第27話 親友としてお前が嫌われるのが辛いってのもあるしよ

 選手控室では奴隷高校生どもが鎧や武器の手入れをして忙しそうに準備をしている。拭き拭きしたり頭にコンコンしたり素振りしたり、磨いたり、何やら忙しそうだ。


「…………」


 その中、俺は学校指定のジャージでポツンとしていた。


 手持ち無沙汰である。武器も何もジャージ一貫でここにいるのは俺と端っこに座っている金髪ボッチだけ。他のヤツらは何やら専用の衣装を来ている。


 というか……そんなことしたら。


「どこの学校の奴か分からねぇじゃねぇか……」


 ひとりぼっちの金髪ジャージもお澄まし顔でポツンとしている。


 何か似た匂いを感じる。アイツもボッチ臭が半端ないな。


 一人で髪をふぁさふぁさ何度もかき上げている。


 だが、前言撤回。


 俺にはピエロがいる!


「頑張ろうでふ! 涼宮!!」

「……おう」


 唐突な豚のいななきに俺は小さく返事を返した。というか、いきなり話しかけてくるのとかやめて欲しい。もう少し視界に入ってからとか気を使えよl


 それなのに、俺の嫌悪の視線にも気づかずに豚はニコニコしている。


「頑張ろう、涼宮!!」


 センターセパレートが追い打ちをかける様に気合の入ったやまびこを披露した。


「……うるせぇ」

「えっ?」


 何を驚いてやがる。っていうか、


 今日のこいつ等と来たらなんか俺を馬鹿にしてる雰囲気を感じる。


 気安く「うぇーい」みたいな感じで挨拶してくる。


 いつも話しかけもしやしねぇくせに。


 これはリア充による奴隷攻撃の一種か?


 何をここぞとばかりに……段々とイライラしてきた!


「うるせぇっつったんだよ!! ったく、二度言わなくてもわかるわ!!」


 俺が吠えると奴らは委縮していつも通り黙りだした。


「ごめん……でふ」「ごめん」


 これだよ、これ。いつもこんな感じで接する癖して何を調子こいてやがる。


「頑張れ、お前らが。俺は先鋒やるからあとはお前らで勝手にやっとけ!」


 お前らで好き勝手やっとけよ……ったく。


 二回意味不明で同じ事を言われるとイライラするのは、俺だけじゃないはずだ。


 だが、


「「そうするよ!」」


「なっ……」


 俺に怒られながらも豚とセンターセパレートがまだ目を輝かせていた。俺は不快感から耳の中を軽く掻きむしる。もう相手をするのもメンドクサェ。


 なんなんだよ、コレ……。


 しかし、要件はしっかり伝えた。


 俺はしっかりものだから先鋒用の戦法をちゃんと用意してある。


 これで間違いなく俺の平穏が確保される。


 あとはお前らが勝手に頑張れ。


「それではマカダミアの皆さんこちらで待機をお願いいたします!」


 誘導員に連れて来られて整列して待つ。


 俺達は第一回戦ということで闘技場に移動し入場口にスタンバイした次第だ。入場口ではスタッフらしきものがインカムで指示を待っている。仰々しい感じで準備が進んでいく。


 俺はその間に気だるげに首を回して調子を整える。


「あっ、うん、うん!」


 あとは喉元を触って声の調子を整えるだけ。


「第一回戦マカダミアキャッツ学園とヘーゼルナッチュマウス学園!」


 場内アナウンスが流れ、


「これより選手入場です!」


 ネコ対ネズミの戦いが告げられた。


「それでは選手は中に入ってください!」


 見計らったようにスタッフが手で合図を送る。


 係員の指示のもと、


 デカイ赤く装飾された扉の中には――


 目の前には直径五十メートルの白いリング。そして、野球ナイターで使うような照明が天上に取り付けられ闘技場全体が照らされている。リングの端には青い横長のベンチがありそこに試合以外の選手は座ってられる形になっている。


 騒がしい会場の中を俺達三人は突っ切っていく――


「マカダミア、今年はしっかりやれよ!!」


 観客たちは席を立ちあがり入場に声援を送っていたと、


 思いきやよく聞くと、


「期待はしてねぇけどなッ!」「せめて一勝ぐらいしてみせろよッ!」「去年みたいな感じなら来年以降出てこなくていいぞ!!」「吉本キャッツに改名したほうがいいじゃねぇのかぁ!?」


「ん?」


 罵詈雑言だった。


 そういえば去年全敗だったけか。それにしてもヒドイ罵倒具合。


 概ね賛同するが、来年以降と言わず今年から追放して頂きたいものだ。


 本当に日本人というのは対応が遅い。


 やると言ってからが遅い。俺も日本人なので気持ちはわからなくもないが、責任とか取りたくないからちょっと周りの動き伺いながらもデカい声で騒ぐ感じですね、はい。おまけに匿名とあらば声高らかに言いたい放題。


 これがお国がらと言ってもいいかもしれない。


 むしろ、もうお家芸の領域なの?


 その事実がいま目の前で叩きつけられようとしていた。


「涼宮、先鋒頼む!」

「涼宮頑張るでふよ!!」

「……」


 日本人って実はすごく無責任なの。俺だけに何かを押し付けようとしてる感を感じる。このつぶらな瞳がキラキラと光り輝いてる感じは、コイツらときたら……何を俺に期待してんだ?


 ボコボコにやられて欲しいってことだろうか?


「それでは先鋒の選手前に出てください」

「頑張ってくるでふよ、涼宮!」

「涼宮君、ファイト!」

「…………」

 

 ――やけに今日はウルセェな……。


 無責任連中を訝しんでいる暇もなくアナウンスが流れる。


 どうも調子が狂うが……期待に俺は応えられない。


 俺は無傷でここを切り抜ける予定だからな。


 俺はリングの端から上がり白い闘技場の中央を目指し歩き始める。


「両選手、リング中央に向かって相対する時がきた!」


 前方からポニーテールのチャイナ服を着た男がニヤニヤして三日月形の青龍刀を持って歩いてくる。中国代表でも地方でなくて、他国籍もしくは二重国籍の方なのかしら?


「残念だったな。ここでお前は俺に負けるぜ」


 そいつは中央につくと意気揚々と喋りかけてきた。「はぁ~」とため息をついた。毎度の殺し文句。誰か犯罪者予備軍を逮捕した方がいいぞー。


 青龍刀を持ちニヤニヤした殺人鬼。


 どうみても犯罪者確定だろ、コイツ……。


「試合前から無言でそんなにビビってどうしたんだ?」


 勝気な表情で挑発してくるのに嫌気がさす。


「緊張してトイレに行き忘れでもしたのかい?」


 俺がビビってるわけねェだろ。またため息をつかされた。なんて恐ろしいイベント、学園対抗戦。試合開始前からもうすでに寿命を削る攻撃が炸裂しとる。


 俺は呆れながらも答えを返す。


「大丈夫だ。安心しろ」

「面白レェ、ならば見せてもらおうかッ!」


 相手が腰を落として構えをとる。珍妙な構え。肩に刀を乗せたままで屈伸しただけ。戦おうっていうことは良くわかった。コイツらなんでこんな楽しそうに暴力振るうのか分からん。おまけにその凶器は人殺しの道具ですよー。


 どうせ、言っても分からんのだろうけど……。


 お前が望む通り勝負はほんの少しの時間で終わらしてやるよ。


 俺はお前ほど暇じゃないから戦闘を楽しむ気もねぇ。


「両選手、いきなり一触即発の雰囲気です! 試合が始まる前から両者火花を飛ばしている雰囲気がこっちまでピリピリと伝わってきます! お互い準備万端といった感じだぁああ!」


 いや……俺構えてすらないないし、


 やる気ないし……間違えてるし。


 俺の疑問を無視して――


「それではマカダミアキャッツ学園とヘーゼルナッチュマウス学園の試合を開始しまぁああます!!」


 アナウンスがすかさず流れる。




「始めェエエエエエエ!!」




 今だ!! 先制のアタックチャンス!!


 俺の反応速度を舐めてはいけない。誰よりも早く言葉に反応し、俺はすかさず両腕を上にあげて手のひらを広げ腕を大きくバッテンを作るようにクロスさせる。


 特大ミッフィーちゃんの構え!


「キ、貴様、な、なにを!?」

「一瞬で……」


 驚いてる相手は俺の声に何かを感じ取りびくついた。


「おっと、涼宮選手突然奇妙な構えをとった!?」


 突如として魔せん光ポーズを取った俺に相手選手も虚をかれたじろいでやがる。そうだそうだ、ビビれビビれ。


「終わらせてやるよ――」


 ここからが本番だ。攻撃されてると俺もうまく出来ない可能性もあるからな。


 すぐに終わらしてやるから、ちょっとだけじっとしてろよ。


「佐藤選手は警戒して動きをみている。これはいきなりの大技か!?」


 そうだ、これは封印されし大技だ……おそらく使えるのは俺だけだろう。


「果たして、涼宮選手の能力は一体何なのでしょうかッ!?」

 

 この技はわかりやすく、


 そして明確に行う必要がある――


 会場は固唾をのんで静まり返る。


 俺は大きく息を吸い込む。相手は何かを警戒して動かずにいる。


 今がチャンスッ!! 大技だけに技名を叫ばねばッ!!


「ゲェイブゥウウウウウウゥウウウウウウウウ!」

「――ッッ!」


 俺の力を込めた雄たけびに応じて相手の顔が強張る。


 肩に乗せていた刀を瞬時に降ろして自分の前で身構えているが、無駄だ!


 この技は一度発動したら止められないか! ガード不能!


 一撃必殺の禁じ手を喰らうがいいッ!




「アップゥウウウウウウウウウウウウウウ!」





「クゥッ――っ!」


 俺はめいいっぱい声を張り上げた。相手の体が声量に圧されて震えている。


 会場全体に響き渡るほどの声。相手が眉間にしわを寄せた状態で固まっている。


 だが、


「へっ……え?」


 その緊張も一瞬でとかれた。


 何が起きたかもわからないといった様子で口を開けている相手。時間が制止した様に止まった。観客の息づかいさえ聞こえない。


 俺の大技が炸裂して何が起きたかも分からないといった感じだ。





 まるで無音の世界——会場の騒がしさが嘘のように引いている。





 まるで静止画の世界——誰もが動きを止めている。




 ポップコーン食ってるやつですら口を開けたままポップコーンを握って口の前で止めている。



 止まりすぎじゃねぇかな……?


 さすがの静けさに俺もポーズを保ったまま、疑心暗鬼になる。


 俺の声はちゃんと届いたのだろうか……


 いや、さすがにあれだけの大声だったのだから聞こえないわけがない。


 発音がネイティブ過ぎたのだろうか?


 しーんと静まり返る場内。ひたすら沈黙は続く。


 ……あれ???


「…………」


 ……失敗か?


 さすがに俺も技が失敗したのかとちょっと心配になってきった。


 完璧にやったつもりが不発なのだろうか。特大ミッフィーちゃんまで作ってわかりやすくしたのにおかしい……ちゃんとルールに則ったはずだ。明確な意思表示と大きい声で告げろと。


 ルールブックに書いてあったはずだぞ。


 それがだと。


 アレは嘘だったのかッ!?


 戸惑う、俺を含めた全員。


「涼宮……選手……」


 一分ぐらいの時間を置いて静かな会場に拙い、


 アナウンスがようやっと流れた。


「ギブアップ……?」


 ――伝わったぜぇい!!




◆ ◆ ◆ ◆



 一人の男の愚行により会場は静まり返っていた。


 会場にいるものは誰もが度肝を抜かれた。


 ヤツを良く知る人物たちでさえも呆気に取られているのだから、


 無理もないことだった。


 正に初見殺し。


 その男は闘いを拒否し試合開始と同時にギブアップを宣言したのだ。しかもそれが学園対抗戦の始まりを告げる第一回戦である。ダメージによるものではない。


 万全の状態で繰り出された力強い闘争のない逃走の一撃。


 会場は一時の沈黙に侵され続けていた。


 アナウンサーとて自分で終わりを告げたはいいが何が起きてるのか係員と確認をしている。その中で一人だけが動き出す。全員の視線がその男に集中している。


「ふぃー、終わった、終わった」


 その男が闘技場の外に退場すると同時に――


「なにやってんだぁあああ!!」「どういうことだぁああああ!!」「またマカダミアがやりやがったぁああああ!! 今年も!!」「会場に物を投げないでくださぁい!」「二度と面見せんじゃねぇええ、マカダミア!」「まだ次の試合がありますので観客の皆さまやめて下さい!!」



 大地を揺るがす様に観客が騒ぎだした。学園対抗戦の観覧席は一座席三万近くするプレミアムチケット。おまけに開始数分で即刻完売をするほどの品薄商品であり激選による抽選。


 それも、そのはず――


 一日だけの甲子園と比喩されるぐらいだ。たった一日のみで終わってしまうが故に誰もがそれを追い求めるのだ。二度と見られないであろう若き英雄の輝きを見ようと来たのに異物が紛れ込んでいるのだから、騒がずにはいられないのだ。


「会場にものを投げ込まないでくださぁあああいいいい!」


 アナウンサーがひどく慌てて市民の暴動に注意喚起をする。まだ試合が終わったわけではない次の試合に映るためにも闘技場へのポイ捨てを止めなくてはと本能だけで声を上げている。


 ざわつく会場に愚行が認識されていく。


 感染するように見ている者達に影響を与えていく。


 止まることのない罵声とアナウンサーの叫び。


 一日だけの甲子園で暴動が起きてしっちゃかめっちゃかになっている。


 妹は頭を抱える。


「やるときは……やってしまうのが兄です」


 その妹の友人は叫ぶ。


「師匠ぉおおおおおおおおおお!!」


 その隣の幼馴染は力強く拳を振り下げガッツポーズをする。


「強ちゃん!! ナイスゥウウウウウウ!!」


 そして、担任の教師は闘技場へ走っていく。


「あのゴミ生徒がぁあああああああああ!!」


 さらに両親は冷たい視線を送る。


「少し見ない間にあいつのゴミっぷりは益々磨きがかかってんな。いや、磨いてねぇか。腐ってると言った方が的確だな」

「帰ったら調教し直さなきゃね~」

「美麗ちゃん……お手柔らかにだよ……いくらゴミとはいえ」

「加減を忘れちまうからね。あたしゃ~!」


 母の目と声は怒りに満ち隣に座っていた父親は怯えた。


 そして未来に起こる出来事を予言する。


「アイツ死んだな……」


 涼宮美麗の怒りを買うほどのそれほどの愚行っぷりだった。


 当の本人は罵声や嫌味には慣れていると言わんばかりに無視して、


 クラスメイトの元に平然と戻り、


「じゃあ、あとよろしく。お疲れちゃん~」


 軽口を叩く。強に肩を叩かれたクラスメイトは呆然と見送る。


 その視線を意に介さず男は自分の出番は終わったとばかりに、


「さぁ、終わったから寝るか」


 入場口脇にあるベンチに寝っ転がった。


「そこをどけッ!!」


 担任教師は闘技場の中へ入ろうとしたが係員に止められていた。


「試合中は選手以外の入場は禁止です!」

「アイツを今すぐ指導させろ!! 俺に!!」


 隻眼の荒れ狂う男は、係員に怒りをぶつけていた。


「試合終了後にお話しください!!」


 一人の男の愚行が多くの者に影響を与えた。


 そして、その男は何事もなかったように眠りにつく。


 会場は見事にバグによって浸食されていった。



◆ ◆ ◆ ◆



 俺が眠りから目覚めると試合がつい先ほど終わったようだった。


 俺の近くで豚とセンターは激しくぜぇーぜぇーと息を切らしている。


「ほれ」


 お疲れの様子だったので俺は近くにあったドリンクを手渡す。


「お疲れさまんさ」


 センターが息遣いを乱しながら、


「涼宮……」


 小さく俺の名前を読んだ。正しくは苗字。ドリンクを渡し終えて俺の役目は終わりだ。息切れしているキモイやつらを無視して外を目指す。


 試合は終わったのだから。


「涼宮、オマエは何をしている!?」

 

 二人と一緒に俺が会場の外に出るとオロチが待ち構えていた。


 ひどく怒っている様子だ。


 だが、


「この前加減しろって言ってたから思いっきり加減をした」


 俺は挑発するように言葉を贈る。


い加減だったろう?」


 そもそもコイツが俺を出さなきゃこんなことにならなかったんだ。


 すべてはコイツの自業自得でしかない。


 俺に全部おっかぶせた結果がこれだよ、これ。


「貴様ッ!?」


 オロチにグイっと胸倉むなぐらを掴まれ引き寄せられる。俺のジョークセンスは一級。だが一級過ぎて周りの奴らに伝わらなかったせいか笑いが全く起きていない。


 俺はオロチに怒りの視線をぶつけられながらも呆れた視線で返す。


「山田先生落ち着いてくださいでふッ!」

「先生!?」


 そして、周りの二人はオロオロしている。


 豚が止めに入ろうとしたが無力。オロチが俺の胸倉から手を離す気配はない。大分強く握られている。ジャージのチャックが壊れそうな音を出しているのが何よりの証拠だ。


「涼宮……お前ッ……なぁ」


 なにを怒っているのか。


 というか、加減しろっていうから最大限の加減をした。


 誰も傷つかない方法を選択した。


 これで間違いなわけがないだろう、間違いなわけが。


 怒りを込めて睨みつけてくるオロチの威圧に負けずに冷めた目で見つめ返す。


「山田先生……」


 心配そうに見ている塩顔の視線にオロチが気づき、俺の態度が変わらないことに諦め渋々掴んでいた胸倉を離して解放した。


「たまたま田中と小泉が頑張ってくれて今回は勝ったが……」


 多少伸びたけどなんとかジャージは無事だったようだ。


「オマエがそういう態度なら、オーダーを俺が決める――」


 オーダー決めたぐらいで何が起きる?


「お前は大将だ!!」

「大将?」


 順番が変わったからなんだっていうんだ。


「お前に全てがかかるようにしてやる。負けたらお前のせい。全部お前の責任だ」

「責任……って」


 高校生に使う言葉かよ。まじかよ。俺のせいにされちゃうの……?


 勘弁してくれよ~。


 そっちが勝手に俺を選んどいて責任まで押し付けるとか頭オカシイだろうよ。


「強ちゃん、」


 俺がオロチの発言に眉をひそめていると、


「ありゃ、ダメだよ」


 軽い口調で俺を叱責するピエロの声が舞い込んでくる。櫻井がふざけた雰囲気を身にまとい手を振りコッチに近づいている。ニヤニヤしながら俺のほうに歩いてくる。


 今ある緊迫した雰囲気を物ともせずに飄々としてヘラヘラしている。


「ヘイト溜めすぎだぜ。アレじゃあ悪者になっちゃうよ」


 その姿、正にピエロ。それに俺もさっきまでの緊張を解いた。


「なんで俺が悪者なんだよ?」


 イヤそうな顔をして当然の質問を投げかけた。


 だって何もしてないのに、なぜ悪者扱いされるのだろう。


 理不尽極まりない話だ。


 私、不愉快です!


「一応は学園の名誉と埃かぶった誇りがかかってんだから、少しはやってあげないとかわいそうだぜ。それに元からマカダミアはただでさえ評判わりぃんだから」

「櫻井そうは言っても……めんどくせぇよ」


 櫻井は肩に手を回してきて、


「学園とか誇りとか俺には関係ねぇし」

「まぁ、聞け」


 俺の耳元で小さい声で語り掛けてくる。


「……さっきのでお母様も相当お怒りだったぞ、強ちゃん」


 マムがッ!?


「この調子でやり続けて帰ったらマズイことになるぞ!」

「な、なんだと!!」


 愛の説教部屋第二夜が開かれるだと?


 それはまずい。マズすぎる!!


 動揺する俺から手を離したピエロはオロチの方に振り向き、


「強ちゃんもこれから真面目にやるみたいなんで、」


 話がまとまったと言わんばかりに態度を表す。


「この件はこれで終了でいいすっか?」


 ヘラヘラした態度を続けるピエロを前に


「……次、もしも変なことをしでかしたら許さんぞ、涼宮とお前は」


 オロチは舌打ちをして目を細めた。


「連帯責任すっか?」


 睨むオロチに対してピエロはケタケタ笑いながら陽気に返す。


「そうだ」

「望むところっすよ。なんたって俺と強ちゃんは体の友ですから」


 櫻井は自信満々にオロチに返す。


「一心同体でぇす!!」

「ふざけやがって……覚悟しとけ」


 ピエロの答えに呆れてオロチはどこかへ消えて行った。


 緊迫した空気を作っていた張本人がいなくなり終わりの空気が流れる。まぁ話はついた。俺はオロチの背中に向けてイィッと歯をむき出しにする。勝手に人を奴隷扱いして使ってる癖に指示迄してきやがる相手に愛想など必要ない。


「じゃあ強ちゃん、親友である俺の為によろしく!!」


 櫻井は俺の方を見て二カッと笑う。


 俺は櫻井の為に


「わぁったよ……責任とかめんどくせぇし」


 ちょっとだけ頑張ることにした。



◆ ◆ ◆ ◆


 

 先に消えたオロチの後を追うように選手三人は控室へと戻っていって姿を消した。俺は一人壁にもたれ掛かり事がうまく進んだことに口角を緩める。


 ――そうか、そうか。母親が怖かったのか。これは良い情報だ。


 触れたらわかる。それが俺の能力。


 そして――


「これで仕事も出来る……」


 強に言った言葉は嘘じゃない。『親友である俺の為によろしく』と。


 俺は仕事の関係上、強の戦闘データを取るために試合を促す必要があった。


 戦闘能力がトリプルSとは言っても実力はまだ未知数。この前の夏休みもオロチとの戦いも一方的過ぎてあまり参考データにならなかった。


「だから、お前にはやって貰わなくちゃ困るんだ」


 俺の為にちゃんと戦ってくれよ、強。


 それに――


 仕事の為だけじゃない





「親友としてお前が嫌われるのが辛いってのもあるしよ」





 俺はお前が好きだから頼むぜ、強。



≪つづく≫

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