第144話 島国の鳴動
涼宮強が初めて目にする光景だった。大地が震える場所でただ待つしかなかった。体にかかる圧力が違う。重力が反転し始めた空間の空気が張り付く場所で動けなかった。
――なんだよ……こりゃ……。
空の光を奪うほどに巨大な暗闇の渦。
絶望の深き深淵の闇、
異世界の王の
――ナニかいる……
生命の波動を肌で感じた。驚きと悪寒が混じり合う。戦場にあったゲートの存在感が増している。大地の震動が危険を知らせている。大きな渦の中にあるものと涼宮強の目が合った。
――
暗闇の中に光が見えた。ソレを目を凝らして見た。段々と小さかった光が静かに半月状に広がっていく。光といっても発光しているのとは違う。もっと得体が知れない感覚に近かった。
「――――――っ!?」
完全に目が合った。全身に電流が走ったようだった。コチラが見ていると同様に涼宮強を確実にとらえる。それもこちらが向けている視線とは明らかに違うものがコチラを見ている。
――デ、デっ、デッ……
恐怖にあてられ慌てて腰を落として身構えた。ブルブルと体が震える。黒く黒く薄暗い先からこちらを覗いている。ゲートの中から怒りを滲ませた瞳が涼宮強を捉えて逃がさない。
涼宮強が今まで出会った魔物とは違う。あまりに想像を遥かに越している。
その迫力に圧倒された――
涼宮強にとって、あまりにソレは、
――デカすぎだッッ!?
気味の悪い、大きな一つ目。二つではなく一つの眼球だけであるにも関わらず、その大きさはゲートの中で存在感を放ちすぎていた。空にまで広がるゲートの中心に見える不気味な眼球。
直径にして十メートルは越していようかという、
薄黒い虹のような紅玉を持つ眼球。
そんなものに見つめられている強に特大の悪寒が走る。大地の震動が徐々に勢いを増している。マウスヘッダーたちが声を上げる。鳴き声は大きく大きく王を出迎える号砲。
それは京都も同じだった、同時刻。
「何の冗談、だ……よっっ」
三嶋の顔が歪んでいた。ゲートの奥に光る赤い眼球。だが、栃木とは違う。ゲートの中心ではなく、遥か高い位置に赤い不気味な光が見える。ソレが地上にいる自分たちを見降ろし眺めるように横に動く。
空に浮かべた氷の上で動かなかった指揮官が
「六体神獣クラスか……ったく!!」
危険を察知して移動を始める。これから来るのが本番だと理解している。ここからが異世界の本気の時間に他ならない。今までのは王が来る前までの前座にしか過ぎない。
「田島所長、時空の歪みが臨界点を突破します!!」
「全所員、備えろォおおおお!」
超常なる者の次元突破で起こる歪み。
政玄の秘書が彼の体を庇うように移動する。
「総理、窓際にいると危ないですよ――」
彼女は総理の身を危惧するように彼を背に窓の前に立つ。これから起こるのは
「ねぇちゃん、ワリィ!!」
咄嗟だった。考えるよりも早く涼宮強の体が動いていた。何が起きるのかも分からないが、ゲートの奥から来る異界の王による威圧とゲートが作り出す次元の歪みに危機感が反応する。
「えっ――――?」
だからこそ、涼宮強は咄嗟に、
「オラァアアアアアアアアアア!!」
杉崎莉緒の制服を掴んで力いっぱい遠くへと放り投げた。自分以外の誰かを気にしている余裕などないと野生の感で動いていた。加減も忘れ力強く投げられた杉崎の体が宙を舞う。
――どう、な……って!!
急激に投げられた体に風圧を受けながらも、黒服の身体能力で空中で体勢を無理矢理にも整え始めた。反転してゲートに体を向けて空中で着地の姿勢を整える杉崎。飛ばされ続けることを阻止するように地面に荷重をかけて落としていく。
「ッッ……っ……」
膝を地面につけて無理矢理勢いを殺したが、強に飛ばされた距離が離れすぎていた。杉崎の視界に映るゲートの黒い渦がレンズでも通したように歪んでいる。
「少年、離れ――――」
杉崎の声をかき消すように、
日本という島国が心臓の鼓動を打つように大きな鈍い音を立てた。
栃木と京都のゲートを起点して、大きな波紋を広げるように鳴動した。
《つづく》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます