第127話 櫻井先生の講義録7

 わずかに教室の色が変わり始めた。


 夕日が差し込み茜色に染まる景色と俺の白衣。


 時は講義を始めてから、一時間ほど経過していた。


「ここまでが能力系統の能力、術、魔法の基本的説明だ」


 俺は黒板に話した内容の全てを大まかにまとめ上げる。


【能力】

 ・一つの分野について特化している

 ・イメージをすることで使う(MP消費)

 ・発動のタイムラグが一番少ない

 ・個人にしかできない特殊なものがある


【術】

 ・媒介が必須となる(費用がかかる)

 ・儀式が必要

 ・発動タイムラグは事前に行えば能力と遜色がない

 ・誰でも出来る可能性が多々ある


【魔法】

 ・マナを必要とする

 ・法則性に乗っ取って、マナというエネルギーの形を変える

 ・発動までのタイムラグが一番大きい

 ・数学的演算処理を必要とする

 ・複数の属性を使うことができるので、多様性が高い


【能力系統の混同】

 ・魔法と能力は人間の限界を超えてしまうので出来ない(魔物はその類ではない)

 ・術は能力・魔法どちらでも混同できる



 まぁここまでの説明で一時間ならまだ想定の範囲である。


 あとは応用編に入るか、ここより先に理解を深めるかだが。


「先輩」

「なに?」

「能力のひとつの分野っていうのは、多重たじゅうアビリティの場合どうなるんですか?」


 どうやら優等生の発言により、これから応用編になりそうだ。


「多重アビリティは特殊な事例なんだ、美咲ちゃん」

「一般的でないってことですか?」

「後ろを見ればわかるよ」


 美咲ちゃんに後ろを向くように指示を出すと、


 皆がまた頭をひねっている。


 鈴木さんやミカクロスフォードでもわからない。


 もう、ここまでいけば一般知識とはかけ離れてくる。


 俺は強に追いつきたいが為に個人的に能力系統を一通り調べていたからこそ知っている。おまけに資料より有用なブラックユーモラス隊長の元にいたのだ。


 普通では知りえない知識も持ち合わさっている。


「サークライ、なんですの多重アビリティって?」

「要は能力を二つ以上持っているやつのことを指す」


 具体例でいえば直近も直近にあっている人物が一人だけいる。


「強、学園対抗戦の決勝で戦った如月隼人きさらぎはやとを覚えているか?」

「あっ!?」


 なんだ…………?


 突然、強が何かを思い出したようだ。


「確かにあの金髪ボッチが多重アビリティがどうのと試合中に言ってたわ!」

「まぁ、アイツそのものが多重アビリティだ」


 この時は良くわからずに話を続けたが、


 どうやら如月は強に対して多重アビリティと言ったらしい。


 アルマジロをやる前に、


 ステータス強化以外の能力があるのかと疑っていた時の発言。


 そもそも、相手が無能力とは思いもしなかったのだろう。


 学園対抗戦に出てくるそんなやつは——


 世界、どこを探してもコイツぐらいだから。


「如月の場合は強が試合中に解説を入れた通りだけど、時間停止と電撃、ふたつの能力を有している。まぁ二個とは限らないけど、そういうやつを多重アビリティという」


 みんな初耳と言わんばかりにへぇーと言った中で、


 美咲ちゃんがだけがやけに得意げに頷いていた。


「だけど、能力が二つ以上あるのは多重アビリティだけとは限らない」


 俺は黒板に行き剣の絵を描く。


「例えば武器に付加能力が付いてる場合の捉え方はどうなるかというと、」


 書き終わりチョークの汚れをはたきながら、


 皆の姿に目を向けながら話を続けた。


「能力者が付加能力のある武器を持ってもこれは多重アビリティとはならない。そもそも武器の付加能力はある程度限定要素が強くなったりするからだ」

「先輩、限定要素ってなんですか?」


 優等生は質問が的確。先生の話を聞いてる証拠です。


「限定要素っていうのは、付加能力はイメージで使う能力とは違って武器の使い方により能力を変化させる技術になる。これはもう人の能力系統ではないという扱いだから。それは技術なんだ」

「うーん……ん?」

「分かりやすく言うと空手や剣術とかを能力と言わないでしょ。そういう意味合いになってしまうってこと」

「わかりました」

「そういうこと」


 自然と彼女が頭を下げる。


 そこに吸い込まれるように俺は手を添えていた。


 何を考えるでもなく手が、体が、自然に動いちまってる。


 しかも、撫でてるとなんか落ち着く。


 手から人の体温を感じるからなのだろうか。


 ずっと、ナデナデしていたい気分になってきた。


「櫻井君、ずるいよ! 私にもナデナデを所望する!!」


 せっかくの空気をぶち壊す様に変態アルビノが頭を差し出してくる。

 

 俺は美咲ちゃんの頭から手を離し、


「なでなで~♪」


 差し出されている、


「おらっ」


 ワクワク顔のアルビノの頭に




「首がぁあああ——!?」




 張り手を一発。天誅である。


 やつの細い首が垂直に押されたことにより、


 グキッと内部で音を出した感触が直に伝わってきた。


 ヤツにもそれはしかと伝わっている。


 なぜ、そんなことがわかるかという。


 だって、俺の前で転げ回っているから。


「それはナデナデじゃないッ!」

「優秀な生徒にしかナデナデしないと決めているんだ。授業妨害する奴には張り手で十分」

「ナデナデがダメなら、モミモミで構わないから!!」


 やつは胸を突き出してきた。


 なにが……モミモミだ。もう始末しよう。


「ちょっと、藤代椅子に座れ」

「なんだい!?」


 やつは期待の眼差しを輝かせ椅子に一目散に着席した。


「私に何を……する気だ、櫻井くん!!」


 どんなプレイが始まるか楽しみにしているようだ。


 存分に楽しんでもらおう……。


 俺は自分のズボンのベルトを外しながらやつに近づいた。


「こ、こんな……公衆の面前で! 童貞の癖に大胆なんだから!!」


 皆が絶句しているなかで俺は、


「こ、こんなマニアックなプレイをご所望かい!?」


 やつの両手をベルトで椅子に固定する。


「とんだ変態野郎だな、櫻井君は!?」


 興奮が激しいその白い生物に、


 俺はポケットから取り出した白い買い物袋を被せた。


「こひょー、しゃーきゅーらいゆん櫻井君!」


 もはや白いビニール袋が呼吸の度に引っ付いて喋りもままならない様子。


 椅子にベルトで両手を緊縛され、


 おまけに顔面に白い袋を被った変態生物。


「みんな、コイツ頭おかしい変態だから」


 俺は静かにソイツのもとを離れていく。


「発言は気にしないでくれ」

こんにゃにこんなにしきゃいをひゃがれて視界を塞がれて、こひゅー。にゃにをしゃれりゅか何をされるかきひゃいしちゃうよ期待しちゃうよ


 俺の発言はやつの耳元に届いてないようだ。もはや袋のなかで喋ってる自分の猿ぐつわをかまされたような言語と卑猥な妄想だけがやつを満たしているのだろう。傍から見ていて、気持ちの悪いぐらいの変態だ。


 ホンモンだよ。


 お前はホンモンだ――藤代。


 謎の変態オブジェを視界に入れないように、


 俺は話を進めることに。


「実は能力にはもう一つ特殊な事例がある。さっきの付加能力の武器に関係あることだが、両方が同系統の能力である場合」


 俺は黒板にそれを大きく書きだした。


乗算じょうさんアビリティと言って、元の能力を大きく凌駕することが稀にあるらしい。これには滅多にお目にかかれない。まぁ武器を極めてさらに自分の能力を極めたものにしかできないという点で希少も希少だけどな♪」


 多重アビリティなら火神と如月だが、


 この乗算じょうさんアビリティには、


 俺も人生で一度も目にしたことがない。


 マカダミアにも存在していないレア中のレアとなる。


 皆がへぇーとまた声を漏らした。


 その中、変態オブジェはビニール袋に何回も、


 口づけを交わしてハァハァしていた。


 それが、俺達の夕暮れの教室と青春の一ページ。



≪つづく≫

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