第107話 三傑会議の鍵を握る剣豪
火神は三傑会議に参加するためにパソコンからTV会議を使用した。
モニターに移される銀翔と刀を抱いた剣豪風のもう一人の姿。
そして、相手方の画面には火神の姿が映っている。
「では、
銀翔が会議の開始を伝える。
三傑会議とはそもそも銀翔の代に変わってから出来たもの。
No.1晴夫とNo.2オロチの時代は二人で話を決めていた為に、
そもそも会議がなかった。
そして、代替わりを機に会議としてさらに一名追加する形になった。
火神と銀翔だけではことを決めづらかったのが原因である。何かと意見がぶつかる二人では話がまとまるものもまとまらない為にNo.3を追加する形で現在は運用を行っている。
ブラックユーモラス内部の方針を決めるための月例会議を三傑会議という。
「大阪支部の現状を報告してくれ、火神」
「まぁなんとか形にはなってきた。草薙が抜けた穴も時間はかかるがそのうち埋まるだろう。ただ課題として残ってるのは仕事のとろさの改善だ。やり方が古臭くて一から叩き直しが必要になる」
淡々と述べられる火神の意見に二人は耳を傾ける。
銀翔は仲は良くないが火神について仕事という点においては、
全幅の信頼を寄せている。
行動が早く、それなりに人望があることもわかっているからこそ、
火神に、大坂の一件をまかせていた。
「こっちに戻ってくるにはどのぐらいかかる?」
「あん、てめぇ? 俺に東京に戻ってくんなってか……」
「そういう意味じゃない……」
銀翔が何か言うと挑発に取られやすい旧知の間柄だけに、
「人手が足りないし火神がこっちから抜けている分の穴も大きいから、すぐに戻ってきて欲しいってことだよ」
銀翔としてはここが大分やりづらい。
出来ればNo.1など譲ってしまいたいのだが、
ソレを良しとする性格でないことも昔からの付き合いで知っている。
「まぁ、3、4ヵ月っていったところか。それまでに田岡を使いもんになるようにしなきゃいけないけどな。大阪支部として報告できるのはそれぐらいだ」
「わかった。こっちからの情報としては
「はぁ? どこでだ?」
それは火神にとって寝耳に水だった。まだ公には公表されていない。
公表されれば騒ぎになることが間違いないからである。
能力を糧に職についてるものもいるなかで、その消失というのは離職を意味する。人生を狂わす可能性が高いだけに大きな問題と言える。銀翔自身もバレンタインデーで杉崎から報告を受けた際に初めて聞いた事案である。
「東北でだけど、まだ一件だ」
「……対応はどうする?」
「静観としかいいようがないけど」
「原因は?」
「まだ検査中といったところだ」
まだ一件。能力というものが認知されてからまだ日が浅い。
「ちっ……厄介な問題だな」
「明るみに出れば大騒ぎになることは間違いない」
20年も経っていないという少ない時間だけにまだすべての全容が解析されたわけでもないが故に起こり得るイレギュラー。異世界で与えられた能力はいつ消えるのか。火神にとって同じ能力者としても気掛かりである。
「ちなみに対象の年齢はいくつだ?」
「今年で17歳」
「若いな……ってことは年数とかの問題でもねぇか。調査結果が分かり次第、連絡を寄越せ。この件は能力者でもある俺には関係が深い」
「言われなくても分かってるよ……それと、この件に付随してなんだけど」
火神の上司の様なセリフにイヤな顔を浮かべながらも銀翔は話を続ける。
それに火神は終わる前に早々に口を挟んだ。
「また、レアケースじゃねぇだろうな……」
「レアはレアだよ。というか初めての事だし」
「初めてだと……なんだよ」
「今年のインターンが一名減った」
「はぁ? ってことはアイツか……もっとややこしい話じゃねぇか!」
火神が怒るのも無理がない話である。
とても、こんがらがりやすいものが能力を消失しているのである。
「ってことは……テメェでテメェのって可能性もあるのか……!」
「それについては検査待ちだから。それよりインターン一名の不足をどうしようかって?」
それは学園に盛り込まれている実地研修制度に関わる話でもある。
去年の学園対抗戦を元にそのメンバーは決められている。
それに欠員が出たとあればどうするかという対応がブラックユーモラスでも決まっていなかった。そんなケースが今までに一度も発生しことがないのである。
「インターンが一名減ろうが構いやしねぇが……やるとしたら二択だろ。補充するか欠員が出たそのまま行くか」
「そうだね」
「だったら、欠員でいいだろう」
火神の中で答えはすぐに出た。あくまでもこれはインターン。
本採用とは別の枠組みである。
実際、学園対抗戦に出ている時より一年間で成長してくるものが多い。
まだまだ実力を挽回するにも十分な期間があるために、
それほど焦って選ぶ必要もないだろうと。
それに――
「これから人を探すのも手間がかかる上に特に欲しい人材もいない。わざわざ選ぶ必要も――」
そう言いかけて火神はやめた。
――待てよ………。
自分の中でわずかにちらつく人材がいる。
「いや、人手も足りないし多いに越したことはないから選ぶか。その一名の決定方法はどうするかだ……」
その姿に気掛かりを覚えながらも、
「それなら三傑会議で」
銀翔は出た案にそうように話を進める。
「二名以上の投票があって学園側の推薦も必要ってことにしよう」
「はぁ、そんなやついるわけねぇだろう! 探す気あるのかよッ!!」
「じゃあ三名がそれぞれに選ぶ? その方が二名も増えるし」
「……………っ」
これは銀翔が火神に対して予防線を張った発言。
いきなり意見を変えるなどおかしいこと極まりない上に、
何かよからぬ予感がしたからである。
提案するフリをして何かを画策しようとしてる匂いがプンプンしている。
この沈黙が何よりの証拠である。
「わかった、最初にお前がいったやつでいい。足手まといを三名増やしてもしょうがねぇ」
「じゃあ、そういうことで。次の議題に移ろう――」
それから細かいことも含め報告が飛び交った。
剣豪はただ静かにうなずいている。
この男は無口であまり重要なとき以外しゃべらない。
会議に参加している意味はあまりないのだが、あくまでも二人の調整役としての立場が大きい。意見が割れた時の判断をまかせられるというキーマンであるが故にただの置物ではなく意外と責任が高いポジションなのである。
セリフがないだけで、けして寝ているわけでも、消失しているわけでもない。
ただ彼には誰にも明かしてない秘密がある。
会議は順調に進んでいたが、それは度々起こる。
その議題に入ると火神は熱が入ってしまう。
「で、涼宮君の報告は終わり」
「なぁ……銀翔。お前はコレについてどうするつもりだ?」
明らかに苛立ちを前面に押し出して火神は銀翔に問いかけた。
「どうするって……」
「なんだ、この最後の今後の動向に期待が持てるって!!」
火神はレポートの紙を叩き怒りを露わにする。
こんなものを見せられてこの男が黙っていられるはずもない。
「最近このレポートおかしくねぇか……まるで特異点に愛着がわいてるような客観性がない内容になってきている!!」
火神にとって涼宮強とは許せるわけもない人物。
もうこれ以上、涼宮強を野放しにしておくことが耐え切れない。
「なぁ、いつまでこんなこと続けりゃ気が済む……っ」
「火神……あくまで可能性の話だ。今、対応を決断するべき問題じゃない」
「あと何人だ」
「っ………………」
銀翔の言うことも的が外れているわけではないが、
それだけでは済まない話だということも火神は知っている。
「あと何人殺されりゃ動くッ!! コイツのせいで魔物が出現しているかもしれないのにほっといて何人殺された!! 何人死んだ!!」
魔物と戦った結果、仲間が死ぬこともある。
「草薙も死んだ……藤田も東堂も日下部もだ……他にも他にもたくさんだ!!」
ブラックユーモラスはその最前線に位置する。犠牲が少ないわけがない。
「…………いつまで続ける気だ」
だからこそ、火神は涼宮強という存在を憎む。
ソレを銀髪の男に問いかけるのである。
「コイツ一人の命と失った仲間の命が釣り合うっていうのか……お前は?」
あの大晦日の日、火神は涼宮強を殺そうと動いた。
仲間が死ぬ状況を打破するべく。彼の判断を責められ訳もない。
一人の命で多くの命が救える可能性があるのであれば動くという人間もいるだろう。仲間を大切にする男だからこそ惨状に耐えられる限界がある。
「火神、命に釣り合うも………」
銀翔は火神の考えを理解したうえで重たい口を開いた。
「釣り合わないもない……だって、命なんだから」
銀翔がまったく現状を理解していないわけでもない。
「なに言ってやがんだ、銀翔ぉおおお!」
これは命の捉え方による価値観の相違でしかない。
銀翔衛にとって――
命とは何よりも重たいものなのだから。
「
怒りの眼差しのままそれは答えを求めるように画面上の剣豪に向けられた。こういう時の為の剣豪であるが故にいきなりの重たい質問。彼は静かに目を開き口を開いた。
渋い声で答える。
「火神殿――」
彼はいつも決断を迫られたときに話を振られる。
名前も
姿も渋いし声も渋い――。
だが彼には秘密がある――
彼は思った。
えっ、まじで? そこで俺にふっちゃう?
内心すごい困惑しているが表情は渋さを保っている。
命とかすげぇ重いよ……重すぎるよ!
普通そこで何も話してない俺に振る!?
キラーパスとか名前の通りだよ!!
俺の返答次第で涼宮君をやっちゃうってことでしょ!?
うわー、すげぇ重い重い、重い!!
内心、超がつくほどテンパっている。
アンタ達いつもそうだよ! なんでそういう大事なところで喧嘩するんだよ!! それで答えでなくて俺に振るとかないわー、まじないわー!
その判断ミスチョイスすぎるわー!
そもそもよ、そもそも!
No.1が社長としたらあれよ。
社長と副社長が喧嘩し始めて、専務どうするってことでしょ?
くそパワハラじゃーん。で、俺が責任とるってこと。
まじないわー、ホントマジない。
ぱないよー、その無茶ぶりマジぱない………。
「なんだよ……豪気?」
その目で睨まんといてなー。きついっす。
超オコじゃん。まじ激おこぷんぷん丸じゃん。
俺、何もしてなくない? 俺が悪いの。
銀翔さんもめっちゃコッチ見てるし……公開処刑ですよ、こんなん。
とりあえず、それっぽいことを喋らんと――
「特異点への刺激によってm何が起こるかわからない以上、」
まだ世界が変わって20年も経っていない。特異点の存在が見つかったのも僅か5年前。だからこそ情報が少ない。何をすればどうなるのかも未だにわかっていない。
「いま手を出すことは得策ではないと思うでござるよ」
「……クソが……っ」
その情報を踏まえて剣豪は静かに答えを導き出した――ように見えた。
2月の三傑会議はこうして重い空気のまま終わった。
会議が終わり新宿に残った二人も会議の片づけを始める。
「別に気に病むことも無い」
「ありがとう、豪気」
静かに落ち込む銀翔の肩を叩き、豪鬼は部屋の扉を閉める。
そして全速力でダッシュして人気のない場所を探して、
彼は溜まった鬱憤を叫びに向かう。
「マジもう限界!! むぅりぃー!!」
九条豪鬼の本当の性格を知る者はブラックユーモラスに誰一人いない。
彼は異世界系に多い、
恰好だけイキッているチキン野郎だということを誰も知らない。
≪つづく≫
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