12―学園対抗戦―.デットエンドはランチタイム。ピエロは晴夫と初対面で汗が止まらない。

第33話 愛のバミューダトライアングル

 俺が選手控室で横になっていると各々のヒロインが駆けつけてきた。


「大丈夫ですか? 小泉しゃん」

「大丈夫だよ。二キル」


 センターのヒロイン。どこか幼さが残る猫耳っ子登場。ただ喋り方が若干おかしい。しゃんって……ですかは、でしゅかにしないと成り立たないだろう。


 コイツもキャラ設定が迷子な感じを受ける。


 豚に真珠、猫に小判。


 豚がでふで、猫がでしゅ。


 こいつら、国語の授業をちゃんと受けているのか怪しい。


 回答欄にでしゅとか、でふとか、書いたら大変なことになるぞ。


 そう考えてる見ると――


 ――まさか、こいつ等!?


 なんて家畜動物たちだ。恐ろしいぜ。


 ――自分のキャラ付の為だけに口癖を使っているのか!?


 もう家畜による人間への復讐は着々と進んでいる状態。


 知能を付けた豚と猫に地球が侵略されるSF。


 まさにミレニアムバグだ……


 世界観がバグってしまった!


「田中さん、こんなところに大きな傷が!」「こっちからも血が出てるよ!」「爪が割れてますよ!」「肌がこんなにぶくぶく腫れちゃってる」


 チッコイ黒いやつだけ正解。確かに見るも無残にぶくぶくしとるよ、その豚は。もう丸々太っていて出荷時期が来ている。もう食べ頃だ。


「早く出荷してくれ……」


 呆れている俺はイライラしつつもある。


 控室が騒がしいのもあるが、ちょいと違うのだ。


 この控室の中心になるべき人物が違う。それは俺でもない。


 ――なのに、なのにだ!


「僕は大丈夫でふよ」「だめです!! 田中さんもしっかり回復しないと!!」「そうですよ! 田中さん!」「すまんでゅふふ」


 ――なに見てんだよッ!


 どう見てもセンターが一番ボロボロだ。


 豚が四人の女に囲まれ手厚い保護のもと回復を受けていた。うん、明らかにお前はおかしい。お前の取り巻きもおかしい。どうみてもセンターセパレートの方が重傷だ。


 あっちに四人付けてあげるのが正解だろう。


 試合中に鼻血も出してたし……


 洋一に蹴られまくってただろうがっ……。


「チッ……」


 重症センターを無視して軽症の豚が過保護にされている光景に嫌気が差してくる。そして、扉が大きな音を立てて勢いよく開き、


「強ちゃん大丈夫!?」


 玉藻は嫌気が差して苦悶の表情を浮かべてる俺に視線を合わせた。


「何があったの!? 試合中ヒドイことされたの!?」

「試合内外問わず心の傷を負わされた。誹謗中傷を受けたぜ……」


 試合では笑いものにされるわ、


 控室ではハブにされるわで、誠に遺憾です。


「精神攻撃を受けたのね!」


 いや……精神攻撃って?


「あのデカブツ、なんて恐ろしい攻撃を強ちゃんに!!」


 デカブツ?


 玉藻があまり見せないようなキッとした憎しみを込めた眼つきでどこか遠くを睨んでる。それに玉藻さんの口からデカブツとか初めて聞いたわ。新鮮すぎてちょっと驚いちまうよ。


「すぐに回復するから!!」


 いや、精神攻撃は確かに受けたが……そんな心配するほどのものでは。


「キュア!」


 白い光が俺を包む。


 うむ、肩こりが治っていく。温かくて気持ちいい。暖房より回復魔法の方がいいな。これは温泉に浸かってるような気分になれる。ふぅー、復元もいいけど回復魔法も捨てがたい。


 美咲ちゃんに毎日回復魔法して貰いたい。


 まぁ美咲ちゃんがいるだけで癒されてはいるけども、


 欲張りハッピーセットしたい。


「強ちゃん……もう無理して出なくてもいいんだよ」


 肩こり治療している玉藻が心配そうに俺に語り掛けてきた。


「こんなの強ちゃんには向かないんだから」


 一瞬で空気が張り詰めた。


 ――また……迂闊な発言を。


 玉藻の空気を読まない発言が控室の視線を俺に集める。豚の取り巻きは呆れた顔をしている。センターヒロインはオロオロしながら俺をチラチラ見ている。豚とセンターセパレートは何か言いたそうにまっすぐ俺を見つめている。


 全ての視線が俺たち二人に向いている。


「まぁ、危なくなったら棄権する……」


 俺はため息をつきながら視線に答える。


「他の奴もそうしろ。こんな学校の満足の為に怪我することねぇから」


 全員に向かって俺が言いたかったこと。奴隷としてではなく人権を守るべきだ。当たり前のように戦わされている現状を受け入れるべきではないという思いを言葉にした。


 それが癇に障ったと言わんばかりに、


 高尚なことを語った俺に豚の取り巻きのボス的存在――


「なんですって――ッ!」


 高飛車たかびしゃそうな奴が俺に詰め寄ってきた。


 以前『ホルスタイン』とあだ名をつけた、金髪ドリル巨乳である。


 すごい剣幕だった。今にも人を殺しそうな顔をしている。


 どうやら、俺の発言がやつの逆鱗げきりんに触れてしまったらしい。


「アナタに騎士きしとしての誇りはないのですか!?」


 何が騎士だ。だが俺が答えるよりも早く、


「そ、そんなの強ちゃんには関係ない!」

「待て! 玉藻!」


 玉藻が何か言い返そうとしたが俺は立ち上がり肩を掴んで後ろに引いた。


 騎士の誇りか。騎士でもない俺の答えは誇りなどあるわけがない。


 そもそも日本に騎士はいない、呆れた質問だ。


 ここは俺がはっきり答えよう。


「騎士の誇りだか何だかが、知らんが、そんなもので傷つくのは馬鹿げてる」


 誇りで生きていけるわけでもない。


「わざわざ怪我することねぇだろう。誇りがあっても死んだら終わりだ」


 誇りで腹が満たされるわけでも生活が豊かになるわけでもねぇ。


「誇りで死ぬことは名誉とは関係ない!!」

 

 コイツの言ってるのは誇りじゃなくておごりだッ!


「名誉の負傷と言っても、負傷は負傷だ!!」


 何か勘違いしている馬鹿に教えてやらねばと俺は語気を強める。


「誇りの為に死んだり傷ついたりするなんてやつはなー、愚かもん以外のナニモノでもないッ!!」


 そして、最後を言い切った。


「なっ……ッ!」


 高飛車女は悔しそうに口をつぐんだ表情を見せ――


 勢いよく控室を出ていった。間違ったことを言ったつもりはない。


 それでも張り詰めた空気は別種のものになってしまった。


「ミカたんを追ってあげて欲しいでふ。頼むでふよ」

「わかりました。田中さん!!」


 俺はホルスタインの予想外の動きに面を喰らった。豚が他の取り巻きに優しく指示を出すのが聞こえる。なんか性別がイマイチ掴めない顔のヤツが声を出して、他二人が頷き、三名が控室を出て行ったのを確認すると豚が俺の元に歩いてきた。


「すまんでふ……ミカたんが失礼を申し上げたでふ」


 貴族のように手を腹に当てて頭を下げる豚。本当に失礼な連中だ……。


 しかし、豚が一向に頭を上げてこないから面と向かって言うことも出来んし。


「涼宮のいう通り、ケガしてまでやることじゃないのかもないのでふね」

「……」


 深々頭を下げる豚に俺は言葉を失う。そして、センターセパレートが悔しそうに口をつぐんでいた。猫耳娘の耳が悲しい気分を表す様に垂れている。玉藻も口をへの字にして押し黙っている。


 なんか変な気分だ……


 また俺が悪者みたいになってる……。


 そう思ってたのだが、だけどちょっといつもと違った。


 この狭い空間がいけないのか何とも言えない空気を感じる。


 俺も別にホルスタインを泣かそうとまでは思ってなかった。


 ――言われたから言い返したら、泣いて飛び出すとかきたねぇだろう……。


 辛気臭い控室の中で空気を変えるように


「鈴木さん、ちょっと外に出て貰っていいかな」


 センターセパレートが口を開く。


「えっ?」


 玉藻は唐突なふりに少しびっくりしていたが、あまりに真剣な表情でセンターが語ったので空気を読んで俺をチラ見してから控室の外に出ていった。そうして、控室の中には四人になった。


「うっ……うっ……」


 猫耳っ子がオロオロしていた。


 首を振って居場所を探している。自分はどうしようみたいな空気がスゴイ。


 ――コイツはどうするのだろう?


 困っている奴隷ヒロインを無視してセンターが重苦しく口を開いた。


「ケガしてまでやることじゃないっていうのは、涼宮君のいう通りだけど……」


 そして俺の顔を見て真摯にやつはいう。だが、どこか納得しているとは違うものを感じる。何かを伝えようと不思議な目で俺を見ていた。恐怖象徴である俺を。


「僕はこのメンバーで勝ちたいと思ってる」


 ――ん? このメンバーって……。


 俺は何を言われているのか主旨がわからなくて少し混乱する。何を言いたいのかが明確ではない。ニュアンスでなんか伝えようとしてる含みのある言い方。日本人が好む回りくどい言い方である。


「僕もそうでふ……チームで勝てればなんか変わる気がするんでふ」


 豚がしどろもどろしながら、


「仲間になれるっていうか……なんというか。思い出ができるというか」


 続けてわかりづらいことを言った。


 ――仲間、チーム? 思い出?


 また明確に言ってこないのが、何を匂わせているのか、


 俺には判断がつかない。


 俺が眉をしかめていると猫耳娘は何かわかったらしく、


「ふん、ふん!!」


 俺に激しく頭を縦に振って見せた。


 ――この猫にもわかるのか……なんだ?

 

 俺の頭は変な空気と禅問答に混乱しだし気分が悪くなって来た。メンバーってなんだよ。チームとか仲間ってなんだよ。それに勝てば変わるってなんだよ……何も変わんねぇよ。


 学園対抗戦のやってることって結局個人戦だ。


 三対三とか言いつつも協力もしない。結局のところ一人一人が戦うだけだ。


 だから、俺は『おひとり様ひとつ』って、言ったんだ。


 こいつ等が俺に何を求めてるのか。考えても考えても答えは出ない。


 結局ハッキリ言わねぇってことはやましいことがあるのだろうか。


 ――優勝したいから残り全員倒せってことか?


 まぁ口に出さないからお互いに分かりもしない。


 こいつ等と何を話しても時間の無駄にしかならないと思う。俺とこいつ等は違う。こいつ等が普通で、俺は普通じゃないから、出る答えは平行線で交わることはないのだろう。


 さっきの金髪と一緒だ。何か言っても俺がまた悪者扱いされるだけだ。


「そっか」


 俺は席を立ちあがり控室をでることにする。


 俺が出した答えを告げて。


 それは――




「悪いけど、そういうのようわからん」




 諦め半分と残りあきれた半分の答え。


 話してもお互い理解できるわけもねぇなら話を遮って終わらすしかない。


 仲間でもないし、友達でもない。


「俺には」


 それが俺の出した答えだ。それにはさすがにセンターも豚も何も言えずに見送るしかなかった。辛気臭い空気を抜けるように扉を開けて外にでる。


 扉の影に気配を感じる。誰かがいる。


「強ちゃん……」


 玉藻が立って待っていた。相変らず扉を開けると待ってるやつだ。ただその姿に俺は少しだけほっとした。心配そうな雰囲気を出す玉藻へ、陽気に話しかける。


「玉藻、メシ食いに行こうぜ。昼メシ♪」


 心配を取り除くために。


「うん……」


 俺の笑顔を見て玉藻もどこか落ち着いた様子で笑顔を作り返してきた。


「美咲ちゃん達も一緒に誘っていこう♪」

「そうだな♪」


 玉藻と並んで通路を観客席に向けて進んだ。通路を二人でくっちゃべりながら歩く。さっきまで意味不明な会話をしていたから、何の気ない玉藻との会話が楽で心地よく感じられた。


 だからこそ。再認識する。


 どうせ俺を知れば離れてく奴らなんていらない――


 俺に新しい仲間なんていらない、欲しくもない。繋がりなんてものはむやみに増やすものでもない。恐がって俺に近づかないのがいい証拠だ。力が怖いんだったら気安く近づくじゃねぇよ。







「すごいぜ、カシューナッツ!!」「超イケメンー!!」「関西が三年ぶりの優勝かッ!」「これは今年は期待できるぜ!」「これは伝説になるぞ!!」「スター誕生の瞬間や!!」


 美咲ちゃんを迎えに観客席につくと歓声が大きく鳴り響ていた。


 ――なんだろう?


 どうやら、どこぞの勝利が決まったらしい。


 辺りを見渡して疑問に思う。


 ――俺の時となんか違くない?


 勝ってもなんか歯切れ悪い感じだし。こけたら笑いやがるし。何かやると、「マカダミアかぁ」て誹謗中傷ひぼうちゅうしょうかましてくる観客のくせに他のとことの対応が違いすぎる。


「どんだけ嫌われてんだよ……マカダミア」


 まじマカダミアの埃がヤバイ。


 俺の通ってる監獄学園の嫌われっぷりは群を抜いてやがる。


 その埃がしつこくて取れない油汚れみたいでどんだけ勝っても応援されない!!


「美咲ちゃん、アッチにいるはずだよ」

「おう」


 まぁ試合などもどうでもいいから今は美咲ちゃん。


 俺は玉藻の指示の元、美咲ちゃん達の方に向かって歩いていく。


「お~い、美咲ちゃん昼めし食いに行こう?」

「お兄ちゃん、アレ、あれ!」


 美咲ちゃんが慌てた様子で闘技場を指さしている。


 ――なにをそんなに慌てているんだろう?


 俺がそっちに目を向けると金髪ひとりぼっちが手を高くつきあげている。


 どうやら歓声はアイツに送られてるようだ。


「どうしたの? ああいうのが好みなの、美咲ちゃんは?」


 なにより俺が手越スタイルにしようとしたら、


「この前はお兄ちゃんがビジュルア系になろうとしたら」


 反発してたのに。美咲ちゃんがイエスと言って好みと分かった瞬間に、


「ビジュアル系は嫌いって言ってたのに……金髪はいいの?」


 場外乱闘でアイツを殺すつもりで俺は問いかけた。


「イヤ、違くて……あの人がスゴイの!! お兄ちゃん!!」


 違うのならいいか。まぁ美咲ちゃんがそんなミーハーなものに目を奪われるわけもないか。俺というイケメンを毎日見すぎて審美眼が磨かれて、他の男が大根に見えてるのかもしれない。


 俺以上にいい男なんていないから、ごめんよ美咲ちゃん。


 妹に一緒背負えぬ業を与えてしまった。


 なんて俺は罪深き男なんだ……。


「お兄ちゃん、変なこと考えてナルシスト入ってないで! あの人、すごく強いよ!」


 スゴイ、スゴイってなんかド派手なんだろうな。


「すごいって……なんかそういう能力なんでしょ」


 まぁ派手でも威力とかないのがアイツらのデフォだからどうでもいい。


「それよりご飯いこうよ。お兄ちゃん、おなかペコペコだよ」


 美咲ちゃんの慌てっぷりの理由はわからんが、それよりお腹すいた。


 赤髪もなんか動揺してるけどコイツはどうでもいい。


 その近くに見慣れた姿がある。


 ――櫻井がいる!?


「強、そうだな。メシだな。メシ」

 

 ピエロは美咲ちゃんたちとは対照的に落ち着いていた。俺に賛同して席を立ちあがる姿も軽やか。久々の親友との再会に俺は笑顔を浮かべる。


「ひさびさだな、櫻井!」

「おっつ、強ちゃん」


 俺達は腕を絡めて再開の喜びを爆発させる。さすが櫻井だ。


 俺のやりたいことがよくわかっとる。久々のピエロタイムに癒されよう。


 昼食をとる為に俺たちは一人が脚光を浴びてる会場を後にした。






 外の枯れかけた芝生にビニールシートを広げ美咲ちゃんの手料理弁当を食べ始める。俺はおいしさのあまりに言葉が漏れた。


「やっぱり妹のご飯が一番だ。間違いない!!」

「それよりお兄ちゃん大丈夫なの……あの人すごそうだよ!?」


 なんかさっきから心配をしている理由がよく分からん。


 みんな、よくわからん反応をするな。今日は。


 だから、雪が降っているのか?


「金髪ひとりボッチがそんなにヤバイの?」

「師匠、あの人一人で全部勝ちあがってるんですよ!! しかも、ほぼ一方的な試合展開で!!」

「アイツ金髪ひとりぼっちだからな」


 櫻井がケタケタ笑っていた。やはり俺のギャグが通じるのは櫻井だな!


 俺のテンションは少し上がった。


「強ちゃんはもう戦わなくていいのに、無能なのに……」

 

 ――だから、りょくが抜けてんぞ……まるで俺が駄作みたいじゃねぇか。


「アッヒャヒャヒャヒャ!」


  櫻井がさらに笑っていた。ちょっとイラっとするよこのピエロ。


 気持ちはわかるけどもッ!!


 俺は玉藻に本当のことを告げる。


 俺がなぜ学園対抗戦を戦っているかという目的を。


「俺が戦わないと櫻井の命が危ないんだ。それで仕方なくやらされてるだけだ」

「櫻井君を人質に!?」


 俺と櫻井は一心同体だ。


「そうだ。体の友を人質にされてるんだ」

「えっ――!?」


 櫻井がコクコク頷いてる横で、美咲ちゃんが今までに見たことない酷い表情で櫻井を見ていた。ゴミを見るような目。わかるよ、その表情。


 小っちゃい時から一緒にいるから。


 なんなんだ、コイツって思っているんだよね!


 汚物の気配を持つピエロだからね。


「師匠はこの人と体の友なんですか?」

「あぁ裸の付き合いだ」


 家の風呂が壊れてたので高1の時一緒に銭湯に行ったし。裸の付き合いでもある。


「裸の……っ」


 美咲ちゃんが涙目になり櫻井を見ている。


 小さい時から一緒にいるけどなぜに涙目なのかわからん。


 そして、小さな声で何か話始めた。


「女装だけが趣味ってわけじゃなかったんですね……そういう人がいるって聞いたことありましたけど……」


 ――どういうこと? 女装が趣味のそういう人って?


「禁断のサンカク関係……愛のトライアングルですね……ふむふむ」


 赤髪も何かわけのわからんことを呟いている。


 ――トライアングルがどうのこうのって。何を言ってるんだ?


 俺が赤髪と美咲ちゃんに気を取られているとすぐ横から手が伸びてきた。それは悪しき野獣の腕だった。そして勝手に料理を取り口に放り込むひげ面の泥棒参上。


「おぉ、やっぱり娘の手料理は一番だ! こりゃ、うまい!!」


 とんでもねぇのが現れて俺の気分は一気に下がった。


「何やってんだよ? ゴミ親父?」

「いいだろうが。娘の手料理食べたって、ゴミ息子があ」


 ゴミにゴミと言われる由縁ゆえんはない。


 俺が嫌悪の視線を向けている最中に玉藻がすかさず挨拶をかます。


「お久しぶりです。晴夫おじさん!」


 俺とにらみ合っていたゴミ野郎は玉藻を見ると頬を緩めた。


「玉藻ちゃん、べっぴんさんになったね~」


 コイツは女子相手への表情と俺への表情が違いすぎる。


「いや~、本当ウチのゴミ処理させてごめんね」


 俺の方をちらっと見やがった。


 ――コイツ、俺の事をゴミって言ってるん!


「めんどくさくなったら焼却炉にぶち込むか、夢の島に捨ててきていいから。俺が許可するから」


 ――このくそじじぃは……相変わらずイラつくぜ!!


「あん!?」

「なんだ、親に対してその目は?」


 ――眼帯したやつは悪人が多い!!


「黙れ、マイゴミ親父ゴミファーザー。死ぬか去るかして、そのキタねェ口を一刻も早く閉じやがれ」

「口答えとはいい度胸だな、マイゴミ息子ゴミサンが~!」


 俺と親父はがんを飛ばし合い火花を散らす。


 その横で玉藻が「お義父さんにそんな口を聞いちゃだめだよー」とか言っていたが俺はヤツから視線を一ミリも動かさなかった。コイツとは殺し合うしかない宿命に生まれている。



≪つづく≫

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