第128話 櫻井先生の講義録8

「サークライ……あなたなんでそんなことを知ってますの?」

「どういうことだ?」

「乗算アビリティや多重アビリティもそうですけど、他もろもろ凡そ習ってないことばかりよ」


 まぁ、ちょっと専門性にも足をつっこみすぎた。


「伊達に学年一位ではない」

「本当でふよ。そこまでどうして詳しいんでふか?」


 ここは隠さずともいいか。


「どうしてって、俺は」


 俺は言葉を選ばずに本心から語る。




「——強くなりたかったからだ」




 この一言につきる。


 涼宮強という男を殺そうと死にもの狂いだった。


 だからこそ弱い俺はあらゆる手段を考えた。


 どうなったら、強くなれると気が狂うほどに体を痛めつけてきた。


「俺には恵まれた才能はない」


 どんなに必死に努力しようともおおかたの予想は出来ていた。


 圧倒的才能を前に俺の成長は止まる。


 ——Sランク。


 それが通常の俺の限界値なのかもしれない。


「俺の能力で出来ることはほとんどない」


 どう足掻いてもそこから先には届かなかった。


 能力が弱すぎて補いようがない。


 だけど、埋めなければ届かない。


 強には勝てない。


 この能力だけでは届かないからどんな手でもいいと必死に調べていた。


 その中の一部がこの能力系統だっただけだ。


「だから、勉強したんだ。それだけだ」


 コイツらになら話してもいいかもしれない。


「俺の能力は心読術って名前だが、今までの知識を踏まえて俺は細工をしてある。わかるか?」

「能力名は確か自分で決められるんだよね」


 小泉からの質問に返す。


「そうだ。能力名は各個人で名前をつけられる」

「術じゃないのに……術なんでしゅか?」

「それだよ。二キルマーシェ」


 ようやく数名が気づいた。この能力名に込められた俺の想いを。


「術って、名前をつけとけば」


 俺が弱いと認識していれば尚更わかるだろう。


 実際に入学当時——俺は最弱だった。


「媒介があると気にするものもいる。能力名が割れてもこのネームであれば術と勘違いされやすい。僅かでもアドバンテージが欲しかった」


 そうだった。俺は弱かった。


 だから、どんなことにも姑息に頭を使った。


 俺は右腕を突き出し、



「力が足りないから、必死に頭を使うしかなかったから」



 みんなに伝える。



「使えるものをなんでも使ってでも、強くなりたかったからだ」



 実際、まだ少しだけ足りない気がするよ。


 お前には――強。


「サークライ……」


 俺が本音で語ったのにやけに静かだ……。


 何か間違えたのか。キャラにないことをしたからだろうか。


 なんか下を向いてる。あれ……ミスった?


「すんばらしいですわ!!」


 ミカクロスフォードのスタンディングオベーションを皮切りにm


「男でふよ、櫻井!」「素直に尊敬するよ」「櫻井シャン!」「櫻井にしては意外だけど……いいと思うよ私は!」「さ、櫻井さんはすごいです」「さくらい、やりおる」「櫻井くんは頑張り屋さんなんだね♪」「先輩、尊敬します」「まぁ……まぁまぁかな」「昴ちゃん!」


 教室がガヤガヤと騒がしくなった。


 一人だけ何も言わないやつに俺は目を向ける。


 ——俺はお前に追いつきたいたかった。




「そんだけ、やって――」




 悲し気な瞳をした強が俺と視線を合わして口を開いた。




「も、弱いというのは一種の才能だと思うぞ。ピエロ」



「……………」



 どうして、お前はいつもそうなんだ……強ちゃん。


 そこはさ、もっとこう熱くなる展開じゃないのか………?


 俺も柄にもなく熱血スポコンの様に、


 『俺はお前に追いつきたい』なんて考えたのに。


 お前に少し認めて貰いたいなんて……欲を出したのがいけなかった。


 努力も何もしないお前に言っても無駄だったな。


 けど、怒る気もねぇよ。


 むしろ、なんか笑っちまうよ……。


 さらっと、否定してくるところがホントお前らしい。


「俺はピエロだからな」


 本当にピエロだ。


「そうだ。お前はピエロだ!」


 強と微笑み合っていると後ろの扉がガタンと音を立てて、


「押すなよ!」「ごめん!」「やばい!」「おわぁああ!」


 扉が外れ、生徒が倒れ込む。そして多くの生徒がなだれ込んできた。


 少なくとも十数人はいる。


 どういうことだ?


 俺達一同は呆気にとられた。


「あの邪魔しちゃってごめんなさい! 盗み見るつもり……だったんだけど」「お前が押すからだよ!」「だって黒板が良く見えなかったんだから、しょうがないだろう!」「こんなマニアックな話が聞けるとは思ってなくて」「ほら見ろ、授業止まっちゃったじゃん!」


 どうやら、俺達の講義を盗み聞いていたような口ぶり。


「はっはっは、マッスル迎えに来たぞ万理華!」

「その声はにゃるほんす!」

「何やってんるんだ、マッスル?」


 続々と乱入者が増えていく教室に……。


 一番会いたくないやつが来てしまった。


 さらにそいつの彼女を俺はいま——


 椅子に縛り付けて袋をかぶせているのが現状である。



≪つづく≫

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