4章 俺たちを相手にした時点でお前らの行く先は決まった、お前らの行く先は、デットエンドだッ!【2017年2月~2017年3月】

ラーメン食いに行ったら、パーティが一人死にそうです

第1話 強ちゃんがデレたが……何か違う?

「と、まぁ……そういうわけだ」


 話は終わった。二月終わりの暖房が効いた教室で俺が落験だった時の受験の話を締めくくった。目の前でミカクロスフォードと田中が眉を顰めている。ある程度端折った部分もあるのだがそれ以外に説明しようがなかった。


「いや……ちょっと待つでふよ……」

「えぇ……聞き捨てなりませんわ」


 俺は「ちょっと待て」と言われても困る。強に至っては話に飽きたのか横で欠伸をしている。教室で落験組でも合格できる可能性があるということを説明していたが、どうも長話になってしまった。


「サークライ、いくら何でも無理がありますわよ! 試験官をマインドゼロに追い込むなんて!」

「そうでふよ! こっちは防具の着用もあるんでふよ!」

「だから、防具を虫をかき集めた穴に落として脱がさせたんだって」


 まぁ、この二人が鼻息を荒くするのも無理もない。俺はあの時に死んでてもおかしくなかったのだから。普通にやってれば即不合格で終わりだったはずなのだから。


「話なげぇよ……まだ終わんねぇの、その話?」


 机に突っ伏してやる気のない強が俺の方に顔を向けた。


「いや、もう終わったぞ、強」

「いいえ、まだよ! どんな手を使えば相手をマインドゼロに追い込めるっていうのよ!」

「ひたすら耐えるのみだ。能力で攻撃され続けるだけ」

「そんなの無理があるでふよ! 相手はマカダミアの生徒で上級生なんでふよ!」


 確かに言われてみれば、殺気とか使って精神を乱しまくったのもあったな。


「田中もホルスタインも落ち着けよ。櫻井がそうだって言ってんだからそうなんだろうよ……」

「いいえ、涼宮!」

「いいえも糞もねぇよ……受験の話がなげぇ……」


 早く帰りたい強とヒートアップした田中達が押し問答している。全部事細かに話せば納得させることも出来るかもしれないが、それは仕事上の理由に関わってくる部分でもある。


 そう考えていると横で強が鞄を持って席を立ちあがって俺を指さした。


「お前ら、相手が櫻井だぞ。簡単に倒せるわけがねぇだろ」

「えっ……?」


 強の以外な意見に俺は強を不思議そうに見上げる。


「コイツはそんじょそこらの奴とはしぶとさが違う。オロチですら櫻井を倒しきれないで無理なものを、マカダミアの異世界アタマお花畑の生徒如きが出来るわけねェに決まってる」

「それは………」


 強の言葉にミカクロスフォードが困った顔を浮かべている。まぁ体育祭のダメージ耐久競争でも歴代トップの俺を加味すれば話の信ぴょう性もあるようだ。


 それにしても、まさか強ちゃんにフォローされる日が来るなんて。


 なんか、感慨深い……!


「まぁ、俺が櫻井の試験官だったら耐えれば耐えるほどに生きてるのが辛いと思わせてやったがな!」

「…………」


 強ちゃんって、本当にいつも一言余計。


 上げて落とさなきゃ気が済まないのか、お前はッ!?


 強が自慢げな顔を浮かべている横で俺も鞄を持って立ち上がる。もう話はこれで終わりにしていい空気が流れている。久々に強と一緒に帰るとするか。


「まぁ、そういうことだ。田中もミカクロスフォードも足元すくわれない様に気を付けろよ」


 俺は鞄を持ち上げ肩へぶら下げて田中達に言葉を贈る。


「死に物狂いの受験生がいるかもしれないからな」


 俺は強の方へと歩み寄っていく。


「じゃあ帰ろうぜ、強ちゃん」

「おう、玉藻もどっか行っていねぇしな。帰るか」

「鈴木さんでふか?」


 俺と強の会話を聞いていた田中が会話に割って入ってきた。何かを知ってるような空気を出している。鈴木さんがまだ学校にいるのか?


「鈴木さんならミキたんと一緒に鈴木さんの家で遊んでるっぽいでふよ。さっき携帯にメール貰ったでふ……」

「なっ……家で遊んでる……ッ」


 衝撃の事実。俺の横で強が驚いて鞄を床に落としている。これは不吉な予感しかしないから俺は耳をそっと閉じた。強ちゃんがプルプル震えている。


 多分、このあとどうなるのかは火を見るより明らかだ。





「あの野郎ォオオオオオオ! 待っている俺を無視して遊んでやがったのかぁあああ!! おまけに俺より先に家に帰ってやがるだとォオオオ!」




 いつも通り強ちゃんが力いっぱい叫ぶことは目に見えていた。教室で獣の雄たけびが大気をこれでもかと揺らす。窓がバタバタと悲鳴を上げている。ミカクロスフォードと田中は読みが甘いせいで耳を押さえて痛がっている。


「涼宮、とつぜん大声出さないでよ! 耳いたっ……」

「耳が……キンキンしてクラクラするでふよ……」

「信じられん、アイツ! 何を考えてやがる!」


 そっくりそのままお返ししたいとミカクロスフォードが強を睨んでいる。お前が何考えてやがると。まぁ状況が分かっていないのだからしょうがない。分かってても如何ともしがたいが説明しておくか。


 さっきのフォローの貸しを返しておこう。


 俺は一人で激怒している強をほっといて、耳をさすっている二人に近寄っていった。


「涼宮は何をあんなに怒ってますの……?」

「バカップルは妹の看病で鈴木さんの粗相があり喧嘩をしていたのだが、鈴木さんが無礼を謝ったことで解決したはずだった。しかし、強に何も告げずに帰ったことにより強ちゃんのワガママ暴君が発動したんだ!」

「……わかるようで……まったくわからない説明でふよ」

「端的にいうと鈴木さんが傍にいなくて、強ちゃんは寂しいんだ……バカップルだから……片時も離れてたくないみたいだ……」

「何言ってやがる、ピエロッ! 俺が寂しいわけねぇだろ!」


 このツンデレさんはいつになったら、


 デレるのだろう?


「じゃあ、別に鈴木さんが誰と帰ってもいいだろ? 強ちゃんが怒る理由はない」

「……いや……そういうわけでも……」


 俺が揚げ足を取ると明らかに強が動揺している。ホント素直じゃない、天邪鬼すぎるぞー。


「これは……アレだ。礼儀の問題だ!」

「「「礼儀?」」」


 いつも通りの屁理屈が飛び出す気配がする。もう強ちゃんの行動原理なんて手に取るようにわかるよ。俺は悪くない、アイツが悪いと言いたいのだろ。


「一緒に帰る約束してあるのに、何も言わずに帰るとか礼儀がなってないんだ!」


 まぁ、当たらずとも遠からず。言いたいことはわかるけども素直じゃない。一緒に帰りたかったと言えばいいのに。強ちゃんはいつになったら素直になるのか。


 一生無理なのかもしれないなー。


「ひとこと言えばいいんだ! 今日は一緒に帰れないとか!」


 呆れる俺たちを前に強は必死に身振り手振りを激しく入れて力説を繰り返す。


「そういうところがダメだと、俺は怒っているんだ! これはアイツの悪い癖!」


 相棒の右京さんの口癖かな?


 『これは、私のわるいくせ』


 もはや、聞きなれた屁理屈は馬耳東風スキルによって聞き流す。


 それよりも『相棒』だ。あのドラマで相棒と言いつつ替えがきく相棒って、俺は何か違和感を感じる。


 それは本当に相棒なのだろうかと。


 単なる同僚の間違いではなかろうか。後輩とかのほうがしっくりきそうな気もする。というか、右京さんって結構な社会不適合者だ。窓際族の癖に仕事が出来るから首にも出来ないし、デカい顔をされてしまう。


 あんな上司がいたらやり辛いことこの上ないなー。


「はぁはぁ……だから玉藻はダメなんだ……」


 疲れたのか肩で息をしている強。強の不満が呼吸で止まったのを見計らって俺は田中達を誘うことにした。


「田中達は受験の準備、まだあるのか?」


 俺の誘いに田中はきょとんとしてこちらを見た。そして何かを思い出したように表情を曇らせた。ミカクロスフォードが苦笑いしている。


「怒って飛び出してきたんだったでふ……」

「そうでしたね……田中さん」


 元は落験制度の話で激怒した田中達が俺たちを足止めしていたのだ。推察するにどうやら話の途中で会議を抜け出してきてしまったらしい様子。


「じゃあ、田中達も今日は一緒に帰ろうぜ」

「「えっ……」」

「いや、今更戻ってもしょうがないだろう。冷静になって明日みんなと話したほうがやりやすいと思うぞ。時間があるから、明日までにどう話すか作戦も立てやすいしな」


 俺の提案に田中は何度か頷いて納得を示した。まぁ、さっきの話で落験への印象も変わっているようだし明日には無事に解決へと向かうだろ。


「おわっ!」


 そうこうしていると、俺の肩が力強く掴まれ引き寄せられた。


「さくらーい! まだ俺の話の途中だ!!」

「強ちゃん、まだ鈴木さんの話したりないのッ!?」

「ちがッ! バカッ! そんなじゃないやーい!」


 強ちゃんがデレた……が、なんか違う??



《つづく》

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