第125話 櫻井先生の講義録5
昨今、生意気なクソガキたちによる学級崩壊などという大人を馬鹿にしたニュースが良く目につく。教師も一人の人間であり職務を全うしようと日々頑張っている。
殴れば体罰などという法律が全て悪いのかもしれない。
まぁ、暴力でしか教育をできない者が、
教師とはふざけているとか思うけど……
授業に興味を持たれないとどうなるのだろう。
それが現状なのかもしれない——。
「サエ……わたし、疲れた」
「ちょ、ちょっとクロちゃん!」
「やっぱり……ここが一番柔らかくて落ち着く」
クロミスコロナがサエミヤモトのおっぱいを枕代わりに、
よっかかって眠ろうとしている。
「……イイっ」
それを恨めしそうにみる我が親友おっぱい星人。
「櫻井くん、ここから私は何をすればいいんだい!?」
さらに変態アルビノはなんか鼻息を荒くして興奮し、
「むむーん!」
優等生は兄と同様に先生大好きすぎて、
嫉妬の視線をその変態ビッチに向けている。
「シッ、シッシッ」
赤髪に至ってはもう理解がついていかないのか、シャドーボクシング中。
俺はようやくわかった。
やはり教育に暴力は必要ではなかろうかと。
好き放題やられて授業を進めなければいけないとか、なんの罰ゲームなんだろう。この状況で優しく諭す様に言葉を並べるとか精神的苦痛を無視しすぎだろう。世の中の先生お疲れ様です。
さらに現状最悪なのが——
この教室にバミューダトライアングルが完成してしまったことだろう。
バミューダトライアングルとは魔の海域と呼ばれる地球上に存在する場所。フロリダ半島の先端と、大西洋にあるプエルトリコ、バミューダ諸島を結んだ三角形の海域。そこではなぜか船やヘリが消えるという。
教室の三点は——
変態藤代、それを妬ましそうに見る後輩。そして、死刑執行人の兄。
もちろん……消されるのは俺だ。
「とりあえず、みんな立ち疲れてるみたいだから席に座ろうか……」
ずっと立ちっぱなしで講義をしていたが騒がないように座らせよう。
座った状態ならこいつ等も少しは落ち着くだろう。
皆が指示に従い後ろに移動した机から席を持ってきて、
自分の立ち位置にセットし着席した。
それを見て、しょうがなくも俺は説明を始める。
「まず、みんなに新しい生徒を紹介する」
転入生ではなく、乱入生。
「呪術ギルド長の藤代万理華だ」
呼んでもいないのに来てしまった、場違いアルビノ。
「どうぞよろしく。藤代万理華です」
椅子にちょこんと座り礼儀正しく愛想を振りまいたような笑顔を生徒達に送っている。あまり人の事は言えないが、黙っていればそこそこなのに残念なやつだ。爽やかな笑顔のまま口を開く姿も様になってやがる。
「私は分けあって、櫻井君の
——野郎ッ! 油断も隙もねぇッ!!
俺は肉と聞こえた瞬間にやつの元へダッシュして口を塞いだ。
姿形と違い出てくる発言までもが爽やかな訳がなかった。
もはや、変態性を失念したための失態。
この変態がトライアングルの核弾頭だということを失念していた!!
俺を呪い殺しに来た刺客。刺客ならばそれ相応の対応が必要だろう。
「貴様は許可なくしゃべるな、社会的に殺すぞ——」
刺客の耳元で囁くように告げる。
「お前の秘密を全部暴いてあることないことを付け足すから覚悟しろ」
藤代万理華の体が小さくブルついた。
俺は奴だけに向けて本気の殺気を放った。
だって、俺の命が危ないのだから。
これ以上余計なことを喋って、美咲ちゃんを刺激しようものなら、
あの超ど級鈍感バカも気づいてしまうかもしれない。
そうなれば俺がデットエンドだ。
そうなる前にコイツ殺すか――。
「わかった! わかったよ!!」
「いいか……一回しか忠告はないからな」
「ハ、ハイ!」
俺は核弾頭を封じ込め黒板に戻る。
誰もが藤代の変わりように疑問を持っていても、
ソレ以上は口にさせるわけにはいかない。
「それでは術の続きだ。ちょうどいい所に飛び入りで術者が来てくれた。藤代の専門はギルドからも分かる通り呪術だ。俺達のメンバーにいない純粋な術だけのものだ」
もはや、実験モルモットにでもするしかない。
「呪術って暗いイメージがするけど、使い方によっては有用だし誰でもできるんだ。ただ藤代万理華については理性を媒介としてるから、頭のねじがぶっ飛んでることを忘れないでくれ」
「そんな言い方ひどいよー!」
反論する藤代を俺は眼光鋭く睨みつける。
「発言の許可を得てないよな……」
「ご、ごめん、真面目にするから!! 呪術についてはちゃんと説明したいんだ!!」
確かに呪術に関しては真摯に向き合ってるようには見える。
とりあえず、喋らしてみるか。
「わかった。三分でまとめろ」
「……短すぎて難しいな」
「あと二分五十秒」
「減ってる!?」
慌てて藤代は皆に向けて演説を始めた。
「呪術っていうのは悪いイメージが多いけど、本来は厄災をよけたりするものなんだ。よく人を呪うということに使われるイメージを持たれるが実は違うんだ。呪うのではなく
藤代はどこか大事そうに胸に両手を組み朗らかな表情を浮かべている。呪術に対しての想いが態度に出ているのかもしれない。呪術というのが藤代にとってそれほど思い出深いものなのかもって思える。
まぁ異世界の経験で能力っていうのは一番の武器であり、
宝物なのだから。思い入れが強くなるもの無理はない。
「お
ちょっと茶目っ気を入れて笑顔を作った。
「だから、私の事はキライになってもっ」
いい感じだったのに……こうやってふざける。
「呪術のことはキライにならないでね♪」
どこぞのアイドルか、お前は。
「部活勧誘ではないぞ……」
「呪術の良さがわかれば私は満足だから」
はぁー、何しに来たのかわからん。
でも悪いやつでもないのが玉に瑕だな。
少し手を貸すか。呪術契約書の借りもあることだし。
「藤代の言う通り呪術と聞くと敬遠する人も多いけど、マカダミアでやってるのどちらかというとまじないの方だ。さらに呪術っていうのはさっきも言ったが誰でも出来るんだ」
「俺でもか?」
「そうだ、強でも出来る」
藤代と俺が頷く前で強が若干目を輝かしている。
「どんなのがあるんだ!?」
「一番簡単なのは言葉だ」
「うんうん、それが呪術の入り口だね~」
「言葉だけでいいのか?」
呪術に関しては言葉だけでも足りるのだ。
「例えば、流れ星が来たらどうする?」
「消える前に三回願い事を唱える」
「それが呪術だ」
「えっ?」
「おまじないってことだよ。そうやって願いが叶うようにっていうのも呪術の一種だし、お守りっていうのもそうなんだ」
「それしかできないとか……クソだな」
「な、なにぉおおお!」
「落ち着け、藤代!!」
強があまりにもあっさり呪術を斬り捨てたことによりアルビノの怒りが爆発した。それを必死に取り押さえていると暴れるせいか手に胸が乱雑に当たってしまっている。これはセクハラでないから。先生が生徒に手を出したのはしょうがなくだから。
「だって、そうだろ。それだけなら別に……いらなくね?」
「私が本気出して呪術を使えば凄いことになるぞ!」
「ほぅ、どんなことになる?」
くそ、俺の腕で暴れ放題の藤代に挑発的行為をおくるな!!
「君の家の前にカラスが大量に止まってクソを垂れ流す!」
「へぇー」
「いや!」
——ん? 悲痛な叫び声が……。
「さらに抜け毛が増えてお風呂の排水溝に毛が詰まって水が流れにくくなるぞ!」
「人間抜け毛なんて毎日あるだろう。そんだけか?」
「なに……?」
「やめて!」
——どういうことだ……まったく強に効いていないが。
「お風呂のカビ汚れが増殖して毎日掃除しても湯垢が落ちないようにしてやる!!」
「やっぱり、大したことねぇじゃねか。ハッ」
「もう、たくさんよぉおお!」
——美咲ちゃんに効果が絶大な呪術。
ご家庭の迷惑行為で苦労をするのは主婦だけか。
ニートには一切効かんらしい。
というか、呪術の使い方が思いっきり間違ってるぞ、ギルド長!!
この前、俺に説教垂れた癖にッ!!
「藤代ソイツに向ける呪いの類の方向性が間違っている」
「コレで効かないなんて、コイツおかしいよ!」
「いや……一部には効果絶大だ」
俺は藤代を下におろして呪術の補足をする。
「呪術は人を呪うことも可能だし、自然干渉を術で行える」
もうこんなコントばかリやっていては話も講義も終わらん。
「それには、ソレ相応の媒介が必要だ」
ささっと進めよう。
「藤代、例えばさっきの起こす際に必要なモノとはなんだ?」
「カラスを呼び寄せるのには地図と生ごみ。抜け毛に関してはわら人形と毛髪で、風呂カビについては家庭で使っているバスタオルと蛙の腸だよ」
また……突拍子もないものばかりだな。
「それを儀式に使えば完了か?」
「そうだね。呪術式で発動すれば完了だよ。お手軽に出来る呪いだね」
おまけに一個目とかって現場いくための地図とカラスの餌に思えて、
しょうがないのだが、どういうことだろう……。
「まぁ、といったようにだな、媒介は時々に変わる。魔鉱石もそうだが、術者はいろんな媒介と儀式を用いて超常現象を起こすことだが出来る。これにはマインドポイントは使わない。なぜなら実際に儀式を行うからだ」
≪つづく≫
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