第91話 異世界異端者 VS 御庭番衆 —ありえねぇだろ、こんな世界—
包帯男にとってはコレは好機に他ならない。
「誰もが眼を背けて何を考えてるか分からないよな」
誰もが忘れた様にしている。
「ありえねぇだろ、こんな世界」
男はずっと狂っているが故に気づいている。
「何が神だ、何が転生だ?」
こんなものが平然とあることを受け入れる理由など何処にもない。
「死んだんだ……俺は確かに、あの日、あの場所で」
それは思い出すことなど出来るはずもなかった。
「苦しみ抜いて、気が狂ったように死んだッ!!」
男の迎えた死は壮絶なモノだった。それは常人の死に方ではなかった。地獄に近い感覚の中で死んでいった。だが、死ぬ苦しみを味わって次に眼を覚ました場所は異界に他ならない。
「神は俺に言った」
何かも分からぬ死後の世界であった神。その神は人である自分を見て嗤った。しかも、自分の人生を問うでもなく自分の存在を問うでもなく、当たり前の作業であるように神は言った。
「二度目の生と神の力を与えましょうと」
男は神に問われた。どんな力が欲しいと。
もう一度人生はやり直せるのだと。
「思わず……笑っちまったよ…………」
包帯男は頭を抱えた。くだらなすぎる幻想。狂人の見た夢、まやかし。
思い浮かぶ言葉を吐き捨てても、それでも否定することができない。
「バカじゃねぇのって、なあ…………」
生きている感覚が確かにその世界であった。そんなことがあり得るはずがないと思っていても実体験してしまえば違う。幻想や夢、まぼろしと言った類と違う現実の存在感が漂っていたのだから。
「その時、俺は理解した」
男は向かい合う女に乾いた笑いを返す。
「神ってのは、何も見てねぇってな」
男は初めて直面した神という存在を思い出し馬鹿らしいと態度を露わにする。
「俺が何をやってきたか、俺が何をしたかなんてどうでもいいんだ」
男は罪を重ねた。狂って、奪って殺した挙句に、
何かを得ることも無く――死んだ。
「裁きなんてない、罪なんてものは存在しない」
悪人であろうと罪人であろうと二度目の生を与える存在が神だ。
「何をやってもいいと奴らはいう」
男は神を試した。男が望んだ力は
【罪を犯すほどに強くなる力】
神は当たり前のようにソレを男に寄越した。
「俺はそこでさらに理解した」
力を受け取った時にソレが神の行いだと男は嗤いが止まらなかった。
「神なんてものは人間をみちゃいねぇ、アイツ等は人間というモノを知らない。正しさなんてないんだ、正義なんてものはない、悪も存在しない!!」
男は勢いよくソファーから立ち上がって神のいるであろう上を見る。
「俺は奴らに聞いた!!」
それは包帯の男が神に問いかけた初めての質問。
「俺は人を殺す、そんな力を与えたらもっと人間が死ぬ、それでもいいんだなと」
男はその時の状況を思い出し、薄ら笑いが止まらなくなる。
「奴らはいった」
自分の狂気など神の前では正常と差はないのだと。
「多く殺した者たちの銅像を建てて崇める人間なのに、何を言ってるか理解に苦しむって、よ!! 嗤っちまうような!!」
男は女に問いかける。これが神の選んだ回答だと。
「確かに神の言う通りだ。英雄なんて呼ばれる連中は大量虐殺者の仮の名だ」
男は人間にこそ問題があると嗤っている。
「俺と英雄と何が違う? 国を滅ぼし、人を殺し、モノをかっさらう」
包帯の隙間にある瞳が歪む。
「だったら、俺も英雄じゃないのか?」
同じことした結果が英雄であるなら、狂人こそが英雄だと。多くの人間を殺し繁栄を繰り返すのが人の歴史。そこで英雄は次々と生まれた。あらゆる国に英雄は存在する。
だが、人を殺さない英雄の方が少ない。
「けど、違うんだよなー」
ソファーへと男は倒れ込むように寄りかかって座った。
「人間が創った正義と悪で人は裁かれる」
狂人とて英雄との違いなど分かっている。
「人を裁くのは神じゃなくて、結局人間のエゴだ」
包帯の上からこめかみ辺りを二つの指で男は二回こづいた。
「要は人間のエゴの塊が、ルールとこの世界を作ってる」
そして、男はその二本指を女に向けて問いかける。
「なら、これはダレのエゴだ――——?」
女は指を向けられても冷めた眼で狂人を眺める。包帯男はじっと相手を見つめた。しかし、女が返答を返すことはなかった。この世界の問いに対して女に答える義務などない。
男は出していた二本指を静かに下へ降ろして肩を下げる。
「十七年前に起こったミレニアムバグ」
ソレがこの世界の歴史。
「世界を変えたのはエゴだ」
どれだけの変化が起きたのかを忘れたように過ごしても起きたことだ。
「なら、俺も世界を変える為にエゴを貫き通す」
この大きな世界の流れに誰もが身を委ねながらも包帯の男は違う。
「俺が狂っていない世界を作る」
ソレが男の進むべき道だ。狂人が望む狂人の世界。
「俺たちのための世界に変えてやる」
それが男の野望に他ならない。そして、後ろのメンバーもそれを聞いて嗤う。だからこそ、この男の元に自分たちは集ったのだと。その狂人に惹かれたからこそ、外にいるメンバーたちも命を懸けている。
御庭番衆の頭は理解する。
——異世界異端者のトップか………。
対峙して、話を聞いて分かった。
外で戦った兵士の数はこの男に信頼を預けた者たちの証。異常でありながらも、この男が人の上に立つ資格がある証明。エゴの塊で出来た世界、ソコで自分のエゴを貫くが故にブレない信念。
——あながち、捨てたもんじゃない。
「この狂った世界に正常なフリして順応しているヤツの方が」
女は男の本心に嗤って返す。
「狂ってる意見に————私も同感だよ」
それが正しいのだと。
《つづく》
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