10.-学園対抗戦ーデットエンドと幻想殺し。瞬きを許さないそれが襲う。そして、ピエロは場外ピエロタイム。

第28話 頭はいいと思うよ。学業成績は学年一位だし

「田中さん、大丈夫ですか」「大丈夫デフ。ぢゅふふふ」「いますぐ回復致します」「さっきの戦闘カッコよかったよ、田中さん!」「ありがとうでゅふふ」「小泉シャン、回復しますね!」「頼むよ、二キル」


 俺達は騒がしく人口密度が高い選手控室で過ごしていた。豚の取り巻きは相変わらずの暴力的なまでのおっぱいを魅せつける。センターヒロインは猫耳姿。正確に言うと頭に猫耳を装着しているのではなく付いてる。


 どこかあどけない感じの猫娘。


 人間ではない――獣人と言われる種類のたぐい


 高校生なのと思えるぐらい幼くちょっと心配になる。


 それでも猫とか人間年齢で言うといきなり六歳とか年を取ったりするから、


 そういう理論もあるのかもしれない。


 それにしても異世界でペット感覚で奴隷買うやつって多いよ。


 普通に現代の街中で奴隷売られてたら警察呼ぶであろうに、現実じゃない異世界では奴隷を平気で買ってくるとか道徳的精神を疑うよ。


 従順な弱そうな生物を飼うのがスキな人間だけども、


 もうそれ人型で人語喋ってるじゃん。


 そういうことを平気でするのは良くないと思うよ。


 その感覚は異世界で売ってて買ってくるの?


 普通に考えてヤバイよ、それ。


 非人道的行為だろ。奴隷は国際法で禁止されてるだろうに。


「ちょっと、涼宮!!」

「ん?」


 奴隷問題を真剣に考えているとなぜか豚の取り巻きの金髪が俺に絡んできた。


 それは怒りに満ちた声。見当違いの怒りに満ちたもの。


「あなたがふざけるから……田中さんがこんなに怪我をしたんですよ!!」

「あん?」


 豚を指さすソイツ。確かにところどころ腫れているのか太っているのか分からん体系だ。それよりもだ。俺がいつソイツを怪我させた?


 それは今日じゃねえだろう、ふざけやがって。


「誰のせいだって?」


 俺に怒りの目を向けているのに、睨み返す。


「アンタのせいだって、言ってんのよ!!」

「ミカたんもういいんでふよ。終わったことでふ」


 なぜか豚が嘘までついて俺と取り巻きを仲裁した。


「それに涼宮はおなかの調子が悪かったんデフ。だから、涼宮は悪くいなんでふ」

「けど、田中さん……」


 俺は腹痛なんてない。健康そのものだ。


 豚一味のコントに俺を巻き込まないでくれ。


「強ちゃん大丈夫ぅうー、すぐ回復するから!!」


 そこに空気を読めない女が入室してくる。


 せわしなく扉が激しくバタンと音を立てた。


「あー、こんなに怪我しちゃって!?」

「いや、怪我してないし」


 いつもの勘違いがより悪化している。


 何をみたら俺が怪我した様に見えたのだろう。


 俺の試合は速攻終わったのに。


 まぁ、こいつに俺の一撃が見えるわけがないのだが。


 あれはギブアップだから見えてておかしくないのだが?


「キュア!」


 白い光が俺に当たられ、


 俺の肩こりが回復していく。これはこれで気持ちがいい。


「これで腹痛も治りましたよね!!」


 豚の取り巻きがつぶやいた。


 いや、だから、腹痛とかねぇしッ!って突っ込む気すらも起きない。


 俺にとってこいつ等は敵みたいなもんだから。


 腹痛じゃなくて、頭痛がしてくる……。


「あん?」


 眉間にしわを寄せて威嚇するように視線をぶつける。


 それを受けてか四人の取り巻きの嫌悪の視線が俺に注いでいる。


「みんな、落ち着くでふよ!」


 豚が少しオロオロしている。センター達は呆れた表情で俺を見ていた。


「強ちゃんが戦う必要なんてないんだよ!」


 その中、唯一の味方が発動する。


 その味方の巨乳は視線を遮るように俺の前に立った。俺の理解者。


 その通りだ。俺が戦う必要性がどこにある? 


「そもそも強ちゃんは暴力嫌いなんだから!!」


 暴力なんて……嫌いだ、本当に嫌いだ。


 好きな方がオカシイ。


 子供の『痛い』って声が記憶から蘇って頭で響く。誰かを怪我させて楽しいわけがあるはずがない。楽しいわけがねぇ。戦闘が楽しいなんていう感覚がわかんねぇ。


「そうでふ。涼宮は……あまり闘いが好きじゃないんでふ」


 何をわかったようなことを……合ってはいるけど。


「それに時が来たらちゃんと戦うやつでふ」


 やる時はやっちまうから。やられたら完膚なきまでにやり返す。


 心をバキバキにへし折ってやるよ。


 その時だけは怪我をさせていい。相手が先にやったのだから。


 やられたらやり返す――フルボッコだ。


 そうして、休憩室の戦争は休戦協定が発動し、


 誰も何も話さなくなり、無言の空間が出来上がった。




◆ ◆ ◆ ◆




 俺が観客席にいくと気まずそうに小ぢんまりと美咲ちゃんが座っていた。状況の察しはすぐについた。三年共が口々にデットエンドの悪口をさえずっていたからだ。赤髪は拳を作って少し怒りを抑え込んでいるように見える。


 あっちで強とオロチを宥めてきたばかりだというのに……。


 俺は忙しい。


 ――しょうがねぇ。ピエロタイムだ。


「お前ら学校の応援しにきたんじぇねぇの? どうした?」


 俺は観客席の愚痴をいうやつらに向けて声を大きめにして演説を始める。皮肉一杯のフルコースだ。それに本当に何しに来たと思ってしまってるから、表情に熱が籠っちまう。


「それともデットエンドの悪口を言いに」


 悪口いうために朝早く学校に集合してバスに乗ってくるとか、


「わざわざ時間かけてココまできたのか?」


 こいつ等、基地外じゃねぇの?

 

「暇だな、ずいぶん。暇すぎて脳みそとろけちまってんのか?」


 MRIでも受けてきたらどうか問いたい。


「それとも社会人体験してきて社畜精神で日々の鬱憤が溜まりすぎてんのー?」


 三年はインターン期間に当たる為に現場に出ているから学校に殆どいない。


 だが、そんなことはどうでもいい。


 俺は超絶バカにするように表情を歪めて挑発を繰り返す。


「デットエンドがボロボロに負けるところをそんなに見たいってーの?」


 俺に視線が集まってきた。怒りの視線が。


 それでも俺は得意げに演説を続ける、皮肉をいっぱいに込めて。


「はっ! お前らが勝てねぇ相手が誰かに負けてそんなに楽しいのか?」


 自分の力では何もしないで楽しめるなんて愚の骨頂もいい所だ。


「そんなんで喜べるなんて随分お粗末な脳みそだな!」


 本当に脳に障害がある方たちなのかしら?


「ダッセェし、かっこわりぃし、ビックリするぐらい頭もわりぃ!!」


 こいつ等が愚痴をいう理由は分かっている。それは去年のあの事件がきっかけだ。こいつ等が強に勝てないとイヤというほどに悟ってしまった惨劇のクリスマスが原因。


 しかし、あれは強が何かをしたわけじゃない。


「あの時は三年のお前らが一年のアイツに喧嘩を吹っかけて、返り討ちにあっただけだろう? 下手な正義感振りかざしてよッ!!」


 奴らを煽りに煽った結果——それは火を見るよりも明らかだった。





「「「さっきから言いたい放題いって、ふざけんぇんなぁああああ!!」」」





 爆発し、三年の大合唱が始まった。


「テメェ、いったい何様だッ!」「デットエンドといつも一緒にいるからって調子乗ってんじゃねぇぞッ!」「オマエみたいなやつを虎の威を借りる狐っていうんだよ!」「金魚のフンがッ!」


 なんとでも言え。狐でも糞でもねぇ、


 俺はピエロだ。


 俺の演説により強への罵倒から俺への罵倒へ鞍替えされた。


 こいつら騒げればなんでもいいのかもしれない。


 それにしても罵声も大量に浴びると気持ちがいいもんだ。


 まるで歓声のようにすら聞こえる。


 ただ、ウルセェだけだ――


「俺が間違ってるって思うなら後でデットエンドに再戦を申し込むこったな。最弱の先輩方」


 最弱の先輩方とは、去年マカダミアの地位を最下位にまで堕としためた元凶どものクセしてよく吠えるとバカにしている言葉。


「もしデットエンドに恐くて言えないっていうなら俺に言って貰って構わないぜ。しっかり強に伝えてやるからよッ!」


 出来るものならやってみやがれと挑発。


「但し、その時は――」


 こいつ等がそんなことをすればどうなるかは分かっている。


 だから中指を立てて一昨日きやがれファック。


「返り討ち覚悟の上だけどなッ!」



「このッ――!?」


 今にも飛び掛かってきそうな表情で言葉を失う。その先をこいつらに言えるわけがない。コイツらは内心わかってるはずだ。無意味なことをやっているって自覚しながらも、憎しみに身を委ねているのだから。


「では、気長にお待ちしております」


 それを見破りながらも俺は丁寧に執事のような敬礼で相手を激憤させるだけだ。


「あぁ、ウルセェ、ウルセェ」


 俺はピエロタイムを終え、美咲ちゃんの横に座った。


「櫻井先輩は……どうして火に油をそそぐんですか?」


 疑問形の顔で俺に話しかけてきたから、答えを返す。


「それはムカつくから。うんだけ」


 それ以上に理由などない。


「なんたって強と類友だからね。俺を馬鹿にしやがったんだ、あいつらは」


 まぁ、途中からは俺への憎悪だったわけだし。


「怒る権利は俺にもある」


 腹が立ったのは言うまでもない。未だにムカムカしている。


 アイツらの矮小な考えもそうだが、


 俺の親友を悪くいう奴らを許せるはずがない。


 別に理解されたい訳でもないが、ただ腹立たしいだけだ。


「ホント……バカなんですね」

「頭はいいと思うよ。学業成績は学年一位だしー♪」


 俺は怒りを隠す様にお茶らけて呆れている美咲ちゃんに返した。


「……その発言の仕方が兄そっくりです」

「お兄ちゃんの同類だからね」

「兄と同類であるなら、」


 彼女は頭がよかった。それは完璧な方程式だった。




「やっぱり、バカじゃないですか」




 強はバカであるから、同類である俺も、


「こりゃ……」


 バカか。


「一本取られた」



 俺が苦笑いを返したら、彼女もクスクスと笑っていた。



◆ ◆ ◆ ◆



 俺達は30分程度休んだら次の試合に呼び出された。


 サイクルが早すぎる。


「涼宮君……できるだけ頑張るから!」


 指示に従い闘技場につくと、センターが無意味な決意の色を見せる。


「別に好きにやれよ。所詮しょせん学校行事だぞ。こんなもん」


 なんでコイツらがこんなにやる気があるのか俺には謎だ。


 学園対抗戦とかどうでもいいだろう。


 ブラック企業への優先権が与えられるという、


 最悪なチケットを受け取りたいのだろうか? 


 ブラックユーモラスとかいう空前絶後ブラック企業に行きたいの?


 アメリカ横断ウルトラスーパークイズ並みに頭弱い感じ?


『みんな、ニューヨークへ行きたいかッ!』


 このフレーズだけでも俺は笑える。何でクイズ大会なのにニューヨークへ行くのだろうと。クイズしてぇのか、ニューヨークへ行きたいのかはっきりしろよ!と。


「俺は知ってるでふよ。夏休みに見せた涼宮の実力を」


 こくこくと頷く豚やろう。


「ちゃんと前で見ていたから。憧れるくらい強かったでふよ」


 目を輝かせて俺に何を言ってるんだ?


 ウルトラスーパークイズなの?


「そりゃ……どうも」


 俺は呆れながらクイズの答えが分からず社交辞令で返す。


 お前じゃ俺にはなれない。だって体型がそもそも違う。


 ダウンジャケット来てもお前の体型ボディには追いつけない。


 手足も短いし。


 ソレに俺はそんな力を望んだことはない。


 俺はただ普通になりたい。


 俺が憧れるのは普通の人生だ。


 ただ普通の――ごくありふれた人生。


「俺の番になったら起こしてくれ」


 感傷に浸り入場口につくと同時に俺はベンチに横になる。


「まかせるでふ!」

「デットエンドを起こさないようにするよ」


 欠伸をしながら言った俺の言葉に奴らは勢いよく返してきた。


 俺のポジションは大将で固定。なら、奴ら二人が三人倒せば俺の出番は来ない。


「まぁ、適当に頑張ってくれなまし」

 

 俺は期待を込めて眠りにつく。



◆ ◆ ◆ ◆



 観客席に座っていた俺の隣に戻ってきた鈴木さんが座った。


 闘技場では次のうちとピスタチオットセイ学園の対戦が始まろうとしている。


 オットセイはマカダミアとは逆に、


 昨年全勝で完全優勝を成し遂げた。


 一人の逸材によって――


 厄介な能力持ちがいる学校だ。


 それと他にも気になる――学校はもうひとつ。


 果たしては強に通じるのか。興味がある部分もある。


「強ちゃんが試合に出ませんように。なんまんだぶ、なんまんだぶ」


 鈴木さんが唱えてるお経って……死人とかに唱える奴じゃなかったっけ。


 まぁ、強相手じゃ瞬殺で終わりの奴が多いからな。対戦相手の為に唱えてるのかもしれん。この学園対抗戦もよほど相性がいいやつでないと善戦は厳しいだろう。


「それでは、マカダミアキャッツ学園とピスタチオットセイ学園の試合を開始しまぁああます!!」


 アナウンスが流れ、第一試合が始まる。


「始めェエエエエエエエエエエエ!!」


 初戦は小泉が出てきた。


 戦闘能力はAランク。氷使いの小泉。


 能力的にはありきたりだが、コイツの場合はその威力にある。


 同系統の能力であれば、攻撃力・応用力が高い方が勝つのが基本だ。


 よほどトリッキーなことをしない限り。


 突出した者をのぞけば、戦闘能力Aランクがほぼこの大会の基準と言っていい。


 初戦を見事に小泉が勝ち、


 次戦に進んだがそこではやはり疲れが見え、敗戦する。


 二番手は田中。


 こいつは二年の中でいえば相当いいほうだろう。


 それはコイツの能力が単純戦闘特化であることに尽きる。


 これは個人戦において有利に働く。


 集団戦闘とは違い、


 学園対抗戦・個人戦はだ。


 スピード、攻撃力、防御力。


 そして、単純な武器ほど威力が高い――


 鎧と槍。


 能力と違い単純に攻撃が出来るといったことは持久戦に於いて大きな意味を持つ。それに田中には隠し技がひとつだけある。


 奥の手と言っていいのだろう。


 回数制限を要するあの技が――。


 そして、田中は戦闘になると性格が変わる。喋り方もかわる。「でふ」と言わなくなり、エライ男前なセリフを吐き続けるところがある。


 俺は試合を見守っていた。


 他校のデータも昨日あらかた整理してみたたが……データがないやつもいる。


 一人だけ――


 それが気になるもう一校の存在である。


 そうして、二戦目は田中が勝ち。


 退屈な試合内容を見終わり目に力を入れる。


「いよいよお出ましか……」


 三戦目に興味のある男がでてきた。


 幻想殺しファンタジーキラー


 こいつと強の戦いに俺は興味がある。


 入場で一番の歓声浴びていた次世代のスター。


 特筆すべき能力の代表格と言ってもいい男。


 アレを相手にしてしまえば全てが剥がされる。

 

 あの能力を前に、人間と人間の戦いへとそれは変貌を遂げてしまうのだから。



≪つづく≫

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