第182話 王と男の歩く道

 先頭を歩く二人の進化が試される。


 世界を統べるに至った王と自警団のNo.2にしかなれなかった男。男の前には王を鼓舞する魔物の軍勢が押し寄せてくる姿が瞳に映る。まだ能力チカラの制御には至らない。


 ――時間がかかりすぎだ……。


 白い火球が燃え盛る。その炎を上に手を掲げながら、ただ光景を見下ろす。黒服の仲間たちの戦闘を見ていた。手を抜いてる者がいたかと聞かれれば、そんな奴は戦場にいなかった。


 ――どうにもダメだな……こりゃ。 


 迫る運命の足音に火神恭弥はふと笑いを零す。


 傷ついた魔物たちの目の奥に輝きがある。王を護れと王を失うことは命を賭しても阻止すると。一つの生命体のようにソレは群れとなり京都の地を走る。


 魔物たちの奇声が上がり続ける。


 言葉にも鳴らない、鳴き声を上げる。


 王と共に生きると、貴方を護ると、声を上げている。


 その声が届く、風に乗り、大地を叩く足音のドラムに乗せて。

 

「ォオオオ……ォオオオ」


 聞こえていると、届いたと、感謝するように、小さく王は鳴き声を返した。


 ソレを前に槍使いは構えを立て直す、戦場に訪れる岐路を感じ取ったが故に。


 ――明らかに気配が変わりやがった……。


 人間とは違う構造。脚を一本失いながらも、残り九本。ひとつの異世界が求めた究極の進化形態。それだけならまだよかったと松本は思う。目の前で立ち上がったソレは先ほどまでのとは別種に近くさえ感じる。


 ――野郎……ココに来て……


 敗北の恐怖を知り、それでも乗り越える力を得た。一人で歩き続けて来た王とは違う。王を支える軍隊が完成し、何よりも王とのしての自覚を纏う。サソリの脚に甲冑を来た騎士の上半身。


 その右腕に直結している槍が静かに矛先を松本に向かう。


 松本の体に悪寒が走る。佇まいに宿る風格が王者であることを如実に伝えてくる。




 ――進化シンカしやがった……っ。




 その兜から除く眼光の鋭さが、宿した輝きが、増している。

 

 勝利しか知らぬ王が敗北を乗り越え、配下の声によって立ち上がった。

 

 ――もはや……今までとは……


 そんなモノ前にして、どうしろと薄ら笑いが零れる。


 ――別物。


 強さとはその身に感じる恐怖。松本の感覚が嫌でも研ぎ澄まされる。


【ずっと前を歩いてきた、ずっと先頭を歩いてきた、だから見えなかった】


「どけ、菊田」


 戦局が大きく動き出した。優性から劣勢に持ち込まれていく。そんな状況を口に指を加えて見ていることなど出来るはずもなかった。なによりも、こちらが王手をしかけられる番になった。


 だからこそ、田岡茂一は斧を強く握って仲間を威嚇する。


 火神恭弥という先頭を歩いてきた漢を失うわけにはいかないと。


 だが、僧侶の菊田はメイスを持ったまま両手を広げて、田岡の前を遮った。


「俺はお前を行かせることは出来ない……」


「きく……タっっ!」


 オマエを行かせはしないというその姿を前に、田岡は歯を食いしばる。


 王と火神の歩いてきた道は違う。




【未来が真っ暗なのだと知っていたから、世界は暗いものだと思い込んでいた】




「銀翔さん、答えてくださいッッ!!」


 京都の街が壊滅しても問題ないと言い切る銀翔衛を前に部下がせきを切ったように声を荒ぶらせる。ソレを受けて銀翔衛は少しばかり理解されないことへの憤りを示した。


「京都の街が壊滅しようが、問題はないんだ」

 

 そして、優しい口調で語り掛ける。京都で起こったアビスコーリングに対応することがブラックユーモラスとしての責務であると知りながらも、彼は穏やかに構える。


「その程度のこと、どうとでもなる」


 その言葉に問いかけた部下の口元が怒りで震える。


【後ろを振り返って見ても見えはしない、仲間の姿が映るだけだった】



《つづく》

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