9.デットエンドを怒らせたら、行き先はひとつしかねぇ!!
第25話 幼馴染の勇気がつらたんです
俺はあの日以来、気だるさを加速させていた。
花火大会が終わった時に櫻井へメールをしたが連絡がつかず三人で電車に乗った。電車内でいつものエセ姉妹BGMを聞きながら、俺は無言を貫き通した。
玉藻はいつもと変わらない様子で笑っていた。
俺は変わってしまった関係を認めたことでどっか疲れてしまったのだろう。家に帰ってからは美咲ちゃんと話す元気もなく全てを寝て忘れようとして逃げるように、すぐさま布団にもぐりこんだ。
そうして、俺は堕落した生活に戻った。
――いつも通りの何もしない生活に。
「ふぁーあ……」
欠伸をして目覚まし時計を見ると十時を指してた。夏休みだからだらけて過ごしていながらもどこか空虚な感じがする。何か物足りないと感じるような、それでいてどうでもいいと思えるような感覚。
「美咲ちゃーん」
俺はパジャマのまま起き上がり階段を降りてリビングに移動し、美咲ちゃんを探す。
「なんだ、これは?」
テーブルの上にメモ書きを発見。
メモには、
『ごはんは冷蔵庫に入ってるからチンして食べてください。お買い物に行ってきます。by 美咲』
と記されていた。
「買い物か……」
俺は紙をテーブルに戻しテレビの電源をつける。メモの指示通り冷蔵庫へ向かう。テレビから情報が流れる。台風のニュースを見たかったのに、やっていたのは千葉の海の情報だった。
『千葉の住民の方は近寄らないでください。
画面のなかで暴風のなか黄色のレインコートをきたキャスターが風の音に負けないように頑張って声を張り上げている。俺的には千葉の危険情報なんてどうでもいい。
だって、住んでるのは東京だから。
どうでもいい情報から目を外し、俺は冷たくなった食事を元に戻す作業に集中する。オレンジ色に光る電子レンジのなかクルクル回る朝食。
それを、只々ぼーっと見つめていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「風がつえぇな……」
俺は千葉近郊の海に来ていた。
千葉近郊の海では黒服の男たちが集結して慌ただしく準備をしている。
「あっ、いたいた」
見知った銀髪の姿に近づいていく――
「1番隊は詠唱準備、2番隊強化魔法による支援を開始、迅速に行動しろ!」
嵐が近づく中、海竜王の討伐隊がブラックユーモラスによって組織されている。あっちこっちで隊列を組んで指揮を待っている様子。その姿に懐かしい感じがこみ上げてくる。昔は俺もその場に居合わせていたのだという感覚が蘇る。
俺は助っ人的な役割でここに来ている、ある猫のせいで。
あの校長も気軽に「いってらっしゃいにゃん♪」って、まったく人使いが荒い。
給与と命の値段が見合ってないぜ。
「敵は海竜王! 各自準備を怠るな!」
強風で乱れる髪を抑えながら、風に言葉がかき消されないように声を張り上げて、頼もしく隊を指揮している銀髪の男。俺はにやけながらその男に話しかけた。
「中々さまになってるじゃねぇか。久しぶりだな、
「お久しぶりです、オロチさん!」
強風に負けない様に声を張り上げると嬉しそうに俺を見る。その顔に俺もにやけた面を返す。昔からの仲でもある。だからこそ戦友との、仲間との再会に俺は嗤う。
「ったく、台風と重ねるなんて、とんでもねぇタイミングでパーティを開いてくれるもんだ。主催者の海竜王ってやつは相当暇らしいな」
「タイミングはしょうがないですよ。あっちも予定を選んでくれるわけじゃないですから」
お互い苦笑いをしながら、暗い雲に目を向ける。
これから竜が到来する。
ほっとけば被害は甚大なものになるのは目に見えてる。
だからこそ、、ブラックユーモラスと俺が救援できている。
まぁ敵が竜であろうが、なんであろうが俺には関係ない。
ただ、どこか討伐対象が竜であると思うと――
吹きすさぶ風を前に嵐の様な男のことを思い出す。
――ったく、何をやってんだ。
――
――息子ともどもふざけやがって。娘だけだな、あの家族は。
――お前は、今どこで何やってんだよ
――
俺の呼びかけに答えたのは晴夫でなく、
「きたか……」
遠目でもハッキリそれは視認できる存在。
周りを海鳥たちが威嚇するように飛んでいる。激しく動き海をかき分けるように白い線をいくつも作っている、揺るぎない巨大な黒い山。荒れ狂う海に黒い山がそびえ立つ。
その姿は荒れた海にハッキリと存在を誇示している。
「パーティの主役が――」
台風の原因となっている、黒い鱗で体を覆った海竜王の姿。
◆ ◆ ◆ ◆
今日は台風がくるから早めにお買い物をすまそうと、スーパーで色々な食材を
「あら、美咲ちゃん。お買い物? 偉いわね~」
「こんにちわ、佐藤のおばさま。今日は台風なので早めにお買い物に来ました」
「若いのに相変わらずしっかりしてるわね」
佐藤のおばさま。いい人です。いつも優しく頭を撫でてくれます。
「えらい、えらい♪」
スーパーというのは出会いの場でもあり素敵な社交場でもあります。毎日通うとたくさんのお知り合いができてうれしいです。主に年上の方が多くみんな優しく接して下さり生活の知恵を授けてくれます。
「わっ、何の音!」
頭を撫でられていると突然私の携帯が、
「佐藤のおば様すみません、私の携帯です」
けたたましく緊急警報を鳴らしたので、
すぐさま取り出しメールを確認しました。
「これって――」
「美咲ちゃん、何かあったの?」
「おばさま、まだわかりませんが早く買い物を済ました方がいいかもしれません!」
メールには『マカダミアキャッツ高校の生徒はすぐに校舎に集合されたし』と記載されていました。何か良く無い予感がします。美咲の勘は当たります。
私は買い物を途中で切り上げて買い物袋を持ったまま急いで学校に向かいました。自分の教室につくと全校集会を体育館で行うという話でした。
——なんだろう……。
指示通り移動すると体育館の中では生徒達が不安げに雑談し、教職員が慌ただしく走り回って準備をしています。生徒がざわついてる中を歩いていくと、
「美咲、こっち、こっち!」
飛び跳ねるようにして合図をしている赤い髪の子と合流しました。
「美咲、あたし……なんかイヤな感じがするよ……」
「昴ちゃんも……私もなんか嫌な予感がするよ」
緊急での夏休み中の集合。何か重苦しい天気も重なりどこか皆ざわついている。
「先生達もなんか慌ててるし」
「みんなの顔つきが険しいしね……」
不穏な空気に包まれた体育館。風が強く吹き、
体育館の窓がガタガタと揺れる音を体育館内に不気味に響かせる。
一体、何が起こっているのか。
そして、これから何が起こるのか――
何が起きているかわからない体育館の慌ただしい空気と昼間なのに暗い景色に息がつまる。何か普通ではない状況を理解できずに時間だけが過ぎていくなか、わからないということで私の心は不安で満たされていった。
◆ ◆ ◆ ◆
俺がテーブルで食事をしていると、携帯に意味不明なメールが届いた。
「バカじゃねぇの……」
夏休み学校来いとか……いかねぇし……
どうせ魔物討伐だろうな。わかってるよ。
俺は無益な
「あぁー、アホらしい……」
俺は美咲ちゃんの作った肉じゃがをほおばりながら、携帯の画面を閉じる。
あらかたの予想はついている。
千葉で海竜王とかいうアホをブラックユーモラスが相手にしている状況。
他で何か起きれば補充要員が必要になる。そこで白羽の矢が立つのがマカダミアキャッツ学園。関東の有力な候補生を集めているのだから、うってつけだ。
おまけに魔物退治に情熱がある学生達。
ただ働きさせるには持って来いの人材だろう。
ただ残念ながら、俺という異分子がいることを想定してないみたいだが。
「食った、食った」
アホなメールを無視し食事を終え、口に箸を咥え椅子をユラユラさせながらリラックスする。台風が強くなってきてるから心配になる。買い物は大丈夫だろうか。
「帰ってきたか」
食後の休憩を堪能しているとチャイムがなったので玄関に向かった。まぁ、十中八九、美咲ちゃんだろう。買い物にいったから手荷物が多くて扉が開けられないかだな。
「美咲ちゃん、おかえり。なんか不幸の手紙に続いて不幸のメールまで来たから、家にいた方がいい――」
予想外の相手が居たことに俺は虚をつかれその姿を眺めた。
「……よ?」
「強ちゃん――」
雨が降り出していた中、傘もささず武装し雨にずぶ濡れの玉藻。
艶やかな髪から水滴を落とし、ピンク色のふりふりした魔道服を身に
これが玉藻の戦闘服であろうことはわかった。
コイツも俺と同じ何かの間違いでマカダミアキャッツに来てしまったやつ。
そしてメールを見てしまったのだろう。
そこからはいつも通りのアグレッシブ勘違いだ。忠告せねば。
「玉藻、お前も行かず家にいた方がいい。今回は魔物討伐だ、どーうみても。ブラックユーモラスが千葉にいってる。お前はまだ学校に来て日が浅いから知らないかもしれないがこういう時にマカダミアに討伐依頼がくる。きっと市内の近くで魔物が発生したから、それの討伐しろってことだ」
金にもならない、暇つぶしとも言えない、仕事。
参加する方がバカげている。
「回復役なら他にもたくさんいる。お前が行ってもあんま意味がねぇぞ」
俺の言葉を受けてステッキを両手で力強く握りしめ、
「意味ならあるよ!」
凛とした姿で玉藻が答えた。
「…………」
俺は眉を顰めて言葉を失う。透き通るような目に意志の強さを感じさせる。そこに居たのは普段ののほほんとした玉藻とは違った。それは如実に俺に分からせた。これは異世界を救って帰ってきたやつの姿だと。
戦う覚悟の決意を固めたやつの目。
その姿に俺は言葉を失ってしまったのだ。
俺は無鉄砲な輩を知っている――コイツだ。
そんなに
「強ちゃんは避難してて!」
だって、玉藻なのだから――
「私が強ちゃんを絶対守るから、絶対!!」
止めることを諦めた俺にそう言い残すと、雨の中勢いよく走っていくアホな女がいた。その姿を呆然と見えなくなるまで見つめて。いなくなるまで見てしばらく立ち尽くして玄関の扉を閉めリビングに戻る。
「何が避難だよ……」
——避難場所がここだっていうのに……。
リビングで立ったまま視線を床に落とした。何かを言いたかったのに、何かをしたかったのに、ハッキリと分からずに悶々としていた。
——あぁ……うざってぇ……
ソファーに横になりながら不満で頭が埋め尽くされていく。
「なんだよ……」
俺は忠告したんだ。やめとけって。アイツはいつもそうだ。
俺の話を全然聞かないし、俺のことを全然分かっていない。
勘違いして突っ走って、メチャクチャにする……俺を。
「だぁああ……くそっ!」
ソファーでむしゃくしゃして頭を掻きむしる。俺と玉藻の付き合いはさかのぼれば三歳からの付き合い。五歳からはずっとそばにいた存在。それが当たり前だった。俺は一回だけ血迷って玉藻に『ずっと一緒にいよう』なんて言ったこともある。
けど、それは――
間違いだ、今ならわかる。
俺は普通じゃないから……異世界に俺はいけなかったんだ。
俺が望んだ異世界に――
俺に守られる意味はない。
俺はひとりでいいんだ。
俺はひとりがいいんだ――
《つづく》
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