第135話 特異点《トクイテン》
【人類は遥か太古の昔……】
ヘルメスの瞳に映るのは獣の眼光を持つ少年。淡々と語る口調で憧れる。
【獣だった】
人間が特別な存在ではない。それも星にある一つの生命でしかない。そんな単純なことが時間に薄れて消えている。弱き存在であった太古を忘れ、いまその星を支配している神の如き、傲慢さで君臨している。
【理性と智慧で本性を覆い隠そうとも、薄っぺらい偽りの仮面は……】
下の世界では一人の少年が暴れ狂う。その拳は命を砕く、その脚は命を切り裂く。魔物という同じ生命で争い、殺しあう。その姿に理性はなく、知恵もない。ただ自分の方が上だと力で示す。
【感情にさらわれる、顔を出すは獣の本性】
第八研究所所長の不死川、第六研究所所長の田島ミチル、鈴木政玄、政玄の傍らにいる秘書。ベッドに寝ている一人の少女を見守る時政宗という老人。京都の街で戦う黒服、火神恭弥・田岡茂一・三嶋隆弘。部屋で次の事態に備える銀翔衛。
【何もしなければ時代に取り残される……何も知らなければ時代に置いて行かれる】
アジトで一人佇む八神出雲。蓮とその隣座る狼少女。包帯の下の口を歪ませて一人嗤う
【一人一人に
教室で緊張したため息を漏らす田中竜二とヒロインたち。小さく手を握りあう小泉とニキル・マーシェ。窓から遠くの空を眺める櫻井はじめ。その姿を遠くから眺め観察する六道花宮。赤髪の親友がシャドーをして体を温めるのを、近くで見ている涼宮美咲。
競馬新聞を片手に赤ペンをクルクル回す眼帯の教師。
【全ての物語には終わりが存在する】
遠い地から、故郷を想い、砂漠地帯から空を見つめる涼宮晴夫と美麗。
【全ての
ただ戦場で獣は吠える、自分はココにいると神に訴えるように。
【一つの終わりに導くのが君の役割だ……】
ヘルメスはただ一人に期待する、たった一人の特異者。
【だから、敢えて私は今後の期待を込めて君をこう呼ぶよ】
その瞳に宿るのは愛にも似た破滅を望む眼光。
たった一人というちっぽけな存在に何が出来るのかというのか。たった一人の少年に神々は何を願うのか。たったひとつだけの願い。それが齎す終焉の結末を願い、彼の者を呼ぶ。
【――――――
全ての人間が涼宮強という人間に繋がっていく。ソレは彼が終わりを告げる者だからだ。全ての物語がただ一人に集約する終焉の結末、それら全てを繋ぐ終点。だからこそ、涼宮強は特異点となる。
「ばくだん……」
涼宮強はまだ何も知らない、気づいてない。
自身が世界にとって、どれだけ特別な存在かということを――。
「みぃーつけた!!」
そんな期待など知る由もなく、遊ぶように声を上げる。マウスヘッダーの一つの口に手を突っ込み、無理矢理に持ち上げた。その行為に反して、楽しそうに愉快に、邪悪な存在は爆弾を投げつける。
子供のように無知であるがゆえに、その恐ろしい行為の意味を捉えない。
魔物たちの群れの中心に叩きつけられる爆発個体。
仲間が起こした爆風が魔物たちを飲み込んでいく。
「なにをやっている……小僧、やめろ、やめぇろッッ!!」
不死川が恐怖で叫び声をあげる。どれだけの危険行為かわかっていない。爆発が恐ろしいということを理解していない。そんなことをすれば、どうなるか未来が見えていない。
「もう一匹、爆弾みぃーつけた♪」
迷いのない動きでもう一匹の爆発個体を捕まえる無垢で邪悪な少年。
――爆弾だと……
そのフレーズがモニターを通して不死川の耳に飛び込んできた。
――どうやって……見分けているあの小僧!?
外見上見分けのつかない魔物。それを見破る方法に検討がつかない。それでも感覚的に見分けている可能性。迷いのない動きで相手の口に手を突っ込んで引きずり回して敵の群れへと走っていく。
「
止まらぬ暴挙。マウスヘッダーたちの群れにある共通認識が走る。
――キケン……キケン……
飛びぬけた力を持つ別種。その中でも特に危険な存在としての認知が広がる。
――アイツ……ア、ブナイ……
コチラの能力を利用して遊んでくる。生命体としての強さがその常人離れした動きにありありと出ている。そして、動き出したら止まることを知らない。遊び場を見つけた子供の用に、無尽蔵のスタミナを見せている。
――アレダ、ケハ……ハイジョ……シナケ……レバ
魔物たちの中に走る戦慄に似た恐怖。異常個体であるなら人類側にもいる。そのただ一人の少年がそうなのだ。ただ一人違う異質な存在に振り回される。
――オウ、ガ……キケンキケン!!
全軍の意思が一つになる。標的はただ一人。
戦場にいる黒服たちは無視された。四つ手の化物たちが大地を揺らして突撃にかかる。ゲートからまだ出てくる魔物たち。それらも手足を生やすと同時に凶悪な獣を抑えるために動き出す。
「クンクン……アレか!」
鼻を引くつかせる涼宮強という特異点に全てが引き寄せられていく。
《つづく》
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