第89話 異世界異端者 VS 御庭番衆 —ワリィな、余興が過ぎたみてぇだ—

「マジ、イラつく………」


 金髪インテールの少女は怒りを露わにする。


 少女の思った通りになど戦闘が進むまない。相手が二人ということ以上に、それぞれが強さを持っている。一対一ですらやり辛い相手が二人もいること。急いで洋館に向かわなければという焦燥感。 


「イラつく、イラつく、イラつく、マジ苛つくッッ!!」


 その場で足で何度も地面を蹴りつけ憤慨を漏らす。


 ミミの姿を見てサイは顎髭を数度撫でて、困った顔を浮かべる。


「うーむ……惜しいのぅ」

「…………なに言ってんだ、デブ?」


 ソウのイラついた視線を受けながらも淡々と破戒僧は返す。


「御庭番に欲しいぐらいの逸材かのー、と思うてな」

「…………あん?」


 圧倒的な戦闘センスの塊。


 ミミは御庭番の自分達を相手にまだ致命的なダメージすら追っていない。ピンチを迎えても跳ねのける危機回避能力。おまけに度胸の座りもいい。


「スニーカーで上手いことナイフを殺しての回避、おまけにダメージが少ないときた」

「回避はしてねぇだろ……」

「じゃあ、なんじゃ?」


 不思議そうに問いかけるサイにソウは肥大してない方の片目を顰める。ソウには大方の予想がついている。ミミが出す武器の秘密。


「閉まったんだ」

「ほう………閉まったか」

「操って動かす方は完全には分からねぇが、」


 ミミがどこから武器を出しているかということも。




「あの武器はアイツが作りだしたもんだ」


「ほうほう、そういうことか!」


「ボロボロじゃん……捨て確定だし」


 二人の会話を他所にミミは自分のパーカーを見る。


 衣服が所々ナイフで引き裂かれダメージジーンズのように紐が散見されている。


「血が出ておらんのはそういう原理か!」

「操るのはオメェの馬鹿力で無理だっただけって、ことだろう………」


 それでも、ミミのパーカーには血の滲みが無い。それはナイフで斬りつけられるよりも早く武器を収納したことに他ならない。それでも衝撃で飛ばされたということはあの量を一気にはしまい込めなかったということ。


「あのナイフの秘密もソコに隠れている」

「おそらく……あれじゃのう」


 サイは遠くにいるミミを見ながら、


 髭をいじり喋り続ける。

 


「————骨か」



 人体で一番硬い部分は歯だ。それでもミミの歯ではないと想定づけるサイ。なぜなら歯の本数には決まりがある。個人差はあれでも永久歯の数は28本~32本と決まっている。その数をゆうに超えるナイフを出している。


 ならば、答えは骨しか残っていない。


「それも単なる骨じぇねぇ」


 ソウの鉤爪と互角に撃ち合う骨。


強者つわものの骨だ――」


 人体の骨ではそこまで強度は無い。常人の骨であればハンマーで砕ける。

 

 だが、モノが違えばそれは変わる。


 その骨がどういったものかという出処が変わるので在れば話は別物。


 使っているのが異世界転生で鍛えられた――


 とするならば。

 

「ますます、興味が湧くのう!」

「チッ…………ハァー」

 

 もし、自分の体内で骨を操りソレを加工できるので有れば、一級の武器に当たる。武器に求められるのは硬さ。何よりも硬いということが求められる。


 撃ち合う必要がない武器などない。


 そこに密度までをも操れるのだとしたら、

 

 魔物の素材の武器よりも、


 優れた武器が誕生する可能性がある。


「おーい、お嬢ちゃん!!」

「なに……」


 遠くで手を振るサイに眉を顰める。


 イラつきは依然残ったままだ。


「もしよかったら、俺らの仲間にならないか!」

「…………」

「命を散らしあって不毛に戦う必要もないだろう!!」


 遠くからサイは勧誘を促す。御庭番衆に来いと。


 御庭番衆に求められる素質は聖人であることではない。任務を遂行する能力があるかどうかだ。殺しを求められることもある。それでも任務をこなす精神力、判断能力。


「嬢ちゃんなら、充分な実力もある!」


 そして、抜群の才能を見過ごしてはいけないと、


「ココで嬢ちゃんを殺すよりもなー、嬢ちゃんによって救われるヤツのほうが多いと思ってな!! どうだ、悪い話ではないだろう!!」


 サイは呼びかける。このまま続けてもミミが敗北すると。


「十秒だけ回答を待つ!!」


 降伏して仲間になるのなら、これ以上の戦闘は無いと少女に呼びかける破戒僧。だが、少女は気だるそうに苛立ちを全開にする。これは少女にとっての挑発だ。


「バッカ……じゃないの……」


 ——パパから離れろとか…………


 少女の殺意が森全体を支配していく。それは回答に他ならない。




 ——アリエナインダケド




 遠くから二人体を打ち付ける様に金髪少女から回答が送られる。


「決裂だな………サイ」

「残念じゃなあー…………」


 


 打ち破られた扉がフロアに飛散する。


「たのモォオオオオオオオオオオオオ!」


 女の乱暴な声が響き渡る。それに仕掛けを作っていた張本人が口角を緩める。


 ——随分とあっさり……破ってくれたわね。

 

 マリーの微笑みを見る様に狼少女の視線が動く。


 ——敵……気配。


 さらにマリーからマダムと追い越して、


 ——アッチ。


 扉の横側に視線を向けると同時にフロアに素早く足を踏み出す。


 獣の感性が敵の襲撃を察知した。


 扉に拳を叩きつけ終わったお頭の横で、


 二つの視線がぶつかり合う。


 目の前にあるのは白眼。


 扉を開けた相手に対する速攻。


 待ち構えたいたように道着を来た男が、


 正拳の構えを取り終えている。


 その男が正拳を放つよりも早く狼少女が前に立ちふさがる。白狼ハクロウは迷わずに拳を打ち出す。どちらでもよかった。敵を攻撃できればいいのだ。それが侵入者の一人であるなら迷いなどない。

 

 ——敵………ッ!


 二つの狼の名を持つ者が対峙する。


 ——小癪……ッ。


 だが、後出しでも獣人の筋力が人間を上回る。狼少女が縦拳で相手の正拳突きを打ち上げる。攻撃を防ぎ、次の攻撃の主導権を握るのはスピード。


 男の前で尻尾が激しく旋回する。


 空手家は迷わずに右足の蹴りを上へと向けて放つ。


 ——遅い。


 足先がつくよりも早く少女は駆け抜ける。相手の背面にまわり込む。


「ハァアアアアア――!!」


 狼少女の咆哮が響く。彼女が使うは中国拳法。並足を揃えて膝で軽くしゃがみ、敵の足を引っ掛けて小さい身でありながらも面積の大きい背中で下方向に向かって激しく相手にぶつかる。


「—————ッ!!」


 狼少女が放ったのは、


 八極拳の体当たり技——鉄山靠てつざんこう


 体格差など関係なく、衝撃に男の体が勢いよく宙を飛び、


 女の元へと飛ばされていく。背面からの飛ばし技。


 その進む方向に拳が待ち構えている。


 長身の女の強化された拳が飛んでくる


「―———ジャマだ」


 男の顔を目掛けて放たれる。


 いくつもの魔術を無に帰した拳は男を容赦なく叩き潰す。


 フロアに大きな音が響き、家具が倒れて埃が舞う。女は拳についた血を払いのける様に振るい、男をぶっ飛ばして壁に開いた穴を気にせずに包帯の男の元に近づいていく。


「初めましてだな」


 何も答えない包帯男を前に結わいた長い髪を揺らして、


「わざわざ、こんな山奥まで来たんだ」


 ソファーの前にある机に脚を乗せて威嚇する。


「少し話をさせて貰おうか」


 包帯男は顔を唯一の手で押さえて震えだした。


「クフフフゥ…………」


 それは次第に大きな震えとなり、包帯男は声を上げて喚く。


「あぁー…………悪かったよっ」


 あまりに拍子抜けするような男の声に狼少女の眼が丸くなる。いま対峙しているのはお互いの頭と頭だ。もはや勝負はついたと言わんばかりに包帯男は喚いたのだ。


「俺が悪かったッ!! 許してくれ!!」


 泣き叫ぶように包帯の隙間の瞳から涙を流して懇願している。それをニヤニヤと御庭番衆のお頭が机に足を乗せたまま眺めている。仲間が返り討ちにあった光景に絶望したように男は喚き続ける。


「これからは改心するからさ!」


 ——なに……コイツ?


「どうか、今回だけは見逃してくれよッッ!!」


 ここまで戦ってきたのがなんなのかが小狼は分からない。


 情けない姿を仲間の前で晒し涙を流し、


 敗北を受け入れる様に困惑が生まれる。


「どうかっ………どうか、頼むよ!!」


 男が前にある机に頭を激しく打ち付けた。命を乞うよな姿。


 あまりに弱者だ。これは弱者の姿に他ならない。


「おいおい……」


 それにはさすがのお頭も苦笑いの他ない。





「見え見え過ぎんだろ――——」


 ——…………え?


 狼少女はまたもや意表を突かれる。お頭がニヤニヤと笑っている姿に思考がついていかない。何かを見抜いている。それが何かが二人のやり取りから一歩遅れている。


「改心なんかしねぇからの、異端者いたんしゃだろ?」

「…………」


 お頭の問いに男は数刻黙って頭をつけたままやり過していた。


「ハハハハ」


 先程までの態度が一転して嘘のように明るい笑い声が響く。


「あぁー、ダメだ! バレちまった!!」


 男はふざけた言葉を吐いた、全てが演技だったと。

 

 それに異世界異端者でもの仲間も笑いを押し殺す様にクスクスと嗤っている。その雰囲気に小狼だけが眉を顰めて取り残されている。何かが気持ち悪い。居心地が悪い。


 全部が悪ふざけでしかない。


 包帯男は口元から舌を出してぶらぶらと揺らして、ふざけた態度を向けている。


「ご客人に椅子を出せ!!」

「ハイ、リーダ!」


 スキンヘッドの男が動き、足を机に乗せている女の後ろに椅子を持っていく。女はどっかと椅子に体重をかけ、足を汲んだ状態でふざけた男に微笑み続ける。


「ワリィな、余興が過ぎたみてぇだ」

「中々にふざけた野郎だな、テメェは」


 そして、トップ同士が微笑み睨み合う姿を


 異世界異端者マッドマーダー共は嗤って見つめていた。



《つづく》

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