第138話 先輩と後輩の罵倒対決(開けポンキッキ―)
「あのですね……美咲さん」
俺は丸まった布団に言葉を投げかけるが、
「お布団から出てきていただけないでしょうか?」
おそらく中で悶絶しているのだろう。
モゾモゾと動いてるのが外から見える。
あと『むふー』だの『うぅう』だの呻きが漏れていますよ……美咲さん。
ただ、出てきてくれなきゃ看病も何もない。別に彼女を追い詰めたくてここでまで来たわけでもない。
「なんで、来ちゃったんですか!?」
布団の中にいるせいか、
籠ったかわいい声が返ってきた。
恥ずかしくて死にたいのだろう。
ちょっとだけ、ならいいですよとか言ってしまったのだから。普段の彼女なら間違いなく言わないフレーズだった。その分、自分に返ってきた破壊力も半端ないようだ。
「なんでと言われても……強に呼ばれたから」
「また兄の為にですか!!」
「おわっ!」
布団からいきなり飛び出てきてびっくりした。
猫が可愛くプリントされているパジャマ姿。だが、顔は対照的に涙目で怒っている。
「このホモ野郎ッ!!」
「なっ!」
また俺をホモキャラに!?
最近、ホモキャラ押しが多いんだけど!?
「先輩の好きな人もどうせ兄なんでしょ!!」
「そんなわけあるかッ!!」
「そんなわけであったほうが幾分もマシです!!」
「俺がスキだったのはちゃんと女子だ!!」
「だったら、今日は土曜日なんだからその好きな子をデートにでも誘ってどこにでもいけばいいじゃないですか!! なんでうちに来てるんですか!!」
——このッ!! 人が心配しているのに可愛くねぇ!!
「そんなの、美咲ちゃんには関係ねぇだろ!!」
もう売り言葉に買い言葉の応酬。
「かんけ……いッ」
これにはさすがの彼女もカチンときたらしく、顔を歪めて怒りの表情を露わにしだした。
「関係ないですよ! だったら、私のことも先輩に関係ないじゃないですか!!」
「あー、そうさ。関係ないね……ただ親友に頼まれたから看病に来ただけだから」
「な……っ」
俺もちょっとどうかしてた。
こんな発言は心にもない。
今日一日で起こったことが俺を精神的に疲弊させていたというのもあったのだろう。
親友に殺されるかもしれないという恐怖。
夢と勘違いした後輩のアグレッシブなセクシャル攻撃。
さらに昨日彼女を振ったことで彼女を傷つけていたことを気にしすぎて、
寝不足になっていたこともあるだろう。
頭に血が上りすぎて、もはや歯止めが効かなかった。
「ムキィイイイ!」
「駄々こねてないで、早く熱を測らせろ」
「なんなんですか、その言い方!!」
「そっちが食ってかかってくるからだろう!!」
「先輩は昨日アタシを振ったんですよ!! さらにあの雪の中置き去りにしたから私はいま風邪を引いてるんです!! 全部あなたのせいなんですよ!!」
「だったら責任とって看病してやるから、それでチャラだ」
「もう、もうもうもうもう!!」
体をブンブンと揺らして猿の様に顔を真っ赤にして怒っている。
自分の下半身にかかっている布団にその怒りをぶつけるが如く、
叩きつぶしている。
そして、俺はもはや投げやりな態度を取りまくりなのでお互い様だ。
「大体、先輩は好きな人がいるんだったら他の女の子にこうやってすることがイイと思ってるんですか!?」
——もうソイツ死んでるからな!!
——いいも悪いもねぇんだよ!!
さすがの俺もカチンと来たぜ。
「イイと思ってるとなんかあるんですかー、せんせい?」
「なんですか……その言い方?」
「この言い方が何かありますか?」
「ムカつきます……ッッ」
歯を噛みしめて睨みつける彼女を俺もにらみ返した。
ホント可愛くねぇ。
なんだこれが素なのか?
「そうやって、他の女にうつつを抜かしてるから、先輩はダメなんですよ!」
「なんだ……と!」
「この前も白い髪の女におっぱい押し付けられてなんかやらしい顔してたしー。そうやって、ハッキリしない態度ばかり取ってるから、ヒロインに捨てられるんですよ。はっ、ダサ……ふん」
——な……鼻で笑うようにダサいとだとぉおおお!!
「捨てられてねぇし……っ!」
「どうだか……こうやって私の所に来てる時点で相当お暇でおひとり様のぼっち休日じゃないですか。何を強がってるんですか、ぷぷぷ。笑えますね」
指をさして勝ち誇る彼女の姿に、
「本当に滑稽ですよ。正にピエロです、先輩は!!」
俺の体がプルプルと怒りで震えだした。
その喧嘩、勝ってやるよ……
俺を相手にしたことを後悔さしてやんよ!!
「そのピエロな先輩に惚れてしまって、振られちゃったのはどこのどちら様ですかぁ?」
「そういうことを言いますか……普通……」
俺の奥の手に面を喰らっているようだ。
手は抜かねぇよ。
「デリカシーがなさすぎですよ……先輩!」
「何度でも言ってやる。そのダサい俺に振られたのはチミだよ、チミ」
俺はその滑稽なピエロ二号を指さす。
「涼宮美咲ちゃん」
「そうですか……そうですかッ」
何かわかったように彼女は頷いている。
「そうきますか、そうきますんですね」
出来るだけ挑発するように言ったのに効いてないのか?
「その振った女に欲情したくせに……」
——やっぱり……バレていたのか!!
「私の股下で発情してるから好きな女も落とせないんです、よ」
「なっ!?」
——バレンタインデーのやつは!!
「変態、変態、変態ぃいいい!」
「変態で何が悪い!?」
やぶれかぶれな反論をかましてしまった。
跡から思えば、冷静さがもうなくなっていたのも居た堪れない。
「股間を大きくしてるくせに強がってんじゃねぇよぉおおお!!」
それを言われると何も言い返せなくなってしまう。
「うぐっ……」
俺もあれは恥ずかしかったんだ。
「人の股間でガチャピンをムックムックして」
俺だって、別に好きで大きくしたわけじゃないのに!!
「開けポンキッキーしやがって、」
——なんだよ……開けポンキッキーって……!?
「――——っ!」
「本当に怖くてっ……気持ち悪かったんだよ、」
意味が分かんねぇけど……
「ばぁかあああ!」
ダメージがデカくて何も言えねぇっ。
≪つづく≫
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