第139話 身動きもままならないし、弱点が広がるという最悪の状態異常を前になすすべもない

 俺の股間にガチャピンとあだ名が付いた衝撃に俺は言葉を失っていた。


 しかも、成長する様をムック×2といい、


 最終形態は開けポンキッキだ。


 ——なんていうフレーズセンス……脱帽だ。


 それにこの手の弱点をいうのは卑怯だ。


 これは生理現象なんだ。

 どうしようもねぇだろう。


 これ以上の言い合いはもういらない。


「なにするんですか、変態!?」


 もう、俺は怒った!


「うるせぇ! 実力行使だ!! 熱を測らせろ!!」


 言葉では埒が明かないと思い力勝負に持ち込んだ。


「いやぁあー、なにするんですか! やめてくださいッ!」


 両手を押さえて彼女に上に覆いかぶさり、必死に抵抗するなか布団をひっぺ替えした。正直言えば言い合いに負けた腹いせにもうやぶれかぶれである。目的は看病をすることだ。


「大人しくしろや……へへ」


 いま現状の状態を確認することが最優先だ。


「テメェの大事なところに差し込んでやるよ……」


 脇の下にどんな手を使ってでも体温計をぶっさしてやる!


「ひっく……ひっく……」


 なぜ……泣く。女はすぐ泣く。


「ひっぐ!」


 こんなものに騙されないぞ、俺は!!


 と思ったも一瞬だった。


「あ…………」


 掛け布団をひっぺ替えしたことで大変な光景が目に入ってしまった。いや、大変なことをしてしまったというのが正しいだろう。


 女子高校生の柔らかそうな太ももがハッキリと見える。足の先から付け根までがほぼ全部。汚れを知らないその純白の肌。


 ずっと掛け布団の下に隠れていた下半身。


 白いデザインに、


 小っちゃいリボンがついた……





 おパンツまで……




『あわわ、ガチャピン! やりすぎですぞー!!』



 俺の内なるムックが語り掛けてくる。


 どうみても強姦だ、これじゃあ。


 いつぞや否定したが現状は何も言い逃れできない。下半身が下着丸出しの女性を力づくでベットに——押し倒して、しまった。


『ガチャピンは、やっぱりスゴイですぞぉお!!』


 その状況でも空気を読まずにガチャピンはぴょんぴょんと飛び跳ねるように楽しそうにしている。ちなみにここのガチャピンは俺のガチャピンだ。


 内なる赤い実の虫も大はしゃぎ。


『ドンドン成長するですぞ!』


「ヘン――」


 俺のガチャピンは巨大化まっしぐら。


 その変体が、


 俺と彼女の間で起こっているのが、


「あっ、あ、あ」

「…………」


 彼女の目にも映ってしまっていた。


 彼女は膝を腹に付けて足を曲げ、




「タイィイイイイイイイイイイイイ!!」



「ハワッップ!」



 格好の的だった。


 敵前に弱点を晒すガチャピン。


 俺の大きくなってしまったガチャピンを狙い撃つように踵をさく裂させた。



 ——これは痛い。成長中にこれは不味い!


『ガチャピン……ガチャピン! ガチャピン! 大丈夫ですかぁああ!?』


 心の赤色ミノムシも口に指先をツッコんで怯えるほどの衝撃。


「おわっ…………ぁっ」


 大きくなる的への直撃に俺は悶絶して腰を曲げざる得ない。折れろボッキッキという新番組の幕開けである。


 だがココで彼女の手は止まらなかった。


 まるで流れるように、


「死んで――」


 俺の眼球に向かって、




「シマエェエエエエエエエエ!!」



 ピースサインを突き刺した。



「ぎゃぁあああああああああ!!」


 視界が潰された。


 眼球だけはどう足掻いても鍛えようがない。


 そもそも内臓剥き出しのようなものだ。


 そこに女性特有の爪が、


 思いっきり垂直に突き刺さる痛みたるや、


 筆舌に尽くしがたい。


 俺は彼女に言葉で言い負け、


 さらには力でも負けた。


 完全なる敗北を喫してしまった。


 これ以上ないぐらい、


 無様な恥辱的敗北である。


 言い訳もしようもない、


 完敗ってやつだ……。


 やはり色仕掛けに対する耐性がないというのは大きな障害である。一刻も早くどうにかこの耐性を手に入れたい。


 身動きもままならないし、弱点が広がるという、最悪の状態異常を前になすすべもない。




「俺が悪かったです……」


 俺の視界がふさがれている間に彼女は下をはき終えた。俺はヒリヒリする眼球を頑張って開きながら、


 土下座をして敗北宣言を告げる。


「………すみません」

「先輩は本当に何しに来たんですかッ!?」


 本当に何をしているんだろう……


 俺は………。


 ただ看病したかった、だけなのに。


「看病したらすぐ帰ります……」


 平身低頭お願いして、


 早く終わらせて帰りたい。


「だから、お熱を測って頂けませんでしょうか?」

「まったく……先輩のせいで変な熱が上がりそうです!」


 彼女は怒りながらも体温計をパジャマの隙間に差し込んだ。測り終わった音が鳴り響き、彼女は体温計の数値を確認する。


「38度です!」

「フラットです……か?」

「ぴったしです!」


 38度、やや高いってところだろうか。


 まぁ、日中だしこれぐらい出てもおかしくないか。朝の体温より日中の体温は上がりやすいし。


 俺は土下座の姿勢から胡坐に直す。


「体が弱いって話だけど、病院とかいく?」

「別に大丈夫ですッ!」

「いや、けど……強がスゴイ心配してたし……何かあるかもしれないなら」

「兄は過保護すぎるんです。体が弱かったのも子供の時だけで」


 なんだ。子供の時だけなのか。


 病弱ってわけでもないのか。


「いま、別に普通ですよ!」


 強のやつが泣くように縋りついてきたから、


 すげぇ心配したのに。


 本当に酷い目にしか合わない。


 俺が何をしったって、いうんだ………。


 まじで、不幸だ……。


 不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ――


「先輩は反省してください!」

「は……い」


 不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ不幸だ――


「変態すぎます!」

「は……い」


 いつぞやの鈴木さんに怒られていた強の気持ちが痛い程わかる。


 何も言い返せない。『はい』しか言えない。


 勝てる気がしなくなるとコマンドがソレしか見つけられない。


 あー、不幸だ。


「聞いてますかッ! せんぱいッ!!」

「は…………」


 彼女の怒る声を遮るように、


「………ん?」

「あっ……」


『ぎゅるるる』と何か獣が泣くような音が、、


 どこからともなく響いた。


「…………っ!」


 美咲ちゃんが恥ずかしそうにお腹を抑えて顔を真っ赤に染めている。


 おそらく腹の虫が鳴いたのだろう。


「お腹空いてるの?」


 それも獣と間違うぐらいに盛大に……。


「昨日の夜から何も食べてなくて……」

「おかゆでいい?」

「えっ」


 彼女の怒りが収まったような雰囲気。


 顔を上げて不思議そうに俺を見ている。


「おかゆぐらいだったら、すぐ作れるよ」


 彼女はイヤそうに恥ずかしそうに


「じゃあ……お願いします……」


 俺の申し出に答えを返した。


「他に何か食べたいものとかある?」


 彼女と喧嘩して負けたことがどうでもよくなってしまった。


 怒っている姿から一変して恥ずかしそうにする彼女の仕草にどこか惹かれてしまったからだろう。どこか幼いその姿にほだされたから、


 ついつい甘い質問を投げかけてしまった。


「ももかんを……」

「なに?」


 照れながら怒って、


「桃缶を食べたいです!」


 返す彼女に俺は微笑みを返し、


「わかった」


 了解の意を告げて部屋の外に出る。


 桃缶とはまた可愛らしい。




「寝てるのか………」


 部屋の下に降りるとソファーで強が鈴木さんと並んで眠りこけている。


 上であんだけ騒いでいたのに駆け付けてこなかったのは、このせいか。


 あとで知ったが、どうやら強は一睡もしていなかったようだ。


 昨日から体調が悪かった美咲ちゃんから何か連絡があった時に、


 すぐ動けるようにずっと携帯の前で待機していたらしい。


 忠犬ハチ公もびっくりなくらい、忠実な妹愛。


 たまには兄貴らしいのだ、ベクトルを間違わなければ。


「おい、強。起きろ」

「あ……櫻井……美咲ちゃんは!?」


 寝ているところを起こすとすぐに妹の心配。


 どんだけ、溺愛してんだよ………。


「大丈夫だ……おそらく風邪だろう。熱は38度だ」

「病院に連れてったほうがいいかッ!?」

「美咲ちゃんがそれはいらないとさ」


 俺は台所に向かう。


「これから、俺が美咲ちゃんのご飯作るから」

「何か手伝うか!」


 やる気を見せる兄。


 しかし、それは、




「お前は——厨房に立つな」



 

 冷たく鋭い眼光を強に向けて俺は威嚇する。



 お断りだ。俺は知っている。


「なんで……」


 お前がポイズンクッキングの使い手だということを。


 チョコ一つで俺を病院送りにした犯人ということを。


 そんなやつに作らせたら本当に妹が死ぬぞ。


 とは、ハッキリ言えない。


「お前は桃缶を買ってきてくれ。美咲ちゃんが桃缶食べたいってさ」

「わかった! すぐに行ってくる!!」


 そういうとやつは勢いよく家を出ていった。


 これでアイツが厨房に立つこともないだろう。



 だが、この桃缶探しが思いのほか——



 難航するとは、俺は思ってもみなかった。



≪つづく≫

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