第110話 バズったとやつは言った

「涼宮テレビ見たでふよ!!」

「まさか友達が朝の番組で大々的に取り上げられるなんて、ちょっと僕も興奮してるよ!」

「まぁ世界が俺をほっとく状況がおかしいからな。お前らは俺の友人だから、俺が超有名になっても田中と小泉これからもよろしく仲良くしてやるぜ!! ガハハハッ!」


 もうすでに朝から注目度が俺に集まっている。いや、遂に俺の時代が来た。まさかあんなに報道陣が駆け付けて興味津々に質問の雨、嵐。録画しておけばよかったかな……まぁ、これからもしばらく続くだろうけど。


 ――いや、もっと続いちゃうかもな! 勝ったな、ガハハハッ!!


 俺は満面の笑みで窓の外を眺める。


 報道陣が集まって学校前の道路を占拠している。


 誰を待ってるかなんて一目瞭然だ。俺だよ、オレ。


 涼宮強を世界は待っている……


 次世代型スーパースターの俺様を皆が待っているッ!!


「朝からたいへん調子に乗っておりますこと。なんですか、そのだらしない顔は?」

「ホルスタイン、お前は友人じゃねぇし家畜枠だから。サインとか求めてきても絶対しねぇからな」

「な、なんですって!!」

「み、ミカさん!!」


 鼻息を荒くしたホルスタインを押さえるように三つ編みが慌てて飛びついた。


 その横で黒猫は木の棒で何かをつついている。


「それにしてもー、すごいねー。涼宮めっちゃ人気者じゃん。昔の涼宮からは考えもつかないほどだよ。YouTubeの再生数もすごいことになってるし、あっ!」

「どうした、性別不詳?」

「再生数がもう100万超えてる……超バズってるよ!!」


 100万か………ほんの序章に過ぎないがな。


「まぁ、時代がやっと俺に追いつてきたか……気づくのが遅いくらいだ」

「ほんと信じらんないけど、あっ、やばい! 近くにいたら私も映っちゃうかもしれないじゃん! 化粧気合いれたほうがいいかな!!」

「お前はそもそも性別が怪しいから何をしても、手遅れだ」

「なにそれ、ちょうひどくないー!!」

「それにしてもでふよ、これはすごいでふよ」


 田中がスマホを机に置いて動画再生をする。


 それは俺が最高に輝いている瞬間だ。


 まあ、まだ始めたばかりの淡い輝きなのだが、


 生まれ持ったスター性が違うのだろう。




 これは、その再生映像の一部である――


「涼宮さん、こっち向いてください!」

「ちょっと、勝手にうちの強ちゃんを撮らないでください!!」

「涼宮さん、学園対抗戦で見せた圧倒的実力は、やはり何か特別な訓練をされているんですか!!」

「まぁ……愛する妹の手料理を毎朝食べることかな」

「妹さん……そちらのかわいい方がそうですね!」

「ちょっとやめるです! 勝手に映さないでくださいです!!」


 報道陣を前に自信満々に落ち着く俺と、


「本当に私はダメですッ!!」


 カメラを向けられて恥ずかしがる美咲ちゃん。


 それと――


「個人情報保護法があるんですよ! 突撃取材とかダメなんですよ!!」


 騒ぐ張り込み巨乳デカ。


「勝手に強ちゃんを撮るなんてうらやま――じゃない! ダメなんだからぁああ!」


 報道陣にもみくちゃにされながら間を割るように出てきたせいか大分髪がひどいことになっている。ご自慢の巨乳を揺らしてテレビアピールしまくりである。


 乳でカメラを邪魔して必死に抵抗している。


 一体、何が目的なのかわからんのだが………。


「先程から騒いでるこちらの女性は涼宮さんのなんですか?」

「強ちゃんの……!」

「あっ、コイツ」


 何かを期待するような眼差しで玉藻が俺を見てくる。

 

 俺は質問に定型文を答える。


「ただの頭が悪い幼馴染です」

「幼馴染の方でしたか、お綺麗な方ですねー」

「えっ……強ちゃん、それだけなの?」

「それだけだろう?」

「……がっくし」


 肩を落としている玉藻。


 何をそんなに期待していたのだろう。


 テレビカメラにおまけに雑誌の取材でもあるのだろうか、


 フラッシュが雨のように降り注ぐ。


 これがスターの気持ちか。存外、悪いものではない。


 ――さぁ愚民共よ、俺を崇め奉れ!


「涼宮さんは、あの竜殺しドラゴンスレイヤーである涼宮晴夫さんのご子息と噂があるのですが、本当なのでしょうか!?」

「まぁ……あまり認めたくないが、そうだ」

「やっぱり! 大スクープよ、デスクに連絡して!!」


 ゴミやろうの息子とは不名誉であるがテレビの前で嘘をつくのはよくない。


 それと俺の親父は一応有名人でもある。


「あっ、もしもし時じぃ。車を一台お願い。あとテレビの録画もお願い」


 認めたくないが……二世タレント的な扱いを受けてしまうのか。


「強ちゃんが出てるから……ん、元気がない? あるわけないよ……それより早くして。学校に遅刻しちゃうから………」

「では、こちらのかわいい妹さんも晴夫さんの娘さんということですね!」

「まぁ……ゴミ親父と血のつながりがあるかは怪しいところだが、そうだ」

「ちょっとそ、そそんんあにカメラを向けないでください!! 私は関係者じゃないんですぅ!!」


 携帯を俺に向けるアナウンサーの画面には、


「そういえば、最近巷で話題の『きょうちゃんねる』ってサイトをご存知ですか?」

「強ちゃんねる、なんだそれ?」


 どうも、まとめサイトてきな画面が映っている。


 そこには確かに俺の写真と綺麗にデザインされたサイトがあった。


 けど、ちゃんねるってつくと良いイメージがない。


 あの日本の大手悪口掲示板が脳裏をよぎる。


「まさか……ここに俺の悪口がかかれてるの?」

「そうじゃないですよ、毎日の活動記録とかが書いてあります」

「活動記録?」


 おれ……なんかしたっけ?


「例えば一月の十日ですと、魔物に襲われて困っている方達を救ったとか! おまけに一撃で心の蔵を抜き取って魔物を葬りさったとか!!」

「あれか……」


 そんなこともあったな……うんうん。


「やっぱり、本当のことなんですね!」

「まぁ通りすがりにたまたま見かけたからな」


 どうやら、あのサラリーマンを助けたのが記事になっているらしい。


 多分、悪いことではないだろう。


「助けられた少女からメッセージが届いてましたよ。またお空のお散歩デートを一緒にしようね、お兄ちゃん♪ って」

「あぁ、あのチビっこか。相変わらずませてやがるな………」

「強ちゃん、お空のお散歩デートって、なに!?」


 玉藻が俺の襟を掴んで揺らしてきた。


「私とはデートしたこともないよぉおお!!」


 というか、何をそんなに必死になってるのか。


 コイツの前で力を見せないようにしてきた手前、


 俺が空中散歩をできることなど教えるわけもなく……


 どうも、昨今の玉藻さんは情緒不安定である。


「強ちゃん……っ」


 寂しそうに食い下がられると困る。


 どいつもこいつも玉藻に甘い。


「じゃあ、まぁあれだ……今度な」


 俺も含めて、だが――。


「ゼッタイだよ!! ゼッタイ約束だからね!!」

「もしかして……あの子って涼宮さんのヒロインじゃないのか……」


 何か記者たちが玉藻を見てざわつき始めた。


「けど、どこかで見たことあるな……あの子も、どこだ……?」


 まぁ一回ぐらい報道陣も見たことがあっても、おかしくないだろう。


 だって、玉藻は――


「あの子、総理のお孫さんじゃないか!?」

「本当だ、鈴木総理の!!」


 現総理大臣で日本の総理大臣で一番有名な鈴木政玄じいさんの孫なんだから。


「まさか竜殺しの息子と総理のお孫さんが……これも大スクープじゃないの!!」

「ちょっと、お二人で肩を並べている写真頂いてもいいですか!?」

「えっ……玉藻とツーショット?」

「はい、出来ればお二人の写真がいいのですが……ダメですか?」

「ちょっと待ってください!!」


 玉藻が慌てて手鏡を取り出し乱れた髪を手ぐしで整える。


 美咲ちゃんは顔を真っ赤にしてずっと隠れるように両手で覆い隠している。


 まぁうちの妹は若干人見知りな部分を兄から受け継いでるので、


 多くの報道関係者を前に恥ずかしがるのも無理もない。


 そして、そんなところがまったくもって――


 かわいい!!


「ちゃんと綺麗に取って下さいね!!」

「玉藻、おまえ……遠慮もなく結構がっつりした要求をだすなぁ………」

「あとで写真チェックするので必ずとれたものは送って下さい!!」


 肩を並べる俺と玉藻に一斉にシャッターが切られていく。


 玉藻は俺の脇から手を入れて静かに手を振っている。


 もう首相の孫娘モードに入ってやがる。


「こっちも向いてください! いやー二人ともお似合いですよ!!」

「えー、そんなお似合いだなんて……そんなー」

「いいや、絵になる二人ですね。こちらにもスマイルお願いします!」

「は~い!! 今後とも強ちゃんと二人共々、よろしくお願いいたしまーす!!」

「なにが……二人共々だ」


 調子に乗りまくりで愛想を振りまく玉藻。


 すると道路の真ん中に


「なんだ、なんだ!?」「車が突っ込んでくるぞ!!」「避けろぉおお!!」


 黒塗りのハイヤーが止まり、


 そこから風に吹かれれば飛んでいきそうな、


「玉藻様、強様、美咲様、お迎えにあがりました」


 執事服の爺様が乱入してきた。


「どうぞ車にお乗りください。学校までお送りいたします」

「ちょっと時じぃ、今いいところなんだけど!!」

「時さん、ありがとうぉおおお!」


 玉藻と美咲ちゃんは姉妹である。


 反応が違いすぎるのがその証拠である。


 泣きべそをかきながら美咲ちゃんはダッシュで車に乗り込んでいった。


「ささ、強様も早くお乗りになってください」

「あぁ、ありがとう。時さん、ワリィな」

「どうぞお気になさらずに」


 俺は静かに時さんが押さえてくれているドアから黒塗りの車に乗り込んでいく。玉藻は……「強ちゃんともっと写真撮るのぉおお!」と駄々をこねる子供の様に暴れているが時さんに捕まえられ車に押し込められて、ドアをバタンと閉められた。


 しばらく時さんが外の報道関係者達と、


 何かを話した後にやつらは――


 蜘蛛の子を散らす様に消えていった。


 それが朝の報道の一部始終である。




 で、今だ――



 地べたに泣きながら寝そべっている玉藻が


「つんつん………つんつん………動かない」

「…………」


 黒猫に木の棒でツンツンとつつかれている。


「つんつん………つんつん………」


 あの後、時さんに説教されていた。


「つんつん………つんつん………」


 総理の孫としての自覚が足りないとか。軽はずみにテレビに出ないでくださいと。そして凹んだ玉藻は総理の孫らしからぬ態度で地べたに不貞腐れて寝ているというのが現状。


「もっと、いっぱい写真撮りたかったのに……結構式のスライド写真用に欲しかったのに……っ」

「いつまで不貞腐れてるんだ、玉藻?」

「だって、せっかくの……写真だよ!」


 いきなり、ガバっと死体が起き上がった。


「写真ぐらい小っちゃい頃からいっぱいあるだろう……」

「最近の写真が一枚もないんだよ! 強ちゃん、高校に入ってから私と一回も写真撮ってないんだよ!! 異世界行ってる間の強ちゃんの写真とか……一枚もないし……マカダミアは遠足ないから強ちゃんの写真をこっそり大量購入することも出来ないんだよ!!」

「こっそり……って、なにを言ってるんだ?」

「そ、それは、違うの!! ただ保管用と観賞用と結婚式用とさらに保管がダメになったときのスペア用で、あと持ち歩きできる用と」

「ん?」


 ――なんか、必死に焦っているが枚数が何枚必要なの?


 まぁ自分も写っている写真を持ち歩いているということだろうか。


 意外とコイツ自分大好きなのか?


 ナルシストって女性に向けて使う言葉なのだろうか?


「強、ありがとう……」

「ん、どうした櫻井?」

「お前と友達でよかったと俺は思う……」

「あぁ……お前とは親友だと俺は思ってるぞ」


 肩に手を置き櫻井は去っていた。


 ――なんか怪しいやつだな………。


 廊下に消えていくその男の背中を眺めていた。


 ――何してんだ………アイツ?


 やつは廊下につくと小さくガッツポーズを突き、小声で言った。


 俺はそれを聞き取った。




【バズった!】




 と、やつは言っていた。

 

 一体、何がバズだったのだろう……。


 ちなみに櫻井の不幸はバズりまくりである。



≪つづく≫

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