第263話 富田が求めるパーティでの戦闘

 実戦試験が意外な方向へと進んでいる光景に武田が拳を強く握りながら口の端を釣り上げる。目の前にいる底辺共はただの底辺でない動きを見せている。


「おいおい……どうなってんだよ」

「これは番狂わせだ……」

 

 その実力差は虎とネズミと捉えていた二人だからこそ、その光景に驚きを隠せない。どう見ても櫻井たちが試験官を翻弄している。分身という能力を上手く使い攻撃を引き付けている。


「かずねぇ……私いける気がする」

「三葉……やっぱり生意気だよ、あの子」


 期待して望んでいたからこそ試験官たちには喜びに近い感情が湧き上がる。完全に試験官を手玉にとり翻弄している。それは力を誇示するものとは違う。


 大して派手な戦闘ではない。


 攪乱し欺き騙し続け翻弄を繰り返している。全体を視ている試験官たちにはわかる。冷静さを失っている試験官の周りをチョロチョロとして意識を削ぐ三人。


 その後ろで確実に魔法の長文詠唱を魔法使いが用意しているのが。


 獣塚も思わずにやけてしまう。試験開始から十分近く経過しているのにやつらは誰一人かけずに乗り越えている。そしてその先頭で指揮を振るっているのは間違いなく声を張り上げ続けている奴だということはわかる。


「やるな……櫻井」

「あまりマカダミアで見ない才能だね……彼は」

「どういうことだ、富田?」


 富田の言葉に名も無き僧侶が問い返す。富田の手が若干小刻みに震えている。もうすでに驚嘆に値する。この試験を十分も持たせていることが。だからこそ富田は興奮を隠し切れないながらも語る。


「パーティでの戦闘を良くわかっているって、ことだよ」

「パーティ?」


 獣塚が横で首を傾げた。


「大体が強さにかまけて力技や大技で押し切ろうとしたりするけど、そんなものホンモノのパーティじゃないじゃん!」

「富田……アンタ、なに興奮してんの?」

「わからないの!」

「ちょっと富田くん静かに!?」


 富田のボルテージが上がるのを抑えるように三葉が制止をかけた。富田は一回呼吸をして自分を落ち着かせる。それでも内心はこの戦いに一番興奮している。それは富田が望んでいる戦い方に近い。


 だからこそ語りたくてしょうがない。その姿に獣塚と名も無き僧侶は仕方なく付き合う。こんな富田を見るのは珍しいのもあって対処がわからない。


「パーティで必要なことを全部やってるんだよ、彼らは」

「全部って、どういうことじゃ?」


 櫻井たちが戦っている方にアレが答えだと富田は視線を向けた。そこには富田が理想とする戦い方があるのだと。眼を輝かせていた。


「いいかい、受験生四人の実力は一人一人は大したものじゃないだろ」

「まぁ……見るからにお粗末だ」


 獣塚は富田とは反対的に受験生一人一人の実力が映る戦場に目を向けて落胆の色を示す。底辺らしい実力しか持ち合わせていない。


 現にいまだに黒皇帝にはダメージを当たえられていない。


「彼らがもしバラバラで挑んでも一分とかからない内に全滅してると思うんだ」

「一分か……確かに富田の言う通りだな」


 名も無き僧侶もそれの否定的な意見を受け入れるしかない。実力差から考えれば妥当な結果でしかない。それでも今は違う。奴らは持たせている。誰一人かけることなく。


 マカダミアであまり見られないからこそ富田は興奮している。


「確かにマカダミアの生徒でパーティを組めばそれなりに戦えるかもしれないけど、あれはもっと先の次元にあるんだよ!」


 いつも後ろから見ている僧侶というポジションだからこそ感じていた不満。そしていま見せられているものはレベルが違う。富田が組んでいたパーティとは違う。


「才能や実力があって戦い慣れているから最低限は出来るかもしれないけど、そんなものはパーティじゃないんだ!」

 

 誰もが異世界でのパーティ経験はあるはずなのに初歩が欠けてしまっている。基本となる根幹が存在しなくなる。お互いのことを分からずとも最低限合わせる才能があるからこそ見えていない。


 そうではない櫻井たちが見せている姿こそが富田の求めるパーティの姿だから喜びを隠せないのだ。


「それをちゃんと指揮するものが必要なんだよ!」


 分かった気になってやっていないのとは違う。櫻井たちは確かに戦闘が始まる前にお互いの理解を深めていた。お互いの能力に着いて出来ることに着いて確認し合っていた。


「お互いの能力を把握して信頼して預けあって、お互いに出来ることも役割もハッキリと認識して動いてる……おまけに流動的で相手の動きに合わせながらも気づかれないようにして指揮をしているんだ……アレは!」


 富田の求める姿を体現しているパーティがいる。それは即席であるにもかかわらず実力以上のものを出している。その中心にいるのはいうまでもない。櫻井という指揮系統がいてこそ戦場が成り立っている。


 そしてその櫻井という男の理念に沿って仲間が従って動いている。


「一人一人の力を合わせるんじゃなくて、合わせて何倍にも引き上げてこそのパーティ戦なんだ! お互いの力を合わせるんじゃなくて掛け合わせてより強くなるものこそがパーティなんだ!!」


 だからこそ十分という時間を持ちこたえてなお戦況を支配しているのは櫻井たち。その事実も理解している富田だからこそ感動を隠せない。


「ホントスゴイんだよ……これは」

  

 拳が震えているのを隠すことさえ忘れて体も震える。


「誰にでもできることじゃない!」


 そのパーティが僅かな間に作られている指導力にこそ富田は感嘆を込める。試験が始まる前のごくわずかな時間に意志を統一出来る手腕。そして試験官を揺さぶりながらも仲間を指揮している。


「彼の戦闘は拙くとも、戦術はピカイチだと僕は思う!」

「落ち着け、富田!」

 

 テンションが上がりきってしまい声を張り上げる富田の口を慌てて手で塞ぐ獣塚。興奮しているのも珍しいが声を大にして張り上げてはバレてしまう可能性があるからこそ力づくで押さえつける。


 富田を抑えながらも、確かに見える戦場で全員が能力以上の働きを見せていることはわかる。完全に試験官は我を忘れて怒りのままに剣を振るっている。そしてそれを突くように次々と剣士たちが一撃ずつ切り込んでいっている。


「確かに何もかもうまくいきすぎてる……」


 だが、その光景に獣塚は若干の不安を覚えた。


 あまりに上手くいきすぎているという現状が気になって仕方がない。その状況ですらまだ十分という時間しか経っていないということが不安を感じざる得ない。


 あと五十分もこの状態を維持できるのかということが心にひっかかっていたからこそ眉を顰めた。



《つづく》

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