになったら、俺たち大人は
その子供の一人である何も知らない少女の髪を老人は撫でる。
『俺たちのツケをいつまで次世代に押し付けるッ!!』
この世界を創ったのは自分たちであるという自覚を問われる言葉。彼ら彼女らは何一つとして知らぬ間に生まれ落ちてきた。何年と何千年と何万年と続けたきた世界の終わりに立ち会う宿命を。
『なぁ時さん、』
願うように自分を見た後輩の晴夫の顔が物語っていた。
『アンタは気づいてもおかしくないはずだ!! 目を逸らすな!!』
自分を慕っているからこそ願ったのだろう。助けを求めるように、時政宗ならば本当の答えを知っているはずだと。涼宮晴夫が核心に近づきつつあることは分かっている。
段々と世界が終焉に向かっていっていることを。
『その程度の強さで踏み込むのは、あまりに命知らずでございます』
櫻井はじめという少年に送った忠告。
この世界がもう戻ることなどないと老人は知っている。
その進めてしまった時が戻ることなどないと老人は知っている。
『俺は大人だ……子供のままじゃいられねぇから』
始まりの英雄と呼ばれるよりも前の幼き頃より知っている。
それでも、
『ガキのままじゃ救えねぇから、』
何かを救いたいと傲慢に願う姿は変わらない。
『俺は大人になったんだ!』
ソレが漢を英雄たらしめるものであることは近くで見て来たから知っている。
『俺が全部まとめて罪を背負ってやる』
ソレが涼宮晴夫という男の強さだと。
『
「晴夫……お前に」
どこまでも世界が歪に歪んでいることを誰よりも時政宗は知っている。この世界は不条理で出来ている。願いなど叶うわけもないなどということを理解している。
そして、下される未来は決まっている。
「背負えるものか……未来が」
その未来を背負うことなどたった一人の英雄に出来るのかと。
その未来は着実に近づいている。
だからこそ未来に老人は目を向けて、
「…………」
ただ静かに鈴木玉藻という少女の頬を優しくなでた。
≪続く≫
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