おまけ サイドエピソード デットエンドと仲間の聖なる夜のばか騒ぎ (平成28年 12月追加)

前編 聖なる夜のばか騒ぎ

 2016年12月25日(日)


 今日は世間でクリスマスというらしい。


 『苦しみまーす』とダジャレを中年親父がいうことも多く、OLが内心勝手に一人で苦しんでろ禿がと聖夜に思いを込める最悪な日。


 どこの誰が何を考えて作ったのか?


 どこかの教祖様のお誕生日という説もあるが実は違うという説もある。


 本当は教祖様は9月15日生まれだとか。教祖はおとめ座。あんな渋い顔をしているけど、おとめ座の男である。誕生日でもない日にお祝いされる教祖様の気分とは如何に。


 三か月遅れたあげくまったくひとつの数字も合っていない日にお誕生日おめでとうを世界中のリア充どもから告げられるお髭の素敵なおっさんの切なさ。


 心中お察しする……。


 俺だったら迷わず殴り飛ばしているだろう。リア充共が「うぇーい、たんおめ!」や「ハピッバ!」なんて言ってきたらソイツの言語中枢を停止させる勢いで頭部をロックしてDDTをかまし、コンクリートの大地に墓石を作り上げてやる。


 バカ騒ぎしたいやつが作った架空の誕生日など言語道断。江戸時代の武士だったら間違いなく斬り捨てごめんの案件。


 俺はそんなことを考えながら布団でモヤモヤしていた。


「はぁ~」


 今日はあのバカの誕生日でもある。


「お兄ちゃん、朝ご飯出来たよ」


 妹が俺を優しく起こしに来てくれた。


 だが、なんかモヤモヤするから布団から出たくない。


「今日は玉藻ちゃんの誕生日会やるからね。お兄ちゃん」

「……」


 俺の誕生日に何ももらってない……今まで毎年もらっていたのに異世界帰りの巨乳は俺に何もくれなかった、今年。おめでとうの一言すらもないのである。


 なぜ? 俺を祝わなかったあいつの誕生日を、なぜ? 俺が祝わなきゃいけないの??


 口に出せばおねいちゃん大好き美咲ちゃんの反感を買うのは、目に見えているので言えない。何も言えないこんな世の中じゃポイズン案件である。


「ほら、早く起きて!!」


 しびれを切らした美咲ちゃんが怒り始めた。


「玉藻ちゃんへの誕生日プレゼントまだ買ってないんでしょ!!」


 そんなものの為に……俺が出かけるのですか?


「……買う必要があるのかい?」

「おねいちゃんにいつもお世話になってるでしょ!! 特にお兄ちゃんは!!」


 くそ……なぜ、うちの妹はあいつにこんなに優しいのか。同じ時を俺も過ごしてきたはずなのに、くそくそ!


 こんなことならお兄ちゃんではなく、お姉ちゃんに生まれたかったッ!!


 依怙贔屓えこひいきが過ぎる妹の扱い。悔しさのあまり俺は布団に顔をうずめてもがいた。


「起きろっつってるでしょうがぁあああああああああああ!!」



 美咲ちゃんの咆哮とちゃぶ台返しならぬ、布団返し。そして、俺は起きることを余儀なくされ朝ご飯を食べると同時に家を速攻で追い出された。


「…………」


 なんで誕生日を祝うためにこんなヒドイ仕打ちを受けさせられているのかわからない。


 十二月の外は寒むかった。そして、お財布も寒い。いつでも氷河期。それが俺の財布。もう豚からのカツアゲ貯金もなくなった。


 使い切ってしまった。


 俺は財布の中身を確認する。


「……千五百円」


 足りない。というか、あとお年玉までどうやって過ごせばいいのか。毎日ジュースを二本買ったら無一文か。世知辛い。


 俺はとぼとぼ歩きだす。


 とりあえず資金調達から始めねば。





 俺はある家の前で立ち止まり、チャイムを連打した。


「どちら様だ? こんな朝っぱらから?」


 少し怒り気味の住人が出てきた。


「ひとんちのチャイムを連打するアホは?」

「櫻井……」


 ピエロを前に俺は悲しい想いをぶつける。


「なんだよ……そんな捨てられた子犬のような悲しげな表情をして……」

「頼みが……あるんだ」

「もしかして、美咲ちゃんと喧嘩して家を追い出されたのか?」

「それに近い」

「まぁ、うちに泊めてやってもいいけど……」

「違う」

 

 要件はそんなものじゃない。


「なんだ? ごはんか?」

「金をよこせ」


 俺は率直に願いを申し上げる。


「お前、強盗じゃねぇか!!」

「違う! 金をよこせ!!と頼んでいるんだ」

「言ってることもやってることも強盗のやることだぁあああああああ!!」


 言い方が悪かったか……じゃあ言い直そう。


「じゃあ、有り金を全部恵んでくれ」

「随分欲深い遠慮もない乞食こじきだな、お前は」


 ツッコミのキレが鋭いやつだ。あー言えばこうツッコんでくる。おまけに呆れた表情で俺を見てくる。

 

「とりあえず立ち話だと長そうだから中に入れよ、強」

「そうだな」


 俺は櫻井の家に上がり席に着く。廊下を進んですぐにリビングに直結している。意外と小綺麗な部屋。俺は長旅の疲れをいやす様にソファーにすぐに座る。


「ココアでも恵んでやる」

「すまん」


 櫻井が飲み物をマグカップに入れ俺に差し出してくれたので受け取る。暖かそうな飲み物で湯気が出ている。一口つけてさぁ話をするか。


「同情するなら、金をくれ」

「強、発言が真っすぐすぎて困る。受け答えにすごい困るやつだ、それ」

「どうしたら、お金をくれるんだ。櫻井?」


 さっきから拒否してばっかだな。このピエロ。


「そもそもの発想がおかしい。金はそんな簡単に手に入るもんじゃない」

「……言われて見ればそうだな」

「というか、お前なんでそんなに金が欲しいんだ?」


 それには俺も色々な疑問がある。なぜ俺がこんな乞食みたいな真似をしなければいけない。


「よくぞ聞いてくれた………櫻井……」


 さすが心の友。俺の話を聞いてくれるんだな。俺は愚痴を言いたかったのかもしれない。だからここに愚痴をこぼしに来たのかもしれない。


「俺に誕生日プレゼントをよこさないやつに、なぜか誕生日プレゼント買いに行かなきゃいけないんだ!! 信じられるか!?」


 本当にそれだけをぶちまけたかった。信じられない理不尽な状況!


「おぉ……だいぶ理不尽だな」

「そうなんだ。あいつだけ優遇しなきゃいけないなんて……なんか悔しい!!」

「今日は鈴木さんの誕生日だもんな」

「?!」


 な、な、なんで知ってんだ!! こいつ!?


「なんで玉藻の誕生日を知ってるんだ!?」

「いや、美咲ちゃんから誕生会やるから来てくださいって招待状が来たんだ」

「……お前もあいつの味方なのか?」

「えっ?」


 このピエロは……裏切り者か?


「お前の誕生日を祝ってないあいつの誕生日を祝うのか?」


 俺の怒りという抜かれた刀は鞘に戻ることはなかった。理不尽な要求に屈するわけにはいかないと言葉を吐きだす。


「しかも世界中のやつらが祝福するんだ! あいつの誕生日を!! お祭り騒ぎでどんちゃん騒ぎして!! なのに俺とお前はそれを祝うのか!?」

「……それとこれとは別だろう」

「なっ!? 何がだ!!」

「いや鈴木さんにはちょこちょこお世話になってるし。お昼いつも一緒に食べてるし、仲いいし、普通に祝うだろう」


 平然と言う櫻井に俺は眉を顰める。何言ってやがんだ……コイツ?


「あきれたぜ、ピエロ……言葉も出ねぇよ。昔のお前はそんなやつじゃなかった櫻井。失望だ。かつてのお前はもっと人を憎んで世界を憎んでいたはずだ」

「めちゃくちゃ言葉出てんじゃねぇか……」


 誰かの誕生日を喜んで祝うような凡人でなかった。誕生日を命日に変えてやるよぐらいの気概があったはず。おまけにイチャつくカップルを許せるような大きい器はなかったはずだ!


「それなのに……どうしてだ! いつからそんな貧弱なピエロに成り下がった!!」

「逆にお前は鈴木さんと何で昼飯を一緒に食ってる?」

「そういうことを言ってるんじゃない!」

「……」


 なんで分からないんだ! お前なら分かってくれると思っていたのに!!


「昔のお前に戻って――」


 俺は悔しい!! 非常に悔しい!!


 昔はこんな軟弱なやつじゃなかった。


 俺が言いたいことはひとつだけだ!!





「つべこべ言わずに俺に金を寄越せよ!!」




「……お前に金は貸さない、出てけ」



 そして、俺は櫻井の家を追い出されることとなった。


 あー、世の中は理不尽で溢れかえっている。一人とぼとぼ駒沢の街を歩く。街はイルミネーションが施され赤と緑の模様が溢れている。浮かれ気分の村人たち。


 誰もが笑顔の中で俺だけが俯いていた。


 ―—やるせない……やるせないぜ。


 残りの所持金は1350円。


 俺は、ペットボトルを飲みながら悲しげに街を歩く。


「なんでか世界はアイツに過保護に甘い……」


 総理大臣の孫という時点で圧倒的アドバンテージを受けているにも関わらず、誕生日がクリスマスとかやりすぎじゃねぇかな。おまけに友達がたくさんいるくせに俺の親友も実の妹ですらも俺よりアイツの味方をする。

 

「…………」

 

 アイツの加護が強すぎる。天然バカ程人生を楽しんでいる気がする。プレゼントを買うまでは俺は家に戻れないし、家でダラダラ過ごすことも美咲ちゃんに監視されて出来ない。


 恐ろしいぜ、クリスマス。


「去年はなかったけど……いつもどうしてったけっか……」


 そういえば、いつも何をあげていたんだろう?


 俺は過去の記憶を呼び覚ます。


 6歳の時、公園で拾ったどんぐり(0円)


 7歳の時、公園で拾ったきれいな石(0円)


 8歳の時、公園で汲んだ、ペットボトルの水(0円)


 9歳の時、うまい棒一本(10円)


 10歳の時、ベビースター(30円)


 11――12――13――


 14歳の時、ブタメン(60円)


 15歳の時、板チョコレート(100円)。


 今年は板チョコを上回ればよかったのか。しかし、俺も高校生。


 さすがにお菓子では……面子に傷がつく。


 何かいいものはないだろうか?


「お兄さん、彼女への誕生日プレゼントをお探しですか?」


 そんなことを考え歩いているとある店から声がかかった。


「か、彼女ちゃうわ!! 幼馴染や!!」

「そうですか……いいものありますよ♪」


 怪しげな骨董品がありそうな薄汚い店舗。ひび割れた昭和のガラス扉。クリスマスの気配が何一つない。むしろ倒産の雰囲気すらある。在庫一掃セールとかあるかもしれない。


 俺は勇気をもって声を出す。


「あんま……金がないんだが」

「大丈夫です――」


 とても魅力的な提案だった。


「500円です」

「えっ?」


 500円で解決できる。


 毎日ペットボトルを1本にすればこと足りる。


 明日から一本に。



◆ ◆ ◆ ◆



 私は家でケーキと料理を準備をしていました。


 涼宮家では誕生日というイベントがありません。


 誕生日は無意味として扱われています。コンセプトとしては毎日が誕生日ということ、愛情を絶やさない。そう母が決めてから、うちでは誕生日とか特別な日を設けないようにしています。


 まぁ……かつて父の仕事が忙しかったのもあったので、それを母がかばった結果なのですが、特に恨むことはありません。両親は毎日のように私を愛でてくれていたのでそれが何か嫌だとかは感じたことがありません。


 ただ人の誕生日を祝うのが嫌いというわけでもないのです。


 それがおねいちゃんのとなれば尚更頑張ろうと思えます。


「ふーん、ふーん、ん?」


 鼻歌交じりに調理を続けていたらチャイムがなったので玄関に行きました。


「はーい、はーい」

「おはよう、美咲♪」

「昴ちゃん……?」


 何故か昴ちゃんが早めにうちに到着しました。


 どうしたんだろう?


 何やら大きめの紙袋を持っています。


「どうしたの、時間にはまだ早いよ、昴ちゃん?」

 

 というか、昴ちゃんは約束の三時間前に到着している。


 早すぎる。普通早くても三十分前とかだよ。出来た社会人なら相手の家に迷惑がかからないように近くで十分前に到着するように待機しているんだよ。


「あれ、おねいさんはいないの?」

「まだだよ」


 もしかして……昴ちゃんはバカだから時間を間違えたのかな。それともバカだから時計の電池を替え忘れたとかかもしれない。もしくは地図がバカで読めなくて距離が分からずに早めに出すぎたとかかな……昴ちゃん。


 私が昴ちゃんの学の無さに哀れみを向けたが笑顔で紙袋をガサゴソしはじめた。


「早めに来て飾りつけをしようと思ったのと――」


 手に折り紙で作った可愛いらしい飾りを伸ばして得意げに見せている。


 意外とまともな理由では私はほっと一安心。


 やっぱり昴ちゃんはバカで常識がないのだけれど、いい子だ。


「あと、コレ!」


 だが、昴ちゃんは手をそれだけでは止めなかった。


 紙袋を満面の笑みで突き出されたので中をのぞくと――。


「――えっ?」


 広げられた紙袋を覗いて私はビックリした。


 玉藻ちゃんの誕生日なのに、


 なんでこんなものを……。

 



◆ ◆ ◆ ◆


 

 俺は部屋でダンベルを追いて首に巻いたタオルで汗を拭う。


 そして時計を確認した。


「そろそろ集合時間か……」


 トレーニングを一通り終えたからシャワーを浴びなきゃな。


 あとは鈴木さんへのプレゼント買ってかなきゃいけないし。


 時間配分を気にしながら俺は自宅で準備を進めていく。


「それにしても、強のやつ……」


 そこに心配がよぎる。


「大丈夫かよ……」


 アイツが一人でプレゼントを買える気が全然しないんだが……。


 涼宮強という男が一人で恋人(仮)へのプレゼントを買い物する想像が一ミリもできない。鈴木さんが帰ってきてから大分柔和になってはいるが、以前として根っこは強のままだ。アイツが気の利いた彼氏(仮)トークの一つでもしてればいいが、聞いたことねぇ。


 アイツは基本ウルセェ、


 ウゼェでしか会話できん奴だ。


 家にあげた時に金をよこせしか言わんから勢いで帰してしまったが、せめてプレゼントのアドバイスとかしてやればよかったかもしれない。アイツの基本構造からして鈴木さんに何を買うかも予想がつかない。


 それにアイツはケチだ。というか金銭のやり取りに関して鈍い。


 ジュース代の金を貸しても返ってきた試しがない、ケチだから。


 そんな過去の苛立ちも少しあり、


「まぁ、ほっとこう」


 という結論に至る。俺は持ち歩きようの鞄に荷物を詰めて準備を終わらせる。


「あいつはあいつ、俺は俺……」


 と結論を出しながらも、俺はため息を一回ついた。


 口に出している時点でなんとなく分かってしまっている。


「だぁー、くそぉ……」


 俺の中で引っかかっているからだ。


 ――やはり、気になってしまう。


 ムシャクシャして俺は自分の髪を引っ掻き回す。


「しょうがねぇ……」


 強にあんまストレス与えちゃいけないんだっけか……。


「仕事の一環としてフォローしてやるか」


 あいつの財布にいくらあるのか分からんけど。



《つづく》

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